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123 クレアとの再会

「お! アリア! だいぶ、久しぶりだな! 元気にしてたか?」


 クレアは、嬉しそうな声でアリアに話しかける。

 現在、アリア、サラ、フェイ、クレアの四人は、休憩をしている状況であった。

 その近くでは、相変わらず、ステラとエレノアが、特別訓練をしている。


 ただ、エレノアの場合、訓練というより、二人がかりでボコボコにされているだけであったが。


「ハイ! いろいろありましたけど、なんとか元気にやっています! 今はフェイ大尉の中隊で、小隊長を拝命している状況です!」


「ハハハ! それは大変だろう! フェイは厳しいからな! サラからも話は聞いているぞ! よく特別訓練と称して、ボコボコにされているってな!」


「ちょ! クレア姉様! いきなり、なにを言い出しますの!? ワタクシ、そんなことは言ってませんわよ!?


 クレアの発言を受け、サラが慌てた様子ですぐに否定をする。


「いや、休暇中、ベッドの上でゴロゴロしながら言っていただろう! 特別訓練でボコボコにされなくて最高ですわって! それに、母上との食事中も、ゆっくりと食べられて最高ですのって、言っていたみたいだしな!」


 クレアは、ニヤニヤしながら、サラの退路を断つ。


「クレア姉様! なんで、中隊長がいるところで、そういうこと言いますの!? ひどいですわ! 中隊長! 違いますの! ちょっと、口からポロっと出ただけですわ!」


 サラは、手をバタバタと動かし、言いワケをしていた。


「ほう……私が忙しい中、わざわざ、お前たちのためを思って、やっていたのにな。サラ、どうやら、お前には、もう少し教育が必要のようだ! さぁ、剣を構えろ!」


 フェイはそう言うと、離れた場所で槍を構える。


「……なんで、こうなりますの? もう、クレア姉様と戦って、クタクタですのに……」


 対して、サラはげんなりとした顔をし、トボトボとフェイのほうに歩いていった。


(……サラさん、ボコボコにされるだろうな。とりあえず、戻ってきたら、持ってきているクッキーを渡そう)


 アリアは、サラに向かって繰り出される槍の連撃を見ながら、そんなことを思う。


「サラ! 頑張れば、ちょっとボコボコにされた程度で済むと思うから、全力を尽くせよ!」


 そんなアリアの隣では、クレアが声を上げていた。


(……変わらないな、クレア大尉は。私がサラさんに剣術を教えていたときも、もっとボコボコにしろ的なことを言っていたしな。過保護な貴族の親たちとは、全然、違うよ。というか、今更だけど、クレア大尉って、なんで、今回の反乱軍討伐に参加したんだろう?)


 アリアはそう思ったため、クレアのほうを向く。


「そういえば、クレア大尉って、どうして今回の反乱軍討伐に参加したんですか? たしか、第3師団は、今、ハミール要塞建築に従事しているハズですよね? だから、ほとんど参加していないって、聞いたんですけど?」


「まぁ、それはそうなんだけど、他の師団が軍を送っているのに、第3師団だけ送らないってのは、さすがに有り得ない話だからな。それで、しょうがなく、私の中隊が来たってワケだ」


 クレアは、ちょっと嫌そうな顔をしていた。


(まぁ、土木工事をしているほうが安全だからな。好き好んで、戦場に行きたい人なんてほとんどいないだろうし、当然か)


 アリアはそんなことを思った後、現在進行形で叫び声を上げているサラのほうに顔を向ける。






 ――30分後。


 休憩時間となったため、アリア、サラ、ステラ、エレノアの四人は、地面に座って休んでいた。

 そんなアリアたちから少し離れた場所では、フェイとクレアが楽しそうに会話をしているようである。


「はぁ……もう、動けませんわ。というか、エレノアは大丈夫ですの? さっきから寝転がったまま、微動だにしませんわよ。相当、攻撃をもらっていましたし、もしかして、気絶しているんじゃありませんの?」


 疲れきった顔をしているサラは、エレノアのことを気にしていた。


「さすがに、それはないと思いますよ。多分、疲労しすぎて、気絶しているように寝ているだけです。試しに、起こしてみますか?」


 アリアの隣で休んでいたステラは、立ち上がり、エレノアに近づく。

 その後、エレノアのお腹に向かって、全体重をかけた肘打ちを放つ。


「ぐへぇ!」


 ステラの肘打ちを受けたエレノアは、体をくの字にして、起床する。


「やっぱり、ただ、寝ていただけみたいですね。これで、サラさんの疑問も解消されたと思います」


 対して、ステラは立ち上がると、サラに向かってそう言った。


「いきなり、なにしますの!? 人がせっかく寝ていたのに! もう、今日は散々な日ですわ! 二人がかりでボコボコにされ、挙句の果てにお腹に肘打ちをされて、良いことが一つもありませんの!」


 エレノアは、疲れも相まって、感情を爆発させてしまう。


「……まぁ、とりあえず、気絶していなくて良かったですわ。はぁ……少しでも体力を回復させるために、ワタクシも寝ることにしますの」


 サラはそう言うと、地面に横になり、寝ようとする。


「サラさん、やめておいたほうが良いですよ。寝たら、気持ちが切れてしまいますし、なにより、体が動かなくなりますからね。まだ、特別訓練も終わっていませんし、座って休むだけにしておいたほうが無難かと」


 ステラは、寝ようとしたサラに声をかけた。


「たしかにそうですわね。こんなところで、ケガをするワケにはいきませんもの。座って休むことにしておきますわ」


 横になっていたサラは、起き上がると、座って休み始める。


 そんなサラの隣では、相変わらず、エレノアが、『キー! せめて、一対一で戦いたいですわ! 格闘技でボコボコにされながら、戦うのは無理ですの!』などと騒いでいた。

 すると、クレアとフェイがエレノアの下にやってくる。


 どうやら、エレノアがキーキー騒いでいるので、様子を見にきたようであった。


「どうした、レッド家のご令嬢? なにか、嫌なことでもあったのか?」


 クレアは、頭をクシャクシャしていたエレノアに尋ねる。


「二対一で戦うのが嫌ですの! 一対一ならまだしも、二対一では訓練になりませんわ!」


 エレノアは、すぐに文句を言う。


「だそうだ、フェイ。さすがに、フェイの先輩二人とレッド家のご令嬢一人では、私も厳しいと思うな。というか、私がいるから人があぶれているんだろう? だったら、私とフェイが戦えば良い! 幸い、サラもボコボコにされて、動けないだろうし、これで人数も合うハズだ!」


 クレアは、なんとかするための提案をする。


「その案って、クレアが私と久しぶりに戦いだけの気もするけどな。まぁ、良い。それじゃ、先輩方に頼んでくるよ」


 フェイはそう言うと、少し離れた場所で休憩をしている先輩方三人組の下に向かう。

 それから、しばらくすると、特別訓練が、ふたたび開始される。


 ただ、先輩方三人組が途中で疲れたと言って帰ってしまったため、アリアたちは、フェイとクレアの戦いを観戦することになってしまっていた。

 そんな中、フェイとクレアは、先ほどから火花を散らして戦っている。


「いや、凄いですね、クレア大尉は! 中隊長と互角ですよ!」


 地面に座っていたアリアは、驚きの声を上げる。


「本当ですわね! レイル士官学校の卒業試験で優勝したのは知っていましたけど、さすがに中隊長のほうが強いと思っていましたの!」


 サラも、アリア同様、驚いた表情をしていた。


「まぁ、近衛騎士団にいれば、嫌でも強くなりますからね。中隊長はレイル士官学校を卒業してからいるので、相当、強いハズなんですけど、クレア大尉も負けてはいないみたいです」


 ステラは、珍しく、驚いた顔をしている。

 そんな中、エレノアが疑問を口にした。


「というか、こんなに強いのに、どうして近衛騎士団に配属されなかったのかが疑問ですの。卒業試験で優勝しているようですし、なおさら、よく分かりませんわ。サラ、そこら辺の事情はどうなっていますの?」


「ワタクシも、よく分かりませんの。ただ、気づいたら、サリム基地に配属されて、モートン家の屋敷に帰ってきていましたわ。そんなものだと思っていたので、理由を聞いたこともありませんの」


 地面に座っていたサラは、そう返答する。


「まぁ、なにかしらの事情があるのかもしれません。私を含め、例外はあるようですし」


 アリアは、槍の一撃を受け止めた後、反撃をしているクレアを見ながら、簡単な推測をした。


「そもそも、士官の配属は、能力の兼ね合いとか、貴族の力関係とか、いろいろなことが考慮された結果、決まるみたいですし、いろいろと大人の事情があるのはたしかでしょう」


 ステラは、アリアの発言を少しだけ補足する。

 そんな会話をしていると、軍議終わりのミハイルがアリアたちの近くにやってきた。


「お! 戦っているのは、サラのお姉さんのクレアだね! それにしても、近衛騎士団に来て、時間が経ったフェイと互角とは、なかなかやるみたいだ! やっぱり、近衛騎士団にほしかったな! 普通の部隊にいて、あれだけ強いなら、今頃、一線級の中隊長になっていただろうしね!」


 ミハイルはいつも通りの顔で、少し残念そうな声を出す。


「その言い方だと、クレア大尉は、元々、近衛騎士団に配属される予定だったんですか?」


 すかさず、アリアは質問をする。

 サラ、ステラ、エレノアは、誰に言われるワケでもなく、ミハイルのほうを向く。


「その通りだよ! そもそも、前にも言ったと思うけど、レイル士官学校から近衛騎士団に配属される人って、そのときの近衛騎士団長が推薦をするんだよね! 実際、ステラはともかく、アリアとサラは、僕が推薦したから、近衛騎士団に配属されたのは知っているでしょう? それで、当時の団長だったレナード殿は、クレア、フェイ、バールの三人を推薦したんだよ!」


 ミハイルはそう言うと、一呼吸を置く。


「となると、やっぱり、大人の事情があったんですか?」


 アリアは、言葉が切れたのを確認し、合の手を入れる。


「まぁ、大人の事情ってよりは、当時の状況が関係していたんだよね! 当時、エンバニア帝国がハミール平原を通って、アミーラ王国に攻めこみそうな気配があったんだよ! それを考慮して、アミーラ王国軍本部が、第3師団に、レイル士官学校を優秀な成績で卒業した者を配属するように決めたってのがあってね! それが理由で、クレアは近衛騎士団ではなくて、第3師団に行ったっていうワケ!」


 ミハイルは、クレアが第3師団に行った理由を説明した。


「そうだったんですね。でも、それだと、フェイ大尉とバール大尉も、第3師団に配属されそうになったのではないですか?」


 アリアは、当然の疑問を口にする。


「まさに、そうでさ! 当時、副団長だった僕とレナード殿で、アミーラ王国軍本部のお偉方を説得して、やっとのことでフェイとバールを近衛騎士団に配属されるようにしたんだよね! もちろん、クレアのことも必死にお願いしたよ! ただ、当時の第3師団長が、わざわざ、アミーラ王国軍本部まで来て、サリム出身のクレアを配属してくれって、説得して回っていたから、さすがに無理だったね!」


 ミハイルは、当時の裏話をアリアたちに説明していた。


「……なんだか、配属一つとっても、いろいろとあるみたいですわね。もし、アミーラ王国軍本部に行ったとしても、人事系には行きたくないですわ。絶対、面倒ですもの」


 話を聞いていたサラはボソッとつぶやいた後、げんなりとした顔になってしまう。

 その隣で、エレノアとアリアも、行きたくない顔をしていた。


「うん、その予想は正しいね! 僕も、少佐の頃、アミーラ王国軍本部で人事系の仕事をしていたけど、やれこの人はここが良いだの、ここにしないと圧力かけるぞとか、もうね、何度、キレそうになったか、分からないくらい大変だったよ! 直近だと、バールの姉が行っていたけど、何回も近衛騎士団に帰りたいって言っていたみたいだね! それくらい、精神的にやられるから、行かないのであれば、そっちのほうが僕は良いと思うな!」


 ミハイルは、当時のことを思い出したのか、少しだけ疲れたような顔をしている。


(……絶対、弱音とか言わなそうなバール大尉の姉が、そこまで言うなんて、相当、ヤバいんだろうな。まぁ、私は平民だし、貴族の力関係とか分からないから、アミーラ王国軍本部の人事系に行くことはないだろうけど、一応、気をつけておこう)


 火花散らす戦いを繰り広げているフェイとクレアを見ながら、アリアはそんなことを思っていた。

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