133 エドワードに対する攻撃
――次の日の朝。
(はぁ……結局、中隊長たちが居座ったせいで、全然、眠れなかったな。まぁ、でも、休めただけマシか。それに、サラさんとかもウザ絡みをされて、あれ以上寝れなかったみたいだし、状況は私と変わらないだろうな)
アリアは、少しだけ軽くなった武器などを身につけながら、そんなことを思う。
近くでは、エレノアが、『……もう、朝ですの。あと、2日くらい、寝たい気分ですわ……』などと言いつつ、ガシャガシャと音を立てている。
数分後、準備を完了したアリアたち四人は、部屋を出る。
すると、ちょうど、部屋を出てきたらしいエドワードと学級委員長三人組と出くわす。
「おはよう。なんだか、昨日は凄い騒いでいたみたいだな。こっちの部屋にまで、音が響いてきたぞ」
疲れがある程度とれたらしいエドワードは、挨拶がてら、昨日の話をする。
隣にいる学級委員長三人組も、ウンウンとうなずいていた。
「……中隊長と先輩方がいらっしゃいましたの! おかげで、あまり休めませんでしたわ! 良いですわよね、エドワードたちは! ゆっくりと休めたようで!」
「これは、元気なエドワードさんに頑張ってもらうしかないようですね。私たちの分も頑張ってください」
「おーほっほっほ! 主のために頑張りたいなんて、見上げた精神ですの! せいぜい、クルト王子の盾になって、その生涯を散らすと良いですわ!」
「エドワードさん、エドワードさん! 私たちは、多分、今日、使い物にならないので、頑張ってください! 応援しています!」
サラ、ステラ、エレノア、アリアは、エドワードに敵意マシマシの言葉をぶつける。
「……なんだろう、最近、アリアたちの言葉に棘を感じるのだが。もしかして、僕、嫌われているのかな?」
エドワードは、顔面を4発殴られたかのような顔をしてしまう。
「エドワードさん、大丈夫ですよ」
対して、ステラは、エドワードに声をかける。
(お。ステラさん、珍しく、エドワードさんに慰めの言葉をかけるのかな? まぁ、ステラさんは表情があまり変わらないだけで、根は優しいから、それもあり得るか)
アリアは、ステラに注目しながら、そんなことを思う。
サラたちも、珍しいといった顔で、ステラを見ている。
学級委員長三人組に至っては、『お! ステラ! エドワードを慰めてくれるのか! なかなか良いところもあるじゃないか!』とでも言いたげな顔をした。
そんな中、注目を受けているステラは口を開く。
「嫌ってなんていませんよ。エドワードさんは、足元を歩くアリに、なにか感情を持ったりしますか? しませんよね? 私がエドワードさんに対して抱く感情は、まさにそれです」
ステラは、いつも通りの顔で、とんでもない毒を吐いた。
直接攻撃を受けていない学級委員長三人組は、『え? それ、ひどすぎない? つまり、エドワードはアリと同じって意味だよね?』と言いたげな顔をする。
「…………」
直接攻撃を受けたエドワードはというと、あまりの威力の大きさに完全に放心状態になってしまっていた。
(……ステラさん、それは、ひどすぎな気がする。一応、レイル士官学校の同期で、しかも、同じ4組だったのに……仲間意識ぐらいはあると思っていたよ)
アリアですら、嘘でしょう的な顔をする。
そんな凍りついた場で、エレノアが動きを見せた。
(やっぱり、幼なじみとしては許せないよね! さすがにエレノアさんといえど、エドワードさんをかばうために動いたか!)
エレノアを見ながら、アリアはそんなことを思う。
サラたちも注目する中、エレノアは、ステラの隣に立つと、口を開く。
「おーほっほっほ! ステラ! アリさんを例えに出すのは失礼ですわよ! 調理場に出る黒いカサカサを例にするのなら、まだ許せますの!」
アリアの期待を裏切ったエレノアは、腹黒笑みでとんでもない追撃をする。
(……世の中の無常をこんなところで感じることになるとは思わなかった。さすがに、可哀そうになってきたな……)
なんとかエドワードの魂を戻そうと学級委員長三人組が奮闘している中、アリアはジト目でステラとエレノアを見ていた。
そのような状況で、アリアたちが宿の通路で騒いでいると、出発の準備を整えたクルトやってくる。
「君たち、通路でなにをしているの? もしかして、なにか事件でも起きた?」
クルトは、不思議顔でわちゃわちゃしているアリアたちに話しかける。
「クルト王子!? 申し訳ありません! 本来なら、お迎えに行くべきところを!」
最初に反応したアリアは、即座に膝をつき、臣下の礼をとった。
サラとステラも、『これはヤバいですわ! 中隊長に、このことを知られたら、逆さ吊りにされて、火であぶられますの!』とでも言いたげな顔をした後、すぐに臣下の礼をとる。
ステラはというと、いつも通りの顔で臣下の礼をとっていた。
そんな中、学級委員長三人組は、魂の抜けてしまったエドワードに、なんとかして臣下の礼をとらせようとする。
「いや、臣下の礼はいいからさ。とりあえず、なにを騒いでいるのか、教えてくれない?」
クルトは手を横に振ると、面倒そうな顔で、そう言った。
「実は……」
アリアは立ち上がり、とりあえずと言った感じで、事情を説明する。
それを聞き終わったクルトは、立ち上がった面々に向かって、口を開く。
「……なるほど。ステラとエレノアの言葉で、エドワードがこうなってしまったと。とりあえず、今、ここで騒いでいても、しょうがないからさ、宿の外に行こうか」
クルトはそう言うと、スタスタと歩いてしまった。
その後ろをぞろぞろとアリアたちはついていく。
(……まぁ、大丈夫でしょう! きっと、クルト王子なら、私たちが思いつかないような画期的な方法で、エドワードさんの魂を戻してくれるハズ!)
学級委員長三人組に引きずられているエドワードを見ながら、アリアはそんなことを思っていた。
宿を出たクルトは、アリアたちがなんとかして誤魔化そうとしている中、入口にいたミハイルに事情を話してしまう。
「それで、君たちは、クルト王子の迎えをせずに、宿の通路で騒いでいたと……いや、最近の若手士官は凄いね! 僕でも、そんなことはしないよ! 良かったね、近衛騎士団長が僕で! 前に拝命していたレナード殿だったら、大変なことになっていたよ! ねぇ、ステラ?」
事情を聞き終えたミハイルは、いつも通りの笑顔でステラに話を振る。
「まぁ、たしかに、父上なら大変なことになっていたと思いますよ。王族の護衛を放棄する近衛騎士なんて、いらないとか言って、私たちをリベイストの外まで蹴り飛ばすくらいはしそうですね」
話を振られたステラは、淡々と予想を言葉にした。
(……それ、リベイストの外側に私たちの体が到着する頃には、肉塊になっているよ。というか、レナードさんって、凄く優しそうな顔をしているけど、滅茶苦茶、厳しいんだな。まぁ、なんとなく、漏れ聞こえる話から、そうじゃないかとは思っていたけど。それは置いといて、あとで団長から中隊長に話が伝わるだろうし、怒られるのは確定したな……いや、怒られるのでは済まないか……)
アリアは、諦めた顔で会話を聞いている。
そんな中、面倒そうな顔をしたクルトが口を開く。
「別に処罰とかは良いからさ。とりあえず、エドワードをなんとかしてよ。このままだと、護衛を続けられないでしょう。それに、ダニエルが、こんなエドワードを見たら、ひどく嘆き悲しむだろう」
「ダニエル殿が嘆き悲しむかは分かりませんけど、たしかに問題ですね! 私がやっても良いですけど、時間がかかるでしょうし……分かりました! ここは、すぐになんとかしてくれる人物を呼びましょう!」
ミハイルはそう言うと、アリアたちがいた宿屋の上のほうを見る。
すると、次の瞬間、宿屋の屋根の上から、カレンとレインが降ってきた。
「ああ、カレンとレインか。いきなり、降りてきたからビックリした。まぁ、それはいいや。とりあえず、エドワードをなんとしてよ」
クルトは、言葉とは裏腹に、臣下の礼をとっているカレンとレインを見ても、動じていないようである。
その言葉を受けたカレンは、返事をした後、立ち上がり、魂が抜けているエドワードに向かい合う。
「エドワード様。少し痛いかもしれないですが、我慢してくださいね」
カレンはそう言うと、エドワードのこめかみに拳を当て、グリグリし始める。
その効果は絶大であった。
「うわああああああああ! 頭が! 頭が割れる! やめてくれええええ!」
魂が無事に帰還したエドワードは、大きな声を出して、なんとかカレンの腕をどかそうとする。
だが、エドワードの体が浮くほどの力を加えられているため、まったく意味を成していなかった。
数十秒後、カレンの施術も終了し、エドワードは自由の身になる。
「朝から、今日はなんて日だ! 精神攻撃を受けるわ、物理攻撃を受けるわで、最悪だよ! 僕は、ただ真っ当にクルト王子の護衛をしていただけなのに!」
エドワードは、我慢の限界に達したのか、髪をクシャクシャしてしまっていた。
そんな状況で、ミハイルが口を開く。
「さすが、カレン! なんちゃら拳法術だっけ? 抜群の効果だね! 最近、肩こりがひどいから、僕もやってほしいくらいだよ!」
ミハイルは、いつも通りの陽気な声で、カレンにケンカを売っていく。
「はぁ? なんですか、なんちゃら拳法術って? 馬鹿にしているんですか? それに、カレン流拳法術は、整体をするためのものではありませんよ。ナルシストみたいな人を殺すための、れっきとした暗殺拳です」
カレンは、かなり濃密な殺気を出しながら、ミハイルの顔を見る。
まさに、二人は一触即発といったい状態であった。
そんな二人の出す殺気を前に、アリアたちは、完全にビビッてしまっている。
(おいおい! こんなところで、斬り合いとか始めないでよ! 巻き添えになって、死ぬとかシャレにならないからな! ここは、クルト王子になんとかしてもらうしかない!)
アリアは、一触即発の二人を見た後、クルトの横顔に視線を送った。
ステラ以外の残りの面々も、必死の形相で、クルトの顔に注目している。
そんな状況を知ってか知らずか、クルトは面倒そうな顔で口を開く。
「二人とも、こんなところで暴れないでよ。せっかく、ひと段落したばかりというのに、リベイストを廃墟にする気かい? もし、そうなったら、レナードにお願いして、二人とも始末してもらうしかないけど、私はどうすれば良い?」
「……失礼しました、クルト王子」
「いや、ちょっと、カレンをからかっただけなんですよ! ここで、戦いを始めるつもりは全くありませんから!」
カレンとミハイルは、すぐに殺気をおさめ、いつも通りの雰囲気に戻る。
(ふぅ~! 絶対絶命は脱したみたいだ! あやうく、なにがしかの肉塊になっていたところだよ!)
アリアは、落ちついたカレンとミハイルを見て、ホッと胸をなでおろす。
サラたちも、少しだけ笑顔を顔に浮かべていた。
その後、カレンは、クルトに礼をした後、姿を消してしまう。
対して、レインはいつもの如く、アリアたちに近づく。
だが、今回は、魂を取り戻したエドワードに用件があるようであった。
少し離れた場所で、ゴニョニョとエドワードに話している。
1分後、それも終わり、レインはピョンピョンと跳ねていってしまった。
エドワードはというと、クルトの歩みに合わせて歩いているアリアたちと合流する。
「エドワードさん、レインさんとなにを話していたんですか? 内緒話っぽかったですけど」
アリアは、合流してきたエドワードに質問をした。
「いや、大した話ではなかったな。ステラとエレノアの言葉は気にするな的なことを言われただけだ。あと、反乱が収まったら、遊びに連れていって的なことも言われたな。王都レイルの貴族街にある高級料理店で、食事をしてみたいらしい」
エドワードは、淡々と説明をする。
「高級料理店? 普通に一人で行けば、良くないですか?」
アリアは、純粋な疑問をエドワードにぶつけた。
「アリア、知らないのか? そういう店は、貴族同伴でないと、平民は入れないんだ」
「へぇ~、そうなんですね。行ったことがないので、知りませんでしたよ」
エドワードの言葉に対して、アリアは知らなかった顔をする。
そんな中、エレノアが口を開く。
「おーほっほっほ! これも良い機会ですわ! アリア、一緒に行ったら、どうですの? きっと、奢ってくれますわよ?」
「いや、別に良いです。エドワードさんとそういう仲だと勘違いされたら、迷惑なので」
対して、アリアは、絶対零度の言葉を口にする。
「……なんだろう、今日は厄日なのかな? もしかして、僕、死ぬのか?」
エドワードは、連続して災難に見舞われてしまったため、命の心配をしてしまう。
そんなエドワードを、学級委員長三人組は、言葉を尽くして、慰めていた。




