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141 降伏を目指す

 ――2時間後。


 プレミールの西門付近での戦闘は、完全に膠着状態に陥っていた。

 バールが率いる第1中隊とフェイが率いる第2中隊が連携して攻めかかるが、どうしても突破できない。

 まさに、ネズミ一匹も通さない鉄壁の布陣であった。


「……これ以上やっても、無理な気がしますわ。守りが堅過ぎますの……はぁ、どうしたら良いか分かりませんわ」


「なんだか、岩壁に向かって剣を振るっているかのようです。凄く空しい時間ですね……」


 汗だくになったアリアとサラは、やる気を失ってしまっていた。


「守りの堅さもそうですが、建物からいきなり出てきて斬りこまれたり、見えない位置から矢とか飛ばされるのも厄介ですね。どうやら、地の利は圧倒的にあちらの方が上のようです」


 ステラは、いつも通りの顔で冷静に分析する。

 ただ、その顔には汗が流れ落ちていた。


「はぁ……もう疲れましたわ……」


 エレノアに至っては、騒ぐ元気もないようである。


「とりあえず、一回、中隊長のところに戻りますか。ここで、私たちが話していても意味がないので」


「そうですわね」


「私もその方が良いと思います」


「もう、どっちでも良いですわ」


 最前線から少し離れていた四人は、トボトボとフェイのいる場所に向かって歩き出した。

 それから、5分後。

 アリアたちは、フェイのいる場所に到着した。

 そこには、仏頂面のバールもいるようである。


「はぁ……お前たちが帰って来たってことは駄目だったか……」


「はい。最前線の状態を調べて奇襲したりもしてみましたが、全然、駄目ですね。すぐに押し返されてしまいます」


 フェイの落胆を見ながら、ステラは淡々と報告をした。


「エドワードたちも同じことを言っていたな。やはり厳しいか。犠牲者覚悟で攻めれば突破できるだろうが、勝ち戦で死者多数など意味がないからな」


「まぁ、そうだな。掃討戦で死者がたくさん出ましたなんて報告したら、軍法会議ものだ。はぁ……何か、良い手はないものか……」


 バールとフェイはそう言った後、考え事をしているのか、黙ってしまう。

 辺りには、何とも言えない空気が流れている。

 だが、そんな空気もすぐに消えることになった。


「あれ? まだ終わっていないの? てっきり、終わっているものだと思っていたよ! もう、南門と東門は陥落しているからさ!」


「団長!」


 突然のミハイルの登場に、フェイは驚きの声を上げる。

 傍には、副団長やら先輩方三人組やらがいた。


「ああ、指揮を邪魔しちゃってごめんね! それで、今、どういう状況か説明してもらえる? 必要ならプレミールに散っている近衛騎士を集めるから!」


「了解しました!」


 フェイは大きな声で返事をすると、端的に状況を説明した。

 ミハイルはというと、頷いたり感心したりしながら、その話を聞いている。

 それから、しばらくして、説明を聞き終わったミハイルが口を開く。


「う~ん、このレベルの指揮官を失うのは惜しいね! それに、絶望的な状況でも戦い続ける兵士も! よし、決めた! ここら辺にいる反乱軍は降伏させることにしよう!」


「え!? 団長! 反乱軍を討滅なさらないんですか!? クルト王子に説明できませんよ!」


 ミハイルの言葉を聞いた副団長が、驚きの声を上げる。


「大丈夫、大丈夫! クルト王子とか、他の将官の方々には僕から説明しておくからさ! 副団長、とりあえず、スヴェイン中将に西門に兵を近づかせないよう、伝達してきてよ!」


「嫌です! 絶対、納得していただけませんよ! 反乱軍なんて残しておいても害になるだけなのは目に見えています! せめて、団長自ら、説得なさってください! 私が行っても、激怒されて終わるだけですから!」


 副団長は、絶対無理とばかりに即答をした。

 周りにいる佐官クラスの近衛騎士も、否定的な顔をしている者が多い状況である。


「いやいや、僕は降伏させる交渉をしないといけないから難しいよ! 大丈夫! 自分に自信を持って! これからのアミーラ王国に必要な人材だから、死なせるには勿体ない的なことを言っておけば、納得してくれるよ! それじゃ、行ってきて!」


「くっ! 怒られに行くだけではないですか! 説得できなくても、後で怒らないでくださいよ! というか、なぜ、私が行かないといけないんだ!」


 ミハイルの命令を無視するワケにもいかないので、副団長はプリプリ怒りながら、スヴェイン中将のいる場所へ向かっていった。


(副団長、怒られて終わりだろうな。可哀そうに。軍隊って、階級が上がれば凄く楽になるイメージがあったけど、そうでもないのかな? 現に副団長って、大佐だけど、凄く大変そうだし。もしかすると、団長に無茶苦茶言われているだけかもしれないけど)


 凄い速度で走っていく副団長を見ながら、アリアは憐みの視線を向ける。

 そんなアリアに、サラが近づいてきた。


「アリア、アリア! 質問ですの! スヴェイン中将って誰ですの?」


 サラは小声でアリアに質問をする。

 それもそのハズであった。

 自分が所属する軍の将官の名前を知らないなど、有り得ないことだからである。


「え!? サラさん、それはマズいですよ! というか、本当に知らないんですか!?」


「ちょっと、ど忘れしてしまいましたの!」


「まぁ、そういうこともありますか……スヴェイン中将は、ほら、コニダールから逃げる時に、私が背負っていた将官の人ですよ」


「あ! あの太ったおじさんですのね! もう、完全に思い出しましたわ! アリア、ありがとうですの!」


 サラは、疑問が解けたため、笑顔を浮かべている。

 ただ、サラの後ろに目を向けるアリアの顔は引きつっていた。


「ヒソヒソ話をしていると思えば……お前は、将官の方の名前すら分からないのか! 軍隊という組織において、それはあり得ないぞ! 指揮系統を知らないのと同然だからな!」


 いつの間にかサラの後ろに立っていたフェイは、鬼の形相でげんこつをする。

 ボンという鈍い音がした後、サラは頭を抱えてしまう。


(う~ん……サラさん、運が悪いな。まぁ、将官の方の名前を知らないのは駄目だよ。今回はしょうがないかな)


 たんこぶができてそうな頭を見ながら、アリアはそんなことを思う。

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