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147 重責

――10分後。


 軍の後方まで下がってきたクルトは、全軍の指揮をするために開設された天幕へ入る。

 アリアたちは護衛であるが、天幕へ入ることを許されたため傍に控えている。


「お疲れ様でした、クルト王子。まだ油断はできませんが、とりあえずはといった感じですかね?」


 開口一番、なぜかいるレナードがクルトに声をかけた。


「まぁ、とりあえずはといった感じだ。それで、レナードの方はどうだった?」


「多少、時間はかかりましたが、アミーラ王国内の反乱分子はあぶり出せたかと思います。もう、すでに私の家の者が捕縛に向かっているので、心配はないかと」


「それは良かった。こちらもほどなくして終わるだろう。ビオリス中将には感謝しかない。嫌だったろう、エンバニア帝国と内通して反乱を起こすなど。だが、これでエンバニア帝国と内通する者は、ほとんど掃討できただろう」


 クルトは言葉とは違い、眉間にしわを寄せている。

 そんなクルトに気づいてか、ダニエルが口を開く。


「クルト王子、今回の采配は不満ですか?」


「もう起こってしまったことだから言っても仕方がないが、不満しかない。確かに、表向きは従っていた内通者を一掃できたのは良かっただろう。ただ、そのために数多くの国民が巻きこまれた。しかも、都市は戦いで荒れてしまっている。もっと良いやり方がなかったのか、今でも考えてしまう」


「クルト王子のお気持ちは分かります。ただ、エンバニア帝国との全面衝突が迫っている今、時間をかけて内通者をあぶりだしていては手遅れになってしまいます。今回の件は、たしかに、少なくない犠牲者が出てしまったでしょう。ただ、将来的に起こりえたであろう犠牲を少なくしてくれたハズ。内通者が多い状況での戦いを避けられたのです」


「分かっている。いくらハリントン家が貴族たちの動向を見張っていたとはいえ、国内に入り込んでくるエンバニア帝国の者たち全てを見張るのは無理がある。しかも、国民への工作も同時進行で行っていた。いざ、事が起こったときに都市で暴動を起こさせるためにな。そのような者たちを掃討できたのも大きいだろう」


 クルトはそう言うと、腰に提げている剣の柄を握る。


「ただ、やはり何も関係のない国民が巻きこまれたというのは、個人的に悔しい限りだ。国家にとって最適なことと個人的な心情は反するものであることが、しばしばあるとはいえ、割り切れるものではない」


「クルト王子。それが国民を導く王というものです。間違いなく、クルト王子は次期国王となられるでしょう。その重責に耐えられないようであれば、王位継承権を放棄すべきです。国民にとっても、それが最良でしょう」


 ダニエルは、一線を越えた発言をした。

 これには居並ぶ者たちも、ざわついてしまう。


「ふぅ。まったくダニエル大将は昔から厳しいな。優しい言葉をかけてくれても良いだろうに。分かった。この話はお終いにしよう。今は、今後どうすべきかを話し合うべきだろう」


 クルトがそう言った後、天幕の中では今後の動きを検討する話し合いが行われる。

 そんな中、アリアたちはというと、天幕の端で軍議の様子を黙って見ていた。


(今回の反乱は仕組まれたものだったみたいだな。まぁ、レナードさんも何かほのめかしていたし、薄々、そんな気はしてた。そうでないと、ダレス防衛ができていた理由とかレイテルがすぐに開門した理由とか、説明がつかないものな。とは言っても、知りたくなかった情報を知ってしまった。本当に軍人になんてなるものではないな)


 表情には出さないが、アリアはそんなことを思ってしまう。






 ――1時間後。


 軍議が終わり、天幕の中にいた者たちは、それぞれの仕事へと移っている。

 そんな中、アリアたちはというと、ミハイルとともに歩みを進めていた。


「とりあえず、クルト王子の護衛、お疲れ様! ここからは自分の部隊に戻って、中隊長の指揮を仰いでよ!」


 近衛騎士団が駐留している場所に向かいながら、ミハイルは元気な声を出す。

 対して、ステラ以外、アリアたちは鉛のような重さを身にまとっている。

 それぞれ、散発的に返事をするばかりであった。


「まぁ、そういう気分になるのも、しょうがないよね。言い方は悪いけど、犠牲が出るのを承知で反乱軍討伐をやっていたワケだから。とは言っても、気に病むとキツくなるから、今は出来ることに集中した方が良い。戦場は答えのない疑問であふれているからね」


 ミハイルは、アリアたちを気遣う言葉をかける。


(まぁ、たしかに団長の言う通りだな。これは考えても仕方がない。私たちにできるのは、出来るだけ多くの人たちの命を救うだけだ。これからレイテルの掃討戦に入るワケだけど、気合いを入れていかないとな。いつまでも、この雰囲気を引きずるのは良くない」


 ミハイルの言葉を聞いたアリアは、頭を切り替えようと前を向いた。

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