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131 楽勝のち苦難というか絶対絶命

 リベイストにある兵舎と馬小屋が燃えている中、アリアたちは、門の近くに到着していた。

 すでに、外側では、リベイスト攻略軍がリベイストに向かって、攻撃を加えている状態である。

 そのため、城壁を飛び越えてきた矢が、何本もリベイストの内部に降り注いでいた。


「それでは、皆さん、足止めは頼みましたよ。私とレインで、門を開けてきますので」


 矢が降り注ぐ中、カレンはそう言うと、門に向かっていってしまう。

 対して、レインは、アリアたちに近づく。


「……大勢の敵と戦うときは、なるべく細かい動きを意識したほうが良い。大振りだと、どうしても、隙が出るからな」


 レインは、いつも通り助言をした後、カレンの背中を追い、ピョンピョンと跳んでいく。


「……なんだろうな。もしかすると、彼は、僕たちと仲良くしたいのかもしれない。心配をして、わざわざ、助言をしてくれるくらいだしな」


 エドワードは、あごを左手に当てて、思案顔をしている。


「そうかもしれませんね。ですが、私は別に仲良くしたいと思わないので、エドワードさん、仲良くしてあげてください」


 ステラは、いつも通りの顔で、毒を吐く。


「……ステラは、もう少し優しい言い方を覚えたほうが良いな。レインが聞いたら、多分、泣くぞ……」


 エドワードは、ジト目でステラを見ていた。


「大丈夫ですよ。ちゃんと仲良くしたい人には、しかるべき対応をとるので。ちなみに、エドワードさんは、しかるべき対応をとる人ではありません」


 ステラは、エドワードに向かって、直接的に仲良くしたくない旨を伝える。


「……なんか、僕、悪いことしたかな? いや、絶対、ステラに対して、意地が悪いこととかはしていないハズだ……」


 エドワードは、ステラの言葉によって、シュンとなってしまう。

 すかさず、学級委員長三人組がエドワードを慰める。


(……ステラさん、相変わらず、言葉の斬れ味が凄いな。エドワードさんのことを一刀両断だよ。さすがに、ちょっと、エドワードさんが可哀そうになってきたな……)


 アリアは、慰められているエドワードを見ながら、そんなことを思う。

 そのような状況で、エレノアが口を開く。


「おーほっほっほ! 奴隷1号! 心配はありませんわ! ステラなんかと仲良くしなくても、問題はありませんの! 常識がない人間とは関わらないほうが良いですわ!」


 エレノアは、ブーメランをエドワードに向かって放つ。


「これはこれは、見事なブーメランですね。私にはエレノアの頭に刺さったブーメランが見えますよ。エレノア、悪いことは言わないので、鏡を見てきたほうが良いですね。頭から出血をしているので」


 ステラは、飛んできたブーメランをつかみ、エレノアの頭に強引に突き刺す。


「誰が、常識のない人間ですって!? もう、許しませんわ! 今日こそ、ワタクシの剣と魔法の錆にしてくれますの!」


 エレノアは、頭に突き刺さったブーメランを引き抜き、ステラに宣戦布告をする。


「ちょうど、反乱軍の兵士を相手にするのも飽きていましたし、ケンカを買ってあげましょう。ただ、一生、後悔することになると思いますけどね」


 ステラも、宣戦布告を聞き入れ、エレノアに向かって、剣を向けた。

 そんな一触即発の状況で、サラが大きな声を上げる。


「もう! 皆、ちゃんとやってくださいまし! 反乱軍の人たちが来ますわよ!」


 サラは、剣を構え、前方に目を向けた。

 その言葉を聞いたアリアは、周囲を見渡す。


(カレンさんとレインさんが、あらかた片づけてくれたけど、さすがに増援が来るか。門を奪われたらお終いだし、当然だな。この人数相手だと、ちゃんとやらないと駄目な気がする)


 周囲の確認が終わったアリアは、気持ちを切り替え、向かってくる反乱軍の兵士に備える。

 エドワードと学級委員長三人組も、いつでも戦闘ができるよう、剣を構えた。


 ステラとエレノアはというと、


「命拾いしましたね、エレノア。反乱軍の皆さんに感謝したほうが良いですよ」


「なにを言っていますの!? それは、ステラのほうですわ! ワタクシに頭かち割られなくて、良かったですわね!」


 などと言って、喚声を上げて近づいてくる反乱軍の兵士に備えているようである。


 数十秒後、門の近くで、アリアたちは、反乱軍の兵士たちと戦闘を開始した。


「皆、ここが踏ん張りどころだ! 僕たちが反乱軍を引きつけている間に、カレンさんとレインが門を開けてくれるハズだからな! そのために、奮戦をしよう!」


 エドワードは、向かってくる兵士を倒しながら、大きな声で上げる。


「なに、当たり前のことを言っていますの!? 声を上げる余裕があるなら、一人でも多くの兵士を倒してくださいまし!」


「なにを仕切っているんですか、エドワードさん? ふざけたことをしていると、口を縫い合わせますよ?」


「この中で、一番弱いくせに、しゃしゃり出てくるんじゃありませんわ! そういうことは、ワタクシよりも強くなってから言いなさい! 本当に恥ずかしい男ですわね!」


「エドワードさんが心配しなくても、大丈夫ですよ! 皆、この状況だったら、エドワードさんの言っていたことぐらい、理解しているので! そんなことより、自分の心配をしたほうが良いですよ! 油断していると、倒されてしまうと思うので!」


 サラ、ステラ、エレノア、アリアは、言葉による攻撃をエドワードに仕掛けた。


「……君たち、この状況で僕をいじめて楽しいかい? ちょっと、頑張ろう的なことを言っただけなのに……」


 エドワードは、戦いながら、シュンとしてしまう。

 どうやら、無防備なエドワードに、アリアたち四人の攻撃は効いたようである。

 もちろん、エドワードの近くにいた学級委員長三人組は、剣を振るいながら、エドワードに慰めの言葉をかけていた。


 そんな調子で、アリアたちが門の近くで戦っていると、待望の瞬間が訪れる。

 ギギという引きずる音が辺りに響き出したのだ。

 アリアは、相手をしていた兵士を倒すと、急いで門の方向に振り向く。


 そこでは、門の留め具を破壊したらしいカレンとレインが、木製の門を開いているところであった。


(よし! 勝負は決まったな! これで、やっと寝れるよ!)


 アリアは、反乱軍の兵士に向き直ると、笑顔になってしまっていた。

 対して、反乱軍の兵士たちは、必死の形相でアリアたちに斬りかかっている。

 どうやら、なんとかしてアリアたちを突破し、門を閉めようと考えているようであった。


 だが、その奮戦もむなしく、門が開け放たれ、次々とリベイスト攻略軍が侵入してしまう。

 そのため、さすがに諦めたのか、反乱軍の兵士たちは次々と逃げていく。


「皆さん、追撃をしましょう! 今が好機ですよ!」


 アリアは、すかさず、反乱軍の兵士たちを追うことを提案する。


「もちろんですわ! この機に討ち果たしてやりますの!」


「そのほうが良いですね。少しでも、数を減らしておきましょう」


「おーほっほっほ! 逃げるなんて、許しませんわよ! あなたたちに与えられる選択肢は、降伏するか、死ぬかの二つに一つですの!」


 サラ、ステラ、エレノアの三人は、アリアの後ろを追って、走っていく。


「くっ! これが、僕とアリアとの差か! 認めざるを得ないようだな!」


 エドワードは、悔しそうな顔をして、アリアたちの後を追う。

 学級委員長三人組は、そんなエドワードのことを気遣いながら、近くを走っていた。


 そうして、アリアたちが反乱軍を追ってくると、後ろから近衛騎士たちがやってくる。


(よし! 近衛騎士の皆さんが来てくれたし、これで殲滅速度が上がるハズだ!)


 後ろからくる近衛騎士をチラリと見た後、アリアは頼もしさを感じた。

 だが、次の瞬間、その思いは打ち砕かれる。

 突如、後ろからきた近衛騎士たちが攻撃を仕掛けてきたのだ。


「くっ! なぜ、私たちに攻撃をするんですか!」


 殺気に反応できたアリアは、なんとか、振り返り、剣を防ぐ。

 近くでは、残りの面々も、アリア同様、驚きながら、近衛騎士の攻撃を防いでいた。


「……! なかなか、やるぞ! 皆、油断するな!」


 対して、サラに斬りかかっていた近衛騎士は大きな声を上げ、警戒を促す。

 声に従い、アリアたちに斬りかかってきた近衛騎士たちは、油断なく剣を構える。

 そんな中、エレノアが大きな声を上げた。


「ちょっと! いきなり、なにをしますの!? ワタクシを誰だと思っていますの!? エレノア・レッドですわよ! あなたたち、高貴なワタクシに剣を向けて、ただで済むと思っていませんわよね!?」


 頭に血がのぼっていたエレノアは、左腕を突き出して、炎の球を連発し始める。


「なにっ!? 魔法だと!? こいつ、只者ではないぞ!」


 エレノアに狙われた近衛騎士は、後退しながら、なんとか魔法を斬り払っているようであった。

 辺りにいた近衛騎士たちも、驚きながら、急いで距離をとる。


「おーほっほっほ! ワタクシの魔法に恐れをなしたようですわね!」


 対して、エレノアは高笑いを上げていた。

 そんなエレノアの頭に、ステラは思いっきりチョップをする。


「ほげぇ!? なにしますの、ステラ! せっかく、追い払ってあげたのに、ひどいですわ!」


「いや、逆効果ですよ。攻撃をしたら、なにを言っても聞いてもらえなくなるに決まっています」


 ステラはそう言うと、近衛騎士たちのほうに顔を向けた。

 当の近衛騎士たちはというと、濃密な殺気を放ち、こちらの隙をうかがっているようである。


「……これ、非常にマズい状況ですわよ。さすがに、近衛騎士が相手では勝てませんの」


 サラは、神妙な顔をしながら、近衛騎士たちを見ていた。


「……とりあえず、ダメもとで、説得をしてみますか。エドワードさん、ここはお願いします。多分、この場で一番、相手を怒らせずに、なんとかできると思うので」


 アリアは、近くにいたエドワードに顔を向ける。


「……よし、分かった。だが、失敗しても、文句は言うなよ」


 額から汗を流し、緊張した面持ちのエドワードは、剣を鞘に納め、前に歩み出た。


「僕の名前は、エドワード・ブラック! まず、僕たちの話を聞いてくれ! 僕たちは、近衛騎士団の第1中隊と第2中隊に所属する士官だ! この服装で言っても、説得力はないと思うが、本当のことだ! 私たちの言っていることは、第1中隊長であるバール大尉と第2中隊長であるフェイ大尉に確認してもらえれば、真実だと分かるハズ! だから、攻撃するのはやめてほしい!」


 エドワードは、近衛騎士たちに聞こえるよう、大きな声を出す。

 声を聞いた近衛騎士たちはというと、顔を見合わせているようであった。

 どうやら、本当かどうか、信じかねているという感じである。


 その後、近衛騎士たちは、ジリジリと近くに寄り、話をし始めた。


「たしかに、言われてみれば、第1中隊と第2中隊にいる士官に似ている気がするな……」


「う~ん、あの小さい短髪の子とか、アリア少尉に似ているぞ。あの金髪の巻き髪とかも見覚えがあるな。まさに、サラ少尉といった感じだ」


「あの波打った赤髪にも見覚えがある! もしかすると、本当にエレノア少尉かもな! いきなり魔法を放ってくるところとか、俺が知っているエレノア少尉と一緒だ! 頭のネジが外れている感じが、まさに、エレノア少尉そっくりだと思うぞ!」


 近衛騎士たちは、アリアたちに聞こえるのも、おかまいなしに話をしている。


(お? これは、意外といけるか? まぁ、こんなんでも、私たちは士官だから、顔は知られているハズ。友軍同士が戦うのなんて、たまにあることだけど、近衛騎士相手とかシャレにならないからな)


 アリアは、少しだけ希望を見出す。

 だが、その希望は砕かれてしまう。


「いや、でも、そっくりさんの線もあるハズだ。もし、これで反乱軍の人間だったら、どうする? あの実力だったら、逆に俺たちが倒されてしまうぞ」


「たしかにな。もし、万が一にもやられてしまったら、近衛騎士団の名に泥を塗ってしまうだろう。しかも、俺たちは第3中隊だし、日頃から接していないから、見間違えの可能性もあるしな」


「となると、選択肢は一つか……」


 近衛騎士は、その言葉を最後に、アリアたちのほうを向く。


(……やっぱり、駄目か。そりゃ、この状況で危険は冒せないよな。となると、なんとか逃げながら、私たちのことを知っている人を探すしかないか……)


 明確な殺気を感じながら、アリアは、そんなことを思っていた。

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