150 やっぱりボロイよ!
――アリアたちがレイテルの砂浜を出発してから、5分後。
「ああああああああ! やっぱり、全然、駄目ですの! 船を漕いでいるそばから、水が入ってきますわ!」
「エレノア! 文句を言っている場合ではありませんわ! 船に入ってくる水を、なんとかしますの!」
エレノアの絶叫に対して、サラも大声で返す。
今、アリアたちは、危機的な状況に陥っていた。
「はぁ……やっぱり、この船では無理がありましたかね。少し漕いだだけで、穴が開いてしまうなんて。まぁ、文句を言っても仕方がないですけど」
「頑張りましょう、ステラさん! とりあえず、飛んでくる矢をなんとかしないと!」
ステラとアリアは、6隻の船から飛んでくる矢を懸命に叩き落す。
そんなアリアたちの近くでは、エドワードと学級委員長三人組が、汗をかきながら船を漕いでいた。
「ちょっと、貴方たち! もう少し、頑張りますの! このままだと、近づく前に船が沈みますわ!」
「こっちも必死でやっているんだ! エレノアこそ、水を何とかしてくれ! このままだと、本当に沈んでしまう!」
エドワードは、必死の形相で、エレノアに言い返す。
学級委員長三人組はというと、言い返す余裕もないのか、一心不乱に漕いでいる。
(……これ、たどり着く前に沈む気がする。だって、船の半分くらい水に浸かっているものな。エレノアさんとサラさんが、頑張って、桶で水をくみ出してはいるけど、間に合ってないし。はぁ……また、水泳か……)
逃げている船を見ながら、アリアは悲しい気持ちになってしまう。
――10分後。
なんとかして船を漕いでいたアリアたちであったが、とうとう、限界を迎えてしまう。
「もう、無理ですわ! ワタクシ、お先に失礼しますの!」
などと言ったエレノアが、真っ先に、海に飛びこむ。
「エレノア! ああ、もう! 飛びこむしかありませんわね!」
水がタプタプになった船で、サラも覚悟を決める。
エレノアが飛びこんでから、すぐにサラも飛びこむ。
(……もう、さすがに無理だよな。だって、船が浮かんでいるというか、海面と同じ位置にあるものな。まだ、逃げている船まで距離があるのに……飛びこむしかないか……)
そんなことを考えてしまったアリアも、船からピョンとする。
ほどなくして、ステラ、エドワード、学級委員長三人組もザパンとしていた。
「皆さん! とりあえず、頑張って泳ぎましょう! 追いつけない気もしますが、諦めてはいけません!」
矢が降り注ぐ中、アリアはそれだけ言うと泳ぎ始める。
もちろん、潜水を併用してであった。
海面に顔を出していると、矢が当たる可能性があったためである。
他の面々はというと、返事をする余裕がないのか、さっさと泳ぎ始めたようであった。
(とは言ったものの、実際、厳しいよな。というか、相手は帆船だし。風の力で進んでいる船に、人力で追いつくこと自体が無理だろう。ましてや、今なんて、水泳で頑張っているワケだし。余計、無理な気がする。実際、逃げている船から矢とか飛んでこなくなったしな)
太陽の光を受け、キラキラとしている海の上で、アリアはそんなことを思ってしまう。
それから、しばらくすると、アリアたちは泳ぐのをやめていた。
「やっぱり、水泳では無理だろう。どう考えても、進む速度に違いがあり過ぎる。もう追いつける気がしないな」
エドワードは立ち泳ぎをしながら、アリアたちに話しかける。
学級委員長三人組も、立ち泳ぎをしつつ、賛同の声を上げていた。
「確かに、エドワードさんの言う通りですね。実際、離されるばかりですし。もう、帰りましょうか」
ステラは、いつも通りの顔で撤退を提案する。
「……それが良いですわね。さっさと帰りましょうですの」
疲れ切ったエレノアは、ステラの案に賛成をした。
そんな中、待ったをかける人物が現れる。
「いや、もうちょっと、粘った方が良いと思いますわ。それで船が見えなくなったら、帰るというのは、どうですの?」
「私もサラさんの案に賛成です。今、帰ったら、船が見えるのに諦めたのかって言われそうですし。とりあえず、ゆっくり泳いでおきましょう」
サラとアリアは、軽く腕を動かしながら、提案をした。
そこから、全員で、どうすべきかの話し合いが始まる。
だが、中々、話し合いはまとまらない。
そうこうしているうちに、追っていた船は見えなくなってしまう。
「もう、話し合う必要はありませんね。それでは、帰りましょうか」
ステラは、船が見えなくなったのを確認した後、レイテルの方へ泳ぎ出す。
アリアたちも、何も言わずに、泳ぎ始めた。
そんな中、アリアたちの眼前に、10人は乗れそうな船が数隻見えてくる。
(アミーラ王国軍の船かな? もしかして、私たちを回収するために来てくれたのか? それだったら、嬉しいけど、どうなんだろう? というか、凄い速度が出ている! 帆船とはいえ、あそこまで速度が出るものなのか!?)
アリアは、近づいてくる船を見ながら、そんなことを思う。




