166 治安が悪い
「う~ん、美味しいですわ! やっぱり、疲れているおかげですの! 疲労は最高のスパイスですわ!」
エレノアは、ハフハフしながら、猪鍋を食べている。
4月ではあるが、まだ、夜は寒い日も多い。
そんな日に食べる猪鍋は、最高であった。
「エレノア! 団長の血抜きとカレンさんが持ってきてくれた山菜のおかげだろ! しかも、僕たちは、ただ馬車に乗っていただけだ! 疲れる要素なんて、1ミリもなかったぞ!」
すかさず、エドワードはツッコむ。
今日一日、馬車は、カレンがずっと動かしてくれていた。
なので、アリアたちは、乗っていただけである。
「うるさいですわよ! ただ、乗っていただけでも疲れましたの!」
「いや、グースカ寝ていたのに、疲れているワケがないだろう! いびきがうるさくて、全然、寝れなかったぞ!」
エドワードは、文句を言う。
馬車に乗っている間、エレノアは、座りながら寝ていた。
しかも、いびきをかいて、である。
控えめに言っても、淑女の姿ではなかった。
「ウソは良くないですわよ、ウソは! 一流の淑女であるワタクシが、いびきなんてかくワケありませんの! 口からでまかせですわ!」
エレノアは、信じようとしない。
なので、エドワードは、さらに説明をする。
そこからは、言い争いになってしまう。
(まぁ、たしかに馬車に乗っているだけでも、少しだけ疲れはするかな。体はほとんど動かしていないのに、何で疲れるんだろう? まぁ、それはいいや。とりあえず、猪鍋を堪能しよう。エドワードさんとエレノアさんの不毛な争いは無視だ、無視)
何事も起きていないかのように、アリアは食事を続けていた。
それから、1時間後。
食事と後始末を終えたため、各自の自由時間となる。
ただ、何もすることがないので、天幕の中で眠る者がほとんどであった。
眠っていないのは、見張りの二人だけである。
今日に関しては、ステラとアリアであった。
「まだ4月とはいえ、夜は寒いですね。焚き火と防寒着がなかったら、外にいられないですよ」
アリアは、軍服の上に防寒着を着ている。
加えて、焚き火の温かさもあったので、まだ耐えられていた。
「長時間は厳しいでしょうね。まぁ、明日以降は、天幕で寝られる日も多いので、今日のところは頑張りましょう」
「とりあえず、二人とも寝ないようにしないといけませんね。馬車で寝たので、大丈夫だとは思いますけど」
アリアはそう言った後、ふわぁとあくびをする。
馬車で移動中、乗っている面々は、寝たり起きたりを繰り返していた。
ずっと寝ていたのは、ミハイルくらいである。
ただ、それでも、日頃の疲れが出てしまう。
近衛騎士団での勤務は、非常に厳しい。
しかも、アリアたちは、士官である。
訓練計画の作成に加え、自分たちで武術練成をしなければならない。
そのため、空いた時間で、訓練をしていた。
なので、疲れているのが現状であった。
「久々に、あんな長時間、寝ましたね。おかげで、かなり疲れはとれた気がします。ただ、何もしていないと寝そうです。もう、完全に癖になっていますね」
「本当ですよ。多分、病気の名前は、座ったら寝る病です。手とか動かしていれば寝ないんですけどね。座学とかは、完全にダメです。レイル士官学校でも、何回か、熟睡していましたね」
「しょうがないですよ。体が休みをほしがっているんですから。自然現象に勝つのは、並大抵ではありませんよ」
アリアとステラは、寝てしまわないように話を続ける。
そんなこんなで、10分後。
二人は、これからのことについて話していた。
「ローマルク王国が、思っていたよりも危険地帯なので、ビックリしました。ミハルーグ帝国が主導しているのに、治安は回復できていないみたいですね」
アリアは、書類を読んだため、ある程度の情報は頭に入れている。
「エンバニア帝国の工作員のせいですよ。意図して、治安を悪化させていますから。国中、工作員だらけで、ハリル士官学校の教育なんて、できるんですかね?」
ステラは、素直に疑問を口にした。
「なんか、士官候補生の中にも、工作員が紛れていそうですよね。詳しい経歴とか、いくらでも詐称できそうですし。どうせ、ローマルク王国内に協力者がいるので。正直、教育するのも一苦労な気がします」
「ですよね。しかも、他国から士官を呼び寄せるなんて。狙って下さいと言っているようなものです」
「実際、闇討ちされたら厳しいですよ。防ぎようがないですから。気を張っていたとしても、やられてしまいそうです」
「まぁ、狙われたら厳しいですよね。なるべく、固まって動くくらいしか、対策方法はないと思います。それか、団長がなんとかしてくれるか、しかないですよ」
ステラは、アリアの意見に賛成をする。
就寝中、食事中など無防備なところを狙われては、ひとたまりもない。
いくら近衛騎士といっても、対処には限界があった。
不安は、中々、尽きないようである。
それだけ、ローマルク王国の状況が悪いことの裏返しであった。




