145 後始末兼移動
プレミールを完全に掌握してから、3時間後。
負傷兵の治療やら、反乱軍が残っていないかの確認が終わったため、近衛騎士たちも休息をすることができていた。
アリア、サラ、ステラ、エレノアの四人も、ある程度、自分の小隊が落ち着いたので休憩に入っている。
「ふぅ~、やっと休憩ですね! 疲れた体に温かい食事と飲み物は染み渡りますよ!」
「本当ですの! いつもは美味しく感じない食事ですけど、今は凄く美味しく感じますわ!」
「不思議ですよね。疲れていると、何でも美味しく感じるのは」
第2中隊の士官が集まっている天幕の中で、アリア、サラ、ステラの三人は雑談をしながら食事を食べていた。
エレノアはというと、無言で食事を食べている。
どうやら、いつものように騒ぐ元気すらないようであった。
そんなエレノアに、フェイが近づく。
「どうした、エレノア? いつものお前らしくもない! 小隊長がそんなだと、部下が心配するぞ!」
「分かっていますの。小隊を指揮する時は頑張りますわ。ただ、今は休ませてほしいですの」
エレノアは力無くそう言うと、黙々と食事を続ける。
さすがにフェイも気を遣ったのか、それ以上、会話をすることはなかった。
代わりに、アリア、サラ、ステラの方に向き直る。
「お前たちもキツイと思うが、レイテルを陥落させれば、この戦いも終わる! 今はそのことに集中しろ! ただ、死ぬなよ! 最後の詰めで死ぬなんて最悪だからな!」
フェイは、アリアたちに激励の言葉をかけた。
対して、アリアたちは気合いの入った声で返事をする。
その後、食事と休憩を終えたアリアたちは、自分の小隊に戻り、破壊された建物の撤去などを指揮していた。
当然、戦った反乱軍の死体も回収しなければならない。
(まったく、死体を集める作業というのは、いつやっても嫌なものだ。しかも、今回は反乱軍とはいえ、アミーラ王国の兵士だからな。丁重に扱わないといけないのは当然だ。もし、粗末に扱われているのを家族が見たら、一生、恨まれるだろう。ともかく、丁寧に手早くやらないとな)
アリアは、自分の小隊の近衛騎士に指示を出しつつ、そんなことを思っていた。
――3時間後。
プレミールの周囲は、すっかり暗くなってしまっている。
ただ、正門の内側は松明があちらこちらにあるおかげで、かなり明るい。
そんな中、正門の上に立ったクルトが口を開く。
「諸君! 疲れているだろうが、レイテルを陥落させれば、この戦いも終わる! 長かった戦いも、ついに終止符だ! 一気にレイテルを陥落させて、さっさと帰ろう!」
クルトは剣を抜き、頭上に掲げる。
と同時に、正門の周囲にいた兵士たちは大きな喚声を上げていた。
もちろん、近衛騎士たちも、気合の入った声を上げている。
そこから、しばらくすると、プレミールの正門から2万五千もの軍が出発し始める。
喚声は地を揺らし、蹄の音が遥か遠くまで響いていた。
そんな中、アリア、サラ、ステラ、エレノア、エドワードと学級委員長三人組は、クルトの護衛についている。
「いや、君たちも大変だよね。一応、半日休みがあったとはいえ近衛騎士は休めてないだろう? もちろん、君たちも。あまり無理はしないでくれよ」
「クルト王子、ありがとうございます! そのお言葉だけで疲れが吹き飛びます!」
馬に乗っているクルトに向かって、エドワードは感激の言葉を言う。
(……元気だな、エドワードさん。私には、そんな元気ないよ。まぁ、戦闘になれば集中するから、疲労とか感じないだろうけど。だけど、移動中の今は凄く疲れを感じるよ。正直、馬に乗るのも、かなり疲れるからな。ただ、クルト王子の護衛中だし頑張らないといけないか)
感激をし続けているエドワードを見ながら、アリアは気合いを入れ直す。
そんなアリアに、ステラの乗った馬が近づいてくる。
「アリアさん、少し後ろにいるサラさんを起こしてきてくれませんか? 多分、馬に乗ったまま寝ているので。私はエレノアを起こしてきます」
「分かりました。クルト王子に気づかれないよう、ゆっくり動きますか」
「その方が良いですね。それでは行ってきます」
アリアとステラは、クルトに聞こえないような声で話しあった後、行動を開始する。
「サラさん、サラさん! 起きてください! 護衛中に寝るのはマズいですよ!」
馬に乗ったまま首をもたげているサラに、アリアは声をかけた。
瞬間、サラが背筋を伸ばす。
「ありがとうですわ、アリア! うっかり寝ていましたの! もう、こんな疲れている状態で馬に乗っていたら眠くもなりますわよ! アリアは眠くなりませんの?」
ちょっとプンプンしだしたサラは、アリアに質問をした。
「眠いですよ。ただ、寝ているとかバレたらヤバくないですか? エドワード王子を放ったらかしていたのに加えて、これ以上の失態は死を意味しますよ」
「確かにそうですわね! クルト王子が許してくださっても、他の人が許してくれませんわ! さすがに、いつも優しい団長でも怒るかもしれませんの! というか、怒られるだけで済む気がしませんわ!」
アリアの言葉に、サラも同調をする。
そんな話を二人がしていると、少し離れた場所で鈍い音が響く。
どうやら、ステラがエレノアの後頭部を剣の腹で叩いたようである。
当然、そこからステラとエレノアはケンカを始めてしまう。
(……ステラさん、もう少し穏便に起こしましょうよ。というか、エレノアさん、後頭部を叩かれているのに何ともないのか? どれだけ頑丈なんだよ……)
アリアはケンカをしている二人を見ながら、そんなことを思う。




