168 戦場における流儀
馬車から降りたアリアたち。
眼前には、戦闘体勢を整えた山賊。
もとい、エンバニア帝国の軍人らしき人たち。
にらみ合いが続く中、先に仕掛けたのはエレノアであった。
「さっさと終わらせますの! にらみ合いをしていても、仕方がありませんわ!」
などと言って、走りだす。
その姿を見た軍人らしき人たちに、動揺が広がる。
まさか、何の脈絡もなく動くとは思っていなかったらしい。
「エレノアと同意見なのは気に入りませんが、にらみ合っていても、しょうがないのは事実。先手を取ってしまいましょう」
エレノアが動くと同時に、ステラも走り出す。
「お前たち! くっ! この場面で先手を取るのは、良くない気がするが、しょうがない! 行くしかないな!」
エドワードは、静止の言葉を飲みこみ、駆け出した。
学級委員長三人組も、後に続く。
「はぁ……こうなったら、行くしかありませんわ。死なないように頑張りますの」
サラは、イマイチ、やる気がでないようだ。
ただ、気は抜いていないのか、動きはきびきびとしている。
(……なんで、ローマルク王国に入っただけなのに、戦闘が始まるんだ。治安が悪いよ。本当に、上のほうの人って、大切なんだな。まともに機能していないだけで、これだもん)
剣を構えながら、アリアは、そんなことを考えてしまっていた。
「決して、気を抜くな! 来るぞ! 散開!」
敵の指揮官と思わしき人が、大声を出す。
瞬間、アリアたちに備えるべく、数人が動きを見せる。
「おーっほっほっほ! 先手必勝ですわ! 真っ赤に燃え尽きなさい!」
動いている敵に向かって、エレノアは左手をかざす。
と同時に、炎の球が飛んでいく。
(あ。あの人、完全に油断してたな。エレノアさんの魔法を避けるのは無理だろう、あの体勢では)
アリアは走りながら、敵の一人を視界に入れる。
剣を持った敵ではあったが、まだ来ないと思っていたらしい。
飛んできた炎の球に対して、完全に反応が遅れてしまっていた。
結果、
「ぐわあああああ! 火が火がああああ!」
などと叫びながら、地面を転がってしまう。
なんとかして、火を消そうとしているようだ。
そんな姿を見た敵に、またしても動揺が広がる。
「ひるむな! 魔法を使う奴を優先的に狙え! 剣術は大したことないハズだ!」
一瞬ひるんでいたが、敵の指揮官はすぐに指示を出す。
その声に、数人の敵は我に返る。
すぐに、三人の敵がエレノアに向かっていく。
「あわわわわ! 何で、ワタクシ一人に三人も来ますの! 卑怯ですわ!」
エレノアは左手をひっこめ、両手で剣を持つ。
アリアたちから、突出していたため、狙われやすい位置ではあった。
一番最初にエレノアのもとに到着した敵は、上段から剣を振り抜く。
「ステラ以下の斬撃ですわね! そんなのに当たる、ワタクシではありませんの! なめないでほしいですわ!」
対して、エレノアは、斬撃を半身で避ける。
と同時に、その勢いのまま、体を回転させた。
エレノアの横なぎが、どんどんと敵の首元に吸いこまれる。
敵のほうも、なんとか、首をそらして避けようとしていた。
だが、仮にも近衛騎士であるエレノアが、予測していないワケはなかった。
剣の動きを、さらに速める。
結果、声を上げる間もなく、首と胴体が別たれてしまう。
「うっ! こいつ、魔法兵ではないのか!? 剣術も、相当やるぞ!」
エレノアに向かっていた敵の一人が、立ち止まる。
もう一人も、焦った顔で、急停止していた。
「まぁ、魔法兵が、あれだけ剣を振れたら驚きますよね。その気持ち分かりますよ」
ステラは、エレノアの後ろからいきなり現れる。
当然、エレノアに驚いていた敵は、反応できない。
下段から迫ってくる剣は、そのまま体を斬り裂いた。
「ステラらしい卑怯な手ですわね! 人の影から攻撃するなんて! 流儀がないんですの?」
エレノアは、固まっていた敵を倒しつつ、そう言った。
「流儀? 戦場に、そんな美学はいりませんよ。正々堂々と戦ったとしても、死んだら、それまでです。殺すか、殺されるかの戦場に、キレイとか汚いとかありません。そんなのにこだわるのは、馬鹿がやることです」
「ふん! いかにもな言葉ですわね! もう、話すだけ無駄ですの!」
「奇遇ですね。私も、同じことを考えていましたよ」
エレノアとステラは、それきり、会話をせず、敵に向かっていく。
「……近衛騎士の力が、ここまでとは。突出してきた二人でも、これだ。残りの者も、匹敵するだけの力はあるか……勝てる相手ではない」
敵の指揮官は、ポツリとつぶやく。
周りにいた敵も、指揮官に対して、必死の形相で訴えかけている。
「撤退だ! 味方のいる場所まで下がれ!」
大声を上げたかと思うと、敵は、近くにいた馬に乗って逃げ出す。
(うわ! マジか! 逃げるのか! 相手は、馬だし、さすがに追いつけないぞ!)
アリアは、頑張って、走り続ける。
だが、みるみるうちに、距離が離されてしまう。
馬に乗り損ねた何人かは討ち取れたが、結局、大半は逃がしてしまった。
「さすがに、馬に追いつくのは無理ですかね。戻りましょう」
立ち止まったステラは、肩で息をしている面々に声をかける。




