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162 話が違う

「あ! そういえば、僕もハリル士官学校に行くからさ! あとの仕事は頼んだよ!」


 近衛騎士団の団長室。

 突如、ミハイルは、衝撃の事実を発言する。


「え!? 聞いていませんよ! ハリル士官学校に行くのは、アリアたちだけではないのですか!? なぜ、団長まで行くことになっているんですか!?」


 副団長は、思わず、大きな声を上げてしまう。

 まったく、話を聞かされていなかったからだ。


「あれ? 言ってなかったかな? 僕は、ハリル士官学校の副校長として、行くことになっているんだよね! なんでも、ハインリッヒ大将。あ、違う! ハインリッヒ上級大将が、副校長には僕が良いって指名したみたいだよ!」


 ハインリッヒ・フォン・グラナック。

 ローマルク王国防衛戦の折、総指揮官を務めた男性である。

 そのときの功績が認められ、ミハルーグ帝国の上級大将になっていた。


「それ、受けたんですか!?」


「受けるしかないでしょう! 現状、アミーラ王国は復興中! そのための資金とか物資を、ミハルーグ帝国は援助してくれているからね! それに、エンバニア帝国がアミーラ王国に侵攻してきたら、援軍を要請せざるを得ないでしょう? だから、ご機嫌を損ねても仕方がないよね?」


 ミハイルはそう言った後、手を上げて、首を振る。


 現状、ミハルーグ帝国は、アミーラ王国に対して、少なくない援助をしていた。

 アミーラ王国の弱体化を避けるためである。


 エンバニア帝国と対抗するためにも、アミーラ王国は必要な存在であった。

 もし、弱体化して、攻め滅ぼされることがあれば、エンバニア帝国の力が増大するのは明らかである。


 翻って、アミーラ王国も、エンバニア帝国に対抗するためには、一国だけでは難しい。

 どうしても、ミハルーグ帝国からの援軍が必要であった。


「たしかに、それはそうでしょう! ただ、団長が副校長になる必要がありますか? もっと別の人でも良いでしょう!」


「なんでも、ハインリッヒ殿が、ハリル士官学校の学校長の任命されたときに、副校長は僕が良いって言ったみたいだよ! まぁ、東部戦域軍の総司令官だからさ! 忙しいよ! だから、実務上、ハリル士官学校の運営は、僕にやらせたいみたいだね! 他国の将官に信頼されて、嬉しい限りだよ!」


 ミハイルは、笑顔で答える。


 ハインリッヒは、ローマルク王国の西側を含む、東部戦域軍の総司令官であった。

 なので、ハリル士官学校の学校長だけに専念できるワケではない。

 そもそも、兼務で学校長の仕事をするのは無理な話であった。


 上級大将を学校長に据えたという、象徴的な意味しかないのが実情である。

 そのため、実務的なことは、ミハイルが取り仕切ることになっていた。


「断れないので、団長が副校長になるのは、しょうがありません。ただ、あまりにもローマルク王国を軽んじている気がするのですが? ローマルク王国の士官学校なので、普通、ローマルク王国出身の将官を配置しませんか?」


 副団長は、一転、難しい顔になってしまう。


「ハインリッヒ殿は、ローマルク王国の将官を信用していないみたいだね! まぁ、国があんなになるまで、内輪もめしていた人たちだしね! 信用に値しないよ! まぁ、中には、有能な人もいるだろうけどさ! ただ、その人も、ミハルーグ帝国を恨んでいる可能性があるしね!」


 先のローマルク防衛線の折、王国中央部のダルム要塞への攻撃は、陽動であった。

 そのときに動員されたのが、ローマルク王国軍である。

 

 ダルム要塞は、堅牢な要塞であった。

 当然、ローマルク王国軍は、壊滅状態となる。

 陽動のための捨て石とされたのだ。


 心ある将官であれば、ミハルーグ帝国を恨んでいても、おかしくはない。

 他国の主導で、自国の国民が捨て石にされたからだ。


「たしかに、私も、ローマルク王国の将官と同じ立場であれば、恨むかもしれません。ただ、アミーラ王国も同じことになるかもしれないので、他人事とは思えませんよ」


「まぁ、利用する価値がないと判断されれば、エンバニア帝国にぶつける捨て石にされるかもね! とはいえ、アミーラ王国は、ローマルク王国と違って、ある程度、自力で戦えるからさ! ミハルーグ帝国からとってみれば、援助だけしていたほうが楽な気がするよ!」


「戦えるうちは、自分たちで戦えということでしょう。それに、もし、アミーラ王国がエンバニア帝国についたら、大変なことになりますからね。まぁ、可能性は低いでしょうが。そうなった場合、今の貴族や王族は、タダでは済まないハズですし」


 副団長は、思案顔で分析をする。


「まぁ、上手くいけば、生かしてもらえるけど、大体は殺されるだろうね! 新しく作り直すのに、旧体制の人物とか邪魔でしかないから!」


 実際、占領された国において、権力者が処刑された例は多くあった。

 まさに、歴史が語っている通りである。

 上手く立ち回った者は生かしてもらえる可能性が高い。


 ただ、新体制の邪魔になる者は、消されてしまう。

 歴史上、何度も繰り返された光景であった。


 特に、エンバニア帝国の現皇帝、アウグスト・エンバニアは容赦のない人物と知られていた。

 そもそも、レイタンシア会戦の敗戦後、内乱を引き起こし、皇帝になった人間である。

 実の父を討って、であった。


 エンバニア帝国を憂いての行動であったが、その際の貴族の処刑は凄惨を極めていた。

 そのような人間が、アミーラ王国の王族を生かす可能性はゼロに近い。

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