表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/207

169 夜の逃走

「それで、逃げられたってこと? まぁ、馬だから仕方がないか! とりあえず、さっきの人たちは、カレンが追ってくれているみたいだし、大丈夫でしょう!」


 アリアたちは、山賊に逃げられたことを、正直に話す。

 対して、ミハイルは、あまり気にしていないようだ。

 カレンが追っているためである。

 

 本来、目撃者を逃がすのは、よろしくない。

 敵に情報を与えてしまうからだ。


 潜伏している場合などは、特に見つからないよう気をつけなければならない。

 軍人はもちろん、民間人にも、である。


(良かった! 団長、そんなに怒ってないみたいだ! まぁ、カレンさんが追ってくれているなら、大丈夫だろう! 本気を出したら、馬より速いかもしれないし。うん? 馬より速い? 改めて、カレンさんは規格外だよな。どれだけ修練しても、あそこまでの強さに到達できる気がしない)


 ミハイルの笑顔に、アリアは安心をした。

 他の面々も、怒られると思っていたので、嬉しそうな顔をする。


「とはいえ、いつもでも、ここにいたらマズいよね! さっきの人たちが、援軍を連れてくるかもしれないし!」


 ミハイルは、日が沈みかけている空を見上げた。

 もうすぐ、夜が訪れる。


「君たち、夜道に迷わないで、馬車を動かせる? 多分、移動しておかないとマズいからさ! 野営しても良いけど、包囲されるのは勘弁してほしいよ!」


 ミハイルは、できるかどうかを確認した。


「一応、私は大丈夫だと思います。ただ、森の中。しかも、夜道なので、間違える危険性はあります。それに、敵の待ち伏せに気づかないかもしれません」


 ステラが、真っ先に声を上げる。


 暗い森。

 加えて、敵の襲撃の警戒。

 中々、難しいものであった。


 馬を走らせながら、周囲に気を配る必要があるからだ。


(私も、やれと言われればやるけど、正直、自信はない。まだ、昼間だったら、いけそうな気もするけど、夜だからな。日中と比べたら、難易度は段違いだよ)


 アリアも、自信のなさそうな顔をする。

 エドワードたちも、あまり良い反応はしていない。

 馬に慣れている2組の学級委員長でさえ、である。


「やっぱり、そうだよね! まぁ、近衛騎士の中でも、安心して任せられるのは、少ないからさ! 経験が浅い君たちでは、難しいと思ったんだよ! よし、分かった! 僕が馬車を動かすよ! たまには、やらないとね! 寝るのも飽きたし、任せてよ!」


 ミハイルは、元気な声で申し出る。


「いや、さすがに、団長にやってもらうのは……」


 エドワードが、言葉を濁す。


 正直、やってくれるのは、ありがたい。

 ただ、現役の将官にやってもらうのは、恐れ多いことである。

 それに、後で知られたら、かなりマズいことになりそうでもあった。


「大丈夫、大丈夫! フェイとかバールとかには、言っておくからさ! 僕がやりたかったって言えば、彼らも何も言えないハズだよ! それじゃ、時間も勿体ないし、馬車に乗ってよ!」


 ミハイルはそう言うと、馬のいるほうに歩いていった。


(運が良いと言えば、運が良いのか? 団長だったら、道も間違えないし、待ち伏せにも気づくだろう。ただ、現役の将官にやらせて良いことなのか、これは? いや、ダメだろう……もっと、訓練しないとな)


 馬車に乗りこみながら、アリアはそんなことを考えてしまう。






 ――4時間後。


 辺りは、すっかり暗闇に包まれていた。

 馬車の中は、明かりとかないので、外と変わらない暗さである。

 そんな中、アリアは眠らないで起きていた。


「アリアさん、眠っておいたほうが良いですよ。さっきの戦闘で、それなりに疲れていますし」


「ステラさんこそ、寝なくて大丈夫なんですか?」


「いや、襲撃がくるかもしれないので、一人は起きておいたほうが良いなと思いまして」


「さすがですね、ステラさん。私は、単に、団長が馬車を動かしてくれているので、なんだか恐縮してしまいまして」


 馬車のガタゴトが響く中、二人は会話をする。

 今のところ、順調に旅路は進んでいた。


 先ほどの襲撃がウソかのようである。


「まぁ、たしかにそうですよね。現役の将官に動かしてもらっているんですから。本当は、私たちがやらないといけないことですよ」


「ですよね。なので、日が昇り出したら、交代交代で馬車を動かしましょう。さすがに、日中であれば、大丈夫だと思います」


「それが良いですね。団長には休んでいてもらいましょう。とりあえず、私たちが、今できるのは、襲撃に対しての心の準備くらいですか」


 ステラは、馬車の中から、窓越しに外を見る。

 暗くて、よく見えないが、木の輪郭が流れていっていた。

 馬車が動いている証拠である。


「とにもかくにも、このまま、何も起きなければ良いのですが……」


 アリアは、夜明けが待ち遠しかった。

 ただ、夜は長い。


 夜明けには、それなりの時間が必要である。

 何も起きないことを祈ってはいたが、そこは軍人。


 現実的に考えてしまう。


(まぁ、追ってはくるだろうな。仲間をやられて、みすみす逃がすワケがない。しかも、こっちの素性はバレているし。とはいえ、私服で動くワケにもいかないからな。軍務で赴いているのに、私服だったら怪しまれる。検問所とか通れないよ、素性が怪しいから。各検問所から、王都ハリルに連絡がいく都合もある)


 アリアは、馬車の走る音を聞いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ