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146 レイテル侵攻戦

 ――朝日が差し、周囲が見え始めた頃。


 クルト率いる2万5千の軍は、レイテル近郊まで到着していた。

 傍に控えるアリアからは、レイテルの正門が大きく見える。

 今、突撃の号令が鳴れば、すぐにレイテルへ殺到するだろう。


「ふぅ~。やっと到着した。少しは休めたとはいえ、戦闘をした後、徹夜するのはキツイものだ。まぁ、愚痴を言っていても仕方がないか。それでは行くとしよう」


 クルトはそう言うと、馬を歩ませレイテルの正門へ近づく。

 その傍には、もちろん、アリアたち若手士官がついている。


(うわ! 滅茶苦茶、緊張するな! これで、もしクルト王子が矢に当たって死んだら、私たちの首も飛ぶ! というか、アミーラ王国にとっても大損害だ! ここは気を引き締めていかないとな!)


 冷や汗をかきながらアリアは、正門の上にいる反乱軍兵士に注意を向けていた。

 サラ、エレノア、エドワード、学級委員長三人組も、かなり緊張している様子である。

 対して、ステラはいつも通りの顔で正門の上を見上げていた。


 そんな中、レイテル正門の上に壮年の男性が現れる。


「クルト王子! お久しぶりですな! レイテルへ何しに参ったのです!? ここには、魚介類しかありませんぞ!」


 地に響くような声が轟く。

 まさに、威風堂々たる姿である。

 そんなビオリスに向かって、クルトも負けじと大声を出す。


「相変わらず元気だな、ビオリス少将! この状況でも吠えるとはね! さて、長話は好きでは無いから単刀直入に言おう! 降伏してくれないか? もう戦っても、しょうがないだろう? 確かにレイテルは港湾都市だ! 海路から物資を輸送できれば、粘ることもできるだろう! ただ、それもそう長くは持たないハズだ!」


「その通りですな! ハッハッハッハ! エンバニア帝国からの海上輸送があるといえ、ほどなくして陥落するのは確実か!」


「よく分かっているな、ビオリス少将! なら、降伏した方が良いのは、もちろん、理解しているだろう?」


 クルトは暗に、さっさと降伏するよう促す。


(まぁ、これで降伏するくらいだったら、そもそも反乱なんて起こさないよね。勝てれば良いけど、負けたら死ぬのは確実だし。ただ、レイテルで反乱軍が粘るようだと、他の師団もエンバニア帝国に寝返るかもしれない。それだけは避けないとな。国中で反乱が起こったら、確実にエンバニア帝国も参戦してくるだろうし)


 アリアは正門の上に注意を向けながら、そんなことを考えていた。

 もちろん、ビオリスの動きにも目を向けながらではある。

 そんな折、クルトの降伏勧告を受けたビオリスが言葉を発した。


「ハッハッハッハ! まさか、この儂がこんなセリフを言うことになろうとはな! クルト王子、我らは降伏しますぞ!」


 一瞬、場に静けさが流れる。

 その後、すぐに困惑の空気が流れ始めた。


(うん? 今、何て言った? 降伏する?  あれ、耳、おかしくなったかな? そんなにあっさり降伏しても良いのか? それじゃ、今までの戦いは何だったんだ?)


 理解できない流れに、アリアはサラたちの方に顔を向ける。

 ステラ以外の若手士官の面々も、呆気にとられてしまっていた。

 冷静なステラはというと、いつも通りの顔をしている。


「いや、良かった! これで余計な戦いをしなくて済む! それでは開門してくれるかな?」


 先ほどと表情を変えずに、クルトは大きな声を出す。


「もちろんですぞ! 開門!」


 クルトに負けじと、ビオリスも大きな声を上げる。

 と同時に、レイテルの正門が開いていく。


(えっ、えっ? 嘘でしょう? 正門、開いちゃうの? 本当に降伏するつもりなのか? いや、待て! レイテルへ誘いこんで撃滅する作戦かもしれない! こんなにあっさりいくなんて、絶対におかしい!)


 疑念を抱いたアリアは、クルトの方に顔を向ける。

 当の本人はというと、至って涼しい顔をしていた。

 そうこうしているうちに、レイテルで大きな騒ぎの声が聞こえてくる。


「クルト王子、突撃命令を。開かれた正門が、また閉じられると面倒です」


 喧騒の中、いつの間にか近くにきていたダニエルが進言をした。


「そうだね。それでは突撃するとしよう」


 クルトはそう答えると、頭上に掲げた剣を振り下ろす。

 と同時に、大きな喚声を上げながら、アミーラ王国軍の兵士たちがレイテルへ殺到していく。

 そんな中、クルトはというと兵士の流れに逆らって、馬を後ろに進める。


 もちろん、アリアたちも、その動きについていく。


(なんだか、おかしな感じだな。というか、だまし討ちの可能性とか考えてないのか? このまま突撃して、待ち伏せにあったらヤバいことになると思うんだけど。とは言っても、そんなことを将官クラスの人たちが考えていないワケがないか。とりあえず、私はクルト王子の護衛に集中しよう)


 アリアは浮かんだ考えを振り払うと、クルトの護衛に集中する。

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