表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/206

127 騎馬隊の反撃

 ――次の日の朝。


 ネイピア山脈にいた反乱軍を掃討した3千の軍は、リベイストの城壁が見えるところまで到着していた。


「意外と時間がかかったな。予定だと昨日の夜の時点で、ここまでは来ているハズだったが。まぁ、予定通りに行かないのは、しょうがないことではあるけどな」


 最前線をひたすら走っていたクルトは、立ち止まって、リベイストのほうを見ている。

 そんなクルトの近くには、疲れた顔をしたアリアたちといつも通りの顔のミハイルがいた。


「戦わないで逃げた反乱軍が多かったですからね! ネイピア山脈を逃げ回ってくれたせいで、掃討に時間がかかってしまいましたよ! まぁ、でも、これで後方から来る軍勢の安全を確保できましたし、悪いことばかりではありません!」


 ミハイルも、リベイストを眺めながら、クルトと会話する。


「そうだな。後方から来る軍勢が、逃げた反乱軍相手に手傷でも負わされたら、最悪の一言だからな。まぁ、終わったことだからそれは良い。そんなことより、これから、どうするかだ。私は、今すぐに、リベイストを攻めたいと考えているが、近衛騎士団長はどう考える?」


「さすがに、おやめになったほうが良いと思いますよ! 余程のことがない限り、リベイストにいる反乱軍も防備を固めていると思いますしね! しかも、我が軍は、一日中戦って、疲労困憊です! なので、近衛騎士たちならまだしも、その他の選抜してきた兵士たちは、戦える状態ではありません!」


「そうか……それは残念だ。しょうがない、しばしの間、休息とするしかないようだな。近衛騎士団長、済まないが、他の指揮官に休息だと伝達してくれ」


 クルトはそう言うと、軍勢の後方へと歩いていってしまった。

 もちろん、護衛であるアリアたちも、ついていく。


(ふぅ~、このまま、リベイストを攻めることにならなくて良かった! さすが、団長! おかげで助かった!)


 アリアは、足の重さを感じながら、そんなことを思っていた。

 しばらく歩いた後、適当な空き地を見つけたクルトは、腰を下ろす。

 アリアたちも、その近くで休憩を始める。


 そのような状況で、水筒を飲んでいたクルトは、ふと、エレノアのほうに顔を向けた。


「エレノア。悪いんだけど、木の枝を集めて、火をつけてくれないかな?」


「はぁ……分かりましたの。ちょっと、待っていてくださいまし」


 エレノアはそう言うと、立ち上がり、木の枝を集め、魔法で火をつける。

 すると、クルトは、腰につけていた袋から薄く切られた干し肉を取りだし、火であぶり始めた。

 辺りには、あぶった肉の良い匂いが漂っている。


「いや、付き合わせて悪いね。とりあえず、お詫びの干し肉をあげるよ。これでも食べて、元気出して」


 しばらくすると、ミハイルは、あぶった干し肉を、アリアたち一人一人に渡していく。

 アリアたちは、お礼を言い、受け取ると、あぶった干し肉をハムハムし始める。


(……意外と良い人なのかな、クルト王子は? わざわざ、あぶった干し肉を人数分くれたし。行動があれなだけで、それ以外は普通の人なのかもしれない)


 アリアは、あぶった干し肉をハムハムしながら、クルトを眺めていた。

 すると、視線に気づいたのか、クルトはアリアに話しかける。


「たしか、アリアだったよね? 王都レイルで反乱が起きたときに、父上と母上を守ってくれてありがとう。父上と母上も、その働きには深い感謝の念を抱いていたようだよ」


「いえ、近衛騎士として、当然のことをしたまでです! 私のようなものには、勿体なきお言葉だと存じます!」


 アリアは、かなりかしこまった口調で返答をした。


「いや、そんなにかしこまらないでよ。こっちまで肩が凝りそうだ。そこにいるエレノアみたいな口調で構わないよ」


 クルトは、面倒そうな顔をすると、エレノアのほうを向く。


「へ? ワタクシですの? また、火をつけますの?」


 すでに干し肉を食べ、お休みモードに入りつつあったエレノアは、寝ぼけた声を出す。


「ほら、こんな感じで大丈夫だよ。どうせ、君たち以外には誰も聞いていないし、安心していつも通りにしておいて」


 クルトは、エレノアを無視すると、アリアのほうを向く。


(……いや、そんなこと言われても困るんだけど! 王族に気安く話すなんて、私には無理だ! ここは、エドワードさんになんとかしてもらおう! クルト王子と話したこともあるだろうし、大丈夫なハズだ!)


 とっさにそう考えたアリアは、エドワードの顔を見て、目線で助けを求める。

 対して、エドワードは、はぁとため息をついた後、口を開く。


「……クルト王子、アリアには厳しいですよ。話したことのある私やエレノアはともかく、王族と話したことのないアリアでは、気安く話すことなどできないと思います」


「そんなに難しいかな? 王族だって、ただの人だよ? 君たちとなにも変わらないと思うけどな」


 クルトは、エドワードの言葉を受けて、ムムム顔をする。

 そんな中、アリアたちの下にミハイルがやってきた。


「クルト王子! リベイスト攻めをするための軍議が開かれるので、参加してください!」


「分かった。エドワード、ちゃんと皆に食事を取らせておくようにしておいて。それじゃ、行ってくるよ」


 クルトはそう言うと、ミハイルとともに、どこかへ行ってしまう。

 その後、二人の姿が見えなくなると、アリアは口を開く。


「ふぅ~! 王族の方が近くにいると、緊張しますね! せっかく、あぶった干し肉をいただいたのに、味が、全然、分かりませんでしたよ!」


「本当ですの! なにか、おかしいことを言ったらと思うと、なにも話せませんでしたわ!」


 アリアとサラは、水を得た魚かのように、元気を取り戻す。


「さすがに、緊張しすぎでは? そんなに緊張してしまうと、逆に、おかしな挙動になりそうですけど。ただ、そこでグースカ寝ているエレノアよりはマシだと思いますよ。普通、王族の方がいるのに、居眠りはしないと思うので」


 ステラは、座ったまま、いびきをかいているエレノアを見ていた。


「たしかに、エレノアは論外だな。アリア、サラ。ステラの言う通り、普通に応対すれば大丈夫だ。クルト王子は、団長と同じくらい優しいからな。今まで、怒った顔を僕は見たことがないくらいだ」


 エドワードは、落ちついた声でアリアとサラを諭す。

 発言を聞いていた学級委員長三人組は、なるほどという顔をしている。

 それから、アリアたちは、他愛のない話をしながら、配られた食事をモグモグとすることになった。






 ――リベイスト攻略軍が進軍を停止してから、半日後。


 太陽が高く昇り、気温が上がってきた頃。


 リベイストに籠る反乱軍に動きがあった。

 突如、リベイストの門が開いたのである。

 と同時に、反乱軍の騎馬隊が我先にと出てきていた。


 当然、その喚声と地響きは、クルト率いるリベイスト攻略軍にも聞こえている。

 当のリベイスト攻略軍はというと、迎撃をするために、近衛騎士を前面に出した布陣をとろうとしていた。


 そんな中、アリアたちは、クルトの下に駆けつけるべく走っている状態である。


「なんで、リベイストから出てきたんですかね? 普通に守っていれば、良くないですか? 戦力的にも、十分、持ちこたえられると思うんですが?」


 アリアは、意味が分からないといった顔をしていた。


「きっと、ネイピア山脈をすぐに越えられて、ビビッていますのよ! ワタクシは、焦って出てきたに、一票ですわ!」


 サラは、休憩したため、元気を取り戻しているようである。


「意外とそうかもしれませんね。あとは、ネイピア山脈を越えてきて疲弊しているのを狙った可能性もあると思います」


 ステラは、サラの推測に付け加えた。


「おーほっほっほ! どちらでも良いですわ! リベイストに籠っていれば良いものを! 出てきたからには、ボコボコにしてあげますの!」


 眠ったおかげで元気になったエレノアは、いつもの調子を取り戻している。

 そんな調子で、アリアたちが元気に騒いでいると、エドワードが大きな声を上げた。


「皆! もっと、緊張感を持ってくれ! 万が一、クルト王子が倒されてしまったら、ここにいる全員、王都レイルの門の上でさらし首になるんだぞ!」


 エドワードは、お願いだから的な顔をする。

 隣を走っていた学級委員長三人組も、ウンウンとうなずいていた。


 それから、3分後。

 近衛騎士たちがすでに展開を終えている場所で、アリアたちは、クルトを発見する。


「お。来たみたいだね。それじゃ、護衛をお願いするよ」


 剣をクルクル回していたクルトは、アリアたちを見つけるなり、そう言った。

 もう、騎馬隊が目と鼻の先に迫っている中、クルトは緊張など微塵もしていないようである。


(いや、この騎馬隊の圧力の中、平然とした顔をしているなんて、クルト王子は凄いな。もしかすると、内面ではビビっているのかもしれないけど、少なくとも表情には出ていないよ)


 アリアは、心臓の高鳴りを感じながら、そんなことを思ってしまう。

 刹那、前面に展開していた近衛騎士たちが動き出す。

 一挙に騎馬隊に向かって、突撃を開始したのだ。


 それに合わせて、クルトも一気に走り出す。


「いや、騎馬隊の圧力って凄いね。油断したら、馬にひき殺されそうだよ」


 矢の援護の中、クルトは落ちついた声を出している。

 そんな中、エレノアが大きな声を上げた。


「クルト王子! ここでだったら、魔法を使っても良いですわよね!?」


「あ。良いよ。でも、間違っても、近衛騎士に当てないでね」


「おーほっほっほ! もちろんですの! ワタクシの魔法の凄さを、クルト王子にお見せしますわ!」


 エレノアは嬉しそうな声を上げると、炎の球を連発し始める。

 対して、騎馬隊は、近衛騎士たちの後方から飛んでくる矢によって、隊列を崩されてしまっていた。

 当然、そんな状態では、矢より早く飛んでくる炎の球を避けることなどできるワケがない。


 不運にも、エレノアの魔法に当たってしまった騎馬兵は、またたく間に燃え上がり、馬から転げ落ちてしまう。


「いや、エレノアの魔法は凄いね。威力、速度、連発の速さ。その全てが一級品だ。さすが、魔法兵団長の娘というだけはあるね」


 次々と燃えている騎馬兵を見ながら、クルトは感心した声を上げる。


「おーほっほっほ! お褒めにあずかり光栄ですわ! このまま、騎馬隊を倒してきますの! クルト王子は、後ろからついてきてくださいまし!」


 気を良くしたエレノアはそう叫んだ後、周囲にいた近衛騎士とともに、騎馬隊へ突っこんでいった。


「お、おい! エレノア! どこへ行くんだ!? クルト王子の護衛はどうするんだ!?」


 エドワードは大きな声で呼び止めるが、エレノアには意味がないようである。

 そのまま、クルトとともに、アリアたちは、騎馬隊へ突撃を開始した。


(……クルト王子は、なんか、放っておいても大丈夫そうだな。普通に騎馬兵をものともしていなし。しかも、近衛騎士の皆さんのおかげで、前列にいた騎馬兵が倒されて、騎馬隊の衝撃力が減衰しているからな。そんな騎馬隊なんて、馬に乗ったただの的だよ)


 アリアは、動きが遅くなった騎馬兵に向かって、すれ違いざまに斬撃を放つ。

 対して、騎馬兵も槍を突き出して応戦しようとするが、馬に乗りながら、小柄なアリアを捉えるのは難しかったようである。


 あえなく、剣を振りながら半身になったアリアに簡単に避けられてしまう。

 結果、胴体を斬られた騎馬兵は落馬し、地面をゴロゴロと転がっていった。

 周囲では、サラたちも苦戦することなく騎馬兵をなぎ倒している。


 それから、しばらくすると、形勢の不利を悟ったのか、騎馬隊が退却を始めた。

 対して、前線に展開していた近衛騎士たちは、足を止め、逃げていく騎馬隊を見送る。

 さすがに、近衛騎士といえども、馬の速さに追いつくのは並大抵のことではないためであった。


 そんな中、クルトが、『これ、このまま、リベイストに進撃できないかな?』と言い出す。

 それに対して、『いや、さすがに、矢と魔法の反撃もありますし、行かないほうが良いと思いますよ! わざわざ、やられに行く必要はないかと!』と、ミハイルは進言をする。


(……なんで、そんなに攻めたがるのかな? まぁ、クルト王子も馬鹿ではないだろうし、なにかしらの目的があるんだろうけど、それにしたって突っこみすぎだと思う。とりあえず、団長が進言してくれて、助かった)


 不満顔になっているクルトを見ながら、アリアはそんなことを思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ