144 戦う理由
「君がロニー大尉か! 初めまして! まぁ、挨拶はこれくらいにして単刀直入に言おう! 降伏してくれないか? もう十分に戦っただろう! プレミールであと残っているのは、君たちくらいだ! 戦っても意味はないだろう!」
ロニーの姿を確認したミハイルは、大きな声で降伏を勧める。
対して、答えは明確であった。
「申し出は、ありがたく思う! だが、降伏はできない! 我々の中には、レイテルに家族がいる者もいる! もし我々が降伏したと知られれば、その家族に危害が及ぶハズだ! だから、降伏したくても降伏できない!」
ロニーは、堂々とした声でミハイルに告げる。
(……それは降伏できないな。家族の命がかかっていたら無理だ。もし降伏しようものなら、ロニー大尉が言っている通り、家族に危害が及んでしまう。さて、団長はどう切り返すんだろうか)
ロニーの声を聞いたアリアは、静かに状況の変化を見ていた。
そんな折、しばし考え込んでいたミハイルが口を開く。
「ロニー大尉! 少し待っていてほしい!」
何か考えがあるのか、ミハイルはそう叫ぶと、次の瞬間には姿を消していた。
一瞬で消えたため、反乱軍兵士からどよめきが起こる。
「団長、どこかへ行ってしまいましたか。もしかして、クルト王子のところですかね?」
「まぁ、十中八九、そうだと思います。恐らく、クルト王子に判断を仰ぎに行ったのでしょう」
「ということは、かなり大規模な動きになる可能性もある気がしますわ。何をするか分かりませんけど、画期的な方法に違いありませんの」
などと、アリア、ステラ、サラの三人は雑談をする。
エレノアはというと、先ほどと変わらず、立ったまま寝てしまっていた。
そんなこんなで、10分後。
いきなり、ミハイルが現れる。
アリアたちを含め、近衛騎士たちは、ミハイルが一瞬で現れたことに驚きはない。
ただ、西門付近にいる反乱軍からすれば、見慣れないものであり、またもどよめきが起こっていた。
「ロニー大尉! お待たせして済まない! 結論から言う! プレミールで半日休憩した後、我々は2万5千の軍をもって、レイテルに強襲をかける! だから、君たちにも参加してほしい!」
ミハイルは衝撃的な宣言をする。
当然、両陣営で大きなどよめきが起こった。
(嘘でしょう!! 半日って、全然、休めないよ! というか、体洗う時間とか絶対ないな! はぁ……これが終わったら休めると思ったのに……)
ミハイルの宣言を聞いたアリアは、ガッカリとしてしまう。
もちろん、アリアだけでなく、サラもガックリとうなだれていた。
誰も口には出さないが、居合わせた近衛騎士たちにも残念な思いが広がる。
そんな状況で、エレノアが起床した。
どうやら、大きなどよめきで起きてしまったようである。
「……ふへ? もしかして終わりましたの? う~ん! これで、やっと休めますわね!」
エレノアは、晴れ晴れとした表情を浮かべ、背中の後ろで腕を伸ばしていた。
そんなエレノアに現実が付きつけられる。
「エレノア。プレミールで半日休憩した後、2万五千の軍でレイテルを強襲するそうですよ」
「へ? 嘘ですわよね?」
「嘘ではありませんよ。まぁ、王都レイルから来ている近衛騎士は帰れる可能性がありますが、私たち第2中隊は無理でしょうね。元々、クルト王子の護衛として来ていますから」
「…………」
エレノアは黙って遠く見ている。
どうやら、何かに思いをはせているようであった。
そんなエレノアを他所に、アリアたちは西門の方に顔を向ける。
すると、ロニーに動きがあった。
それを察してか、両陣営とも静かになっていく。
「我々が降伏して、レイテル攻めに加わったとしても、家族がいる者たちはどうしようもないだろう! どの道、我々ができるのは、今、ここで戦うだけだ! それならば、まだ、レイテルにいる者たちが助かる可能性があるからだ!」
ロニーは、悲壮な顔で大きな声を上げる。
その言葉を聞き終わったミハイルは、口を開く。
「僕は不思議に思うよ! なぜ、君たちは死ぬ覚悟があるのに、自分たちの手で助けようとしないのか! これから、僕たちの軍とぶつかり合えば、君たちは間違いなく死ぬことになるだろう! そうなれば、二度と家族に会うことはできない! なら、レイテルに乗りこみ、自分たちの手で助けにいくべきだろう!」
ミハイルは、珍しく真面目な顔をしていた。
その声は確実に西門付近にいる反乱軍兵士に聞こえているだろう。
(……凄くすすり泣く声が聞こえてきたな。まぁ、それは泣くよな。極限状況で家族に会えないとか言われたら、耐えれないだろう。私は、物心ついたときには孤児院にいたからな。でも、孤児院の子たちが死ぬとかだったら、私でもキツイものがある。凄く難しい決断だと思うけど、反乱軍の人たちはどちらを選択するんだろう)
アリアはそんなことを思いつつ、事態の推移を見守る。
他の近衛騎士たちも、黙って西門の方を向いていた。
エレノアでさえ、真面目な顔で事態を見守っている。
そんな中、ロニーが決意に満ちた顔をした。
どうやら、覚悟が決まったようである。
「近衛騎士団長! 我々は降伏しよう! ただ、一つ条件がある! レイテルに家族のいる兵士たちは、優先的に家族の下に向かわせてほしい! 彼ら自身もそれができれば言うことはないだろう!」
「分かった! それで良いよ! クルト王子には僕の方から話をしておく! それじゃ、武装解除して、食料を食べてくれ! 今日の夜には出発するから、よろしくね! 詳しい調整は、あとでやろう! とりあえず、さっさと休もう!」
ミハイルはロニーの降伏を受け入れると、大きな声で叫ぶ。
その後、フェイとバールに指示を出すと、クルト王子の下へ行ってしまった。
近衛騎士たちはというと、食料を運んだり、ケガ人を治療したりと大忙しな有様である。
もちろん、アリアたちも小隊長として、自分の小隊に指示を出していた。
(とりあえず、終わって良かった。まぁ、この戦いは生き残れたか。ただ、半日後には出発だから準備しておかないとな。はぁ……全然、休めないよ)
アリアはため息が出そうになったが、我慢して、目の前の仕事をこなすしかない。




