149 小舟
「はぁ……この状況で、民間人を盾にしてどうするんですかね。どの道、死ぬのは変わりないのに」
突如、アリアたちの視界に、黒い影が舞い降りる。
と同時に、反乱軍兵士の右腕が、おかしな方向に折れ曲がった。
「グァァァァ! 何が起こった!? 俺の腕がああぁぁああ!」
反乱軍兵士は、ワケが分からないのか、叫びだしてしまう。
その際、右腕を抑えたため、民間人は解放された。
もちろん、民間人は命からがら逃げていく。
「さて、無事に逃げたみたいですし、もう終わりにしましょうか」
黒い影ことカレンは、つまらなさそうに反乱軍兵士を見ている。
その後、持っていた剣で、首をはね、命を終わらせていた。
ゴロゴロと、通りに苦悶の表情を浮かべた首が転がっていく。
その様子を見た後、アリアはカレンの方に顔を向ける。
「カレンさん、助かりました! 人質だった人も逃げられたみたいですし、本当に良かったです!」
率先して、アリアはお礼を言う。
その後に続いて、サラ、エレノア、フェイ、近衛騎士たちもお礼を口にする。
一通り、お礼も終わると、ステラが発言をした。
「それで、カレン。わざわざ、こんな場所で何をしていたんですか? 父上の近くで動いているハズでは?」
「もちろん、お傍で動いていましたよ。ただ、近衛騎士団長が、どうしてもお嬢様方を連れてきてほしいと言ったので、お連れにきた次第です」
「なるほど。理由は何ですか?」
「理由は分かりませんね。とりあえず、お嬢様方、ついてきてください」
カレンはそう言うと、どこかへ向かって走り出した。
ほぼ同時に、ステラも走り出す。
(一体、団長は、何で私たちを呼んだのだろう? まぁ、十中八九、面倒事だろうけど。今まで、団長に呼ばれて、ロクなことがなかったからな。とりあえず、無理難題を言われても大丈夫なように、心の準備だけはしておくか)
もう慣れてしまったアリアは走りながら、そんなことを思う。
――5分後。
カレンに置いていかれないよう、全力で走ったアリアたち四人は、レイテルの砂浜に到着していた。
もちろん、汗だくである。
カレンはというと、いつも通りの顔であった。
汗すら流れていない。
「おお! 待っていたよ、君たち!」
息を切らしているアリアたちに、ミハイルが声をかける。
近くには、レナードもいるようであった。
それと、エドワード、学級委員長三人組もである。
「ハァ、ハァ、ハァ……団長、一体、何のようですの? 今の状況で、わざわざ、ワタクシたちを呼びだす必要があるとは思えませんわ」
息を切らしながら、エレノアは質問をした。
「いやいや、ちょうど良いと思ってね! とりあえず、あれを見てよ!」
ミハイルは、いつも通りの笑顔で、海の方に指を差す。
(……離れた場所に、6隻くらいの船が見えるな。反乱軍に味方した貴族でも、乗りこんでいるのかな? というか、あの船を追えとか言わないでくれよ。どう考えても、泳いでいる間にやられるからな)
怪訝な顔で、アリアは船を見つめていた。
もちろん、他の面々も、あまり良い表情ではない。
そんな中、サラが口を開く。
「……団長、もしかして、あの船を追えということですの?」
「お! さすが、サラ! 察しが良いね! これも良い経験だと思ってさ! 君たちに、逃げた貴族たちを追わせようと思ったワケ!」
「…………」
ちょっと意味が分からなかったので、サラは黙ってしまう。
他の面々も、ステラを除いて、ドヨンとした雰囲気を出している。
見かねたミハイルが口を開く。
「大丈夫、大丈夫! さすがに、泳いで追えとは言わないからさ! あの小舟を使って、何とかしてきてよ!」
「……小舟というのは、もしかしなくても、あれですよね?」
今まで黙っていたエドワードが質問をする。
「もちろん! まぁ、ちょっとボロボロだけど、大丈夫でしょう! 小舟を漕ぐための木の棒もあるし、心配しないでよ!」
ミハイルは、アリアたちを安心させようとした。
だが、逆効果であったようだ。
(……ちょっと、ではないな。もう見るからにボロボロだよ。これ、海を渡っている最中に沈没しそうだな。というか、ちょっと攻撃されたら、確実に沈没するだろう)
アリアは、普通に嫌な顔をしてしまう。
他の面々も、疲れのせいか、嫌な表情になってしまっている。
ステラを除いてではあるが。
「とりあえず、頑張って! 危なくなったら、小舟から飛び降りて、潜水すれば大丈夫だから! それじゃ、頼んだよ! 早く追いつかないと逃げちゃうからね!」
ミハイルは、有無を言わせずにやらせようとする。
アリアたちはというと、嫌そうな雰囲気を出しながら、小舟に乗りこむ。
それから、1分後。
小舟に乗ったアリアたちは、レイテルの砂浜から遠ざかっていく。
そんな様子を、カレン、レナード、ミハイルの三人が見守っていた。
「あ。そういえば、近くにエンバニア帝国の船がいるみたいだけど、大丈夫かな?」
レナードは思い出したかのように、発言をする。
「大丈夫ですよ! 彼らは、若いですからね! 持ち前のガッツで何とかしてくれますよ! それに、万が一に備えて、カレンの知り合いもいるじゃないですか?」
「ああ、彼女がいるか。それなら、多少は安心できるね」
ミハイルの言葉を聞いたレナードは、納得をした。




