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137 市街戦は嫌なもの

「エドワードさん、学級委員長さん! 本当に離れて下さいよ! これだと、意味ないですって!」


 アリアは、向かってくる反乱軍兵士の腕を斬り飛ばしつつ、大声を上げる。


「いや、やっぱり、この位置が僕の戦うべき場所なんだ! 僕のことは気にせず、戦いに集中してくれ!」


 エドワードは、アリアと戦っていた兵士にトドメを刺しつつ、大声を出す。

 学級委員長三人組も、エドワードと同じようなことを叫びながら、近くで戦っている。


「いやいや! 同じ敵に攻撃するのは無駄ですよ! 別の敵を狙った方が良いに決まっています!」


 アリアは、何とかしてエドワードを引き離そうとする。

 だが、エドワードを始めとして学級委員長三人組も、大きな声を上げながら離れようとしない。

 そんな状態で戦いを続けていると、後ろから声が聞こえてくる。


「ちょっと、君たち! 何をやっているの! そんなに固まっても意味ないでしょ! アリア! エレノアの近くで戦いなよ!」


 ミハイルは、飛んでくる炎の球やら矢やらを剣で払いながら、陽気な声を上げた。


(えええ! なんで、私なんだよ! 先に剣を使う先輩の近くで戦っていたのに! 動くのはエドワードさんと学級委員長さんたちだろう! 納得がいかない!)


 アリアはそんなことを思いながら、戦いつつ、エレノアの方に顔を向ける。

 そこでは、『あああああああ! かすった! 剣がかすりましたの! これじゃ、誰と戦っているか分かりませんわ!』などとエレノアが叫んでいるのが見えた。


 どうやら、格闘技を使う先輩は、近くにいるエレノアのことを気にせず、変則的な格闘技と剣の合わせ技で戦っているようである。

 翻って、その近くにいるエレノアはというと、迫ってくる反乱軍兵士をさばきつつ、格闘技と剣を避けるのに集中しているようであった。


 だが、あまりにも変則的過ぎるため、普通に回し蹴りが胴体に入っていたり、肘鉄が頭に当たってしまっている。


(……エレノアさん、避けきれてないな。まぁ、狭い市街地に反乱軍が殺到してきているから、しょうがないか。というか、あれだけ攻撃を受けているのにピンピンしているって頑丈過ぎだろう……)


 命令には逆らえないので、アリアはそう思いながら、渋々といった感じでエレノアの近くに移動し始めた。

 そんなアリアの姿に気づいたエレノアはというと、笑顔になっていく。


「アリア! ここは任せましたの! ワタクシは団長の護衛として後ろに下がりますわ!」


 エレノアは、笑顔のまま、意味不明なことを言うと、急いで下がろうとした。

 だが、それは実行されることはなかったようである。


 なぜなら、格闘技を使う先輩が背を向けたエレノアの襟首をつかみ、反乱軍の方に投げたためであった。

 対して、反乱軍兵士に激突したエレノアはというと、急いで立ち上がり、半狂乱で剣をブンブンと振り回し始める。


(……あれだと逃げられないな。エレノアさんの後ろに格闘技を使う先輩がいるし。というか、エレノアさんが全部の攻撃を受けているな……完全に盾にされているよ……)


 アリアはそんなことを思いながら、エレノアと格闘技を使う先輩の近くで漏れてきた反乱軍兵士と戦い始めた。






 ――3時間後。


 暗闇と火の中で戦い続けたミハイル一行は、プレミールの大通りに到着する。

 もう、その頃には、少しだけ辺りが明るくなり始めていた。

 結果、あまり見たくないものが見えてしまう。


「はぁ……まったく、市街戦なんてするものではないね。反乱軍が死ぬのは、まぁ、しょうがないことだけど、無関係の民間人が死ぬのはおかしいことだから」


 剣を鞘に納めたミハイルは、周囲を見渡した後、ため息をつく。

 血塗れになった面々も、警戒しつつ、一応、周囲をうかがっていた。

 というのも、反乱軍兵士たちは、ミハイル一行のことを無視して、城門に殺到しているためである。


(……本当に団長の言う通りだな。戦争で兵士が死ぬのは、しょうがない。だけど、民間人が死ぬのはおかしいよ。まぁ、中には、民間人に扮した兵士とかもいるんだろうけど。ただ、ほとんどは戦争に関係ない人のハズ。本当に軍人になんて、なるものではないな……)


 顔についた血と流れてきた汗を手で拭ったアリアは、そんなことを思う。

 疲れもあるが、それ以上にアリアにとっては、こたえるものがあった。

 そんなアリアの様子に気づいたのか、ステラが近づいてくる。


「アリアさん。あまり考えない方が良いですよ。戦争で人が死ぬのはしょうがないことです。それは、軍人、民間人、関係ないことですから。今はやらなければならないことをしましょう」


 ステラはそう言うと、剣を振り、血を払っていた。

 他の面々はというと、何か発言するワケでもなく、武器を持ったまま、周囲の事実を確認しているようである。


「ふぅ~、よし! このまま、大通りを進んでいこうか! まぁ、この調子だと加勢はいらなさそうだけど! 一応、正面の門を破るまでは油断出来ないからね!」


 気を取り直したミハイルは、立ち尽くす面々に聞こえるよう、声を上げた。

 アリアたちはというと、返事をし、ミハイルの前を歩き出す。

 そんな彼女たちの耳には、プレミールの城門付近で繰り広げられる戦いの音だけが聞こえていた。


 ――30分後。

 大通りを歩いていたミハイル一行の前に、二つの影が舞い降りる。

 もちろん、アリアたちは、即座に戦闘態勢へ移行した。

 ただ、ミハイルはというと、頭の後ろで手を組んだまま、二つの影を見ていた。


「随分と余裕ですね、ナルシスト。もし、私が敵だったら確実に死んでましたよ」


 降り立ったカレンは、つまらなさそうにミハイルを見ている。

 その横には、いつも通り、レインが立っていた。


「まぁ、走ってくるのは見えていたからね! それに、カレンが不意打ちをしてきたとしても、僕を倒すのは難しいと思うよ! それなりに、実力差はあると思うしね!」


 カレンの言葉に、ミハイルは正面からケンカを売っていく。

 対して、カレンはというと、


「凄く面白い冗談ですね。なんでしたら、今、この場で試しても良いんですよ?」


 などと言って、濃厚な殺気を体から放っていた。


(……本当にやめてほしいな、殺気を出すの。もう、普通に恐いよ。というか、この場で団長とカレンさんが戦ったら、私たちが止めないといけないよな……どう考えても無理な気がする)


 余裕たっぷりのミハイルと殺気マシマシのカレンを見ながら、アリアはそんなことを思う。

 他の面々も、『もう、疲れているんだから勘弁してくれ……』と言わんばかりの顔をしている。

 エレノアに至っては、ゆっくりと後退りをしていた。

 もう逃げる気満々である。


(……エレノアさん、本当に逃げられると思っているのかな? 格闘技を使う先輩とかに、半殺しにされると思うのだけど。しかも、中隊長に逃げようとしたことがバレたら、何をされるか分からないのにな。まぁ、それは、今、いいや。とりあえず、ステラさんに何とかしてもらおう……カレンさんを止められる可能性がありそうだし)


 そんなことを考えていたアリアは、ステラの方に顔を向けた。

 他の面々も、自然な感じでステラを見ている。


「はぁ……分かりました。止められなくても、文句は言わないでくださいよ」


 ボソッと呟いたステラは、気乗りのしない顔でカレンに近づく。


「カレン。何か用があって、ここに来たのでは? まだ戦闘も終わっていませんし、団長と戦ってる場合ではないと思いますが?」


「さすが、ステラ! レナード殿譲りの冷静さだね! カレンも少し見習ったらどうだい?」


 カレンが何かを言う前に、ミハイルは陽気な声を上げる。

 対して、カレンの殺気はさらに膨れ上がってしまう。

 もう、近くにいるだけで、肌がピリピリするほどである。


「……団長、カレンを挑発しないで下さい。カレンも、こんなところで戦ったなんて、後で父上に知られたら殺されますよ。早く用件を伝えてください」


 ステラは、畳みかけるようにカレンに向かって言葉を発した。

 そのおかげか、カレンの殺気がしぼみ、いつも通りの姿に戻っていく。


「ナルシスト、お嬢様に感謝しておいた方が良いかと。この場で命を失わずに済んだんですから。それでは、クルト王子からの言葉を伝えますね。クルト王子とダニエル大将の率いる本隊は逃げ出した反乱軍を追撃するので、近衛騎士団はプレミールに突入してきた軍勢と一緒に掃討戦をするようにとのことです」


「僕が負けるとは微塵も思えないけど、クルト王子に了解した旨を伝えておいて! それじゃ、よろしく!」


 カレンの言葉を聞いたミハイルは、そのままスタスタと正門の方に歩いていく。


「別によろしくされなくても伝えるので、余計なお世話です。あと、」


 言葉を区切ったカレンは、次の瞬間、姿を消した。

 と同時に、『うわ! いつの間に!』という、かなり若い声が少し離れた場所から聞こえてくる。

 当然、条件反射的に、全員が声のした方に顔を向けた。


「……? 10歳くらいの男の子ですわね。ただ、手に剣を持っていますの」


 状況を確認したサラは、何事もないように言葉を出す。

 剣を持ってはいるが、脅威に感じているワケではないようである。

 そんな男の子の前に、現在、カレンが立っている状態であった。


(もしかして、あの男の子、私たちに攻撃しようとしたのかな? う~ん、いくら不意打ちでも無理だと思うんだけど。近づいて攻撃する前に斬られて終わりだよ)


 アリアは、男の子の方に歩きつつ、そんなことを思う。

 他の面々も、ミハイルを先頭にして、カレンに近づく。


「どうしたの、カレン? 別に、僕たちだけでも大丈夫なのは分かっていると思うんだけど? 万が一にも、不意打ちでやられる可能性はないかな!」


 男の子とカレンの近くに到着したミハイルは、疑問の声を上げる。


「もちろん、そんなことは分かっていますよ。ただ、この絶望と怒りの入り混じった感情が懐かしくて、ついちょっかいを出してしまっただけです」


 いつも通りの顔で、カレンは答えた。

 対して、剣を手に持った男の子はというと、動きがあった。


「家族の仇だ! 死ねえええええええ!」


 叫び声とともに、男の子は、剣をカレンに向かって振り下ろす。

 だが、素人丸出しの剣戟は、カレンに素手で防がれてしまう。


「この! 放せ!」


 男の子は、なんとかして剣の自由を取り戻そうともがく。

 だが、剣が潰れるほどの握力で握りこまれているため、まったく動く気配がない。


「さて、どうしたものですかね? 家族を失った末の自暴自棄だとは思いますが、攻撃をしてくるなら、殺すしかありません」


 カレンはそう言うと、剣を握ったまま、死んだ目で男の子を見る。

 対して、男の子の方はというと、殺す宣言と絶対零度の目を前に、剣から手を放し、尻餅をついてしまっていた。


 あまりの恐怖なのか、尻餅をついた状態で後退りしようとしているが、上手くいっていない。


「いやいや、子供を殺すって、本気で言っているの!? そこまで冷酷非道だとは思わなかったよ!」


 思わず、ミハイルもツッコんでしまう。

 ステラを除き、他の面々もドン引きをしてしまっていた。


「いや、心からの親切ですよ。どうせ、家族がいないのであれば、盗みか殺人をして生きていくしかありませんからね。生きているだけで、死ぬほどつらいハズです。なら、ここで死んでおいた方が良いですよ」


 カレンは握っていた剣を地面に落とすと、男の子に向き合う。

 横にいるレインも、カレンの言葉に賛成なのか、ウンウンとうなずいている。


(……小さい頃から生きるか死ぬかの生活をしていたから、そういう発想になるんだろうな。とはいえ、さすがに殺すのはやり過ぎだろう)


 アリアは、泣き出してしまった男の子を見ながら、そんなことを思う。

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