表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/162

103 ロバートとの再会

 ――12月中旬。


 王都レイルでは、雪の降る日が増えていた。

 そのため、気温が低い日が続いている。


 そんな中、近衛騎士団の姿は、アミーラ王国北部にあるルーンブル山脈の麓にあった。

 現在、アリアたちは、ルーンブル山脈での登山訓練を終え、天幕の中で休んでいる。


「……去年も来ましたけど、相変わらず、ここは寒いですね。早く王都レイルに帰りたいです……」


 アリアは、天幕の中にある簡易ベッドの上で、震えていた。


「本当ですの……それでも、レイル士官学校にいたときとは違って、天幕を張れるだけマシな気がしますわ……」


 ロウソクの明かりが揺れる中、サラもベッドの上に座っている。


「ただ、それも、大雪が降らなければの話ですがね。さすがに、この天幕では、雪の重みに耐えられないと思います。なので、倒壊しても大丈夫なようにしておいたほうが良いかと」


 ステラは、ベッドの周りに木などを置いていた。

 どうやら、少しでも、被害を軽減しようと考えたようである。


「おほほ……アリアたちは、元気がありますわね。ワタクシ、疲れたので、もう寝ますわ。火の始末だけお願いしますの」


 毛布にくるまっていたエレノアはそう言うと、ベッドの上に横になった。

 すると、すぐに、いびきが聞こえてくる。


「エレノアさん、大変そうでしたからね。私たちと違って、炎の魔法で、雪を溶かしながら進んでいましたし。そんな状況で、私たちと同じ荷物を背負って歩くのはキツかったに違いありません」


 アリアは、ベッドの横にある荷物を見ていた。

 その荷物はアリアの半分くらいの大きさがあり、見た目からして重そうである。


「まぁ、自業自得だとは思いますけどね。中隊長に、『そんなに騒ぐ体力があるなら、ここからは魔法で雪を溶かしながら進め!』って、怒られていましたし」


 ステラは、なにも思っていないのか、いつも通りの顔をしていた。


「うるさかったのは事実ですわ。それでも、なんだか、可哀そうでしたの。休憩中、自分の小隊の様子を見た後、エレノアを見にいったら、死にそうな顔をしていましたわよ」


 サラは、憐みの視線をエレノアに向けている。


「それにしても、なんで、エレノアさん、雪山登山で興奮していたんでしょうね? いつもにも増して、嬉しそうにはしゃいでいましたけど。私なんて、脱落しないよう、頑張って歩くので精一杯でしたよ。一応、小隊長として指揮はしていましたけど、実際、満足な指揮をできてはいなかったと思います」


 アリアは、苦々しい顔になってしまう。


「それは、ここにいる全員がそうなのでは? というか、自分から聞きに来てくれるので、ほとんど指揮らしい指揮をする必要がありませんでした。言われる前に動くのは、さすが、近衛騎士といったところですか」


「ステラの言う通りですの。でも、それに甘えては駄目ですわ。いざというときに、適切な指示ができなくなる可能性がありますもの。やっぱり、自己錬磨は必要ですわ」


 ステラとサラは、今日、思ったことを話している。


「はぁ……皆、能力が高いですからね。士官として求められる能力も、おのずと高くなるのは必然ですか。改めて、頑張らないといけないなと思いました」


 アリアも、率直な感想を口に出していた。

 それから、アリアたち三人は、自分たちになにが足りないのかを、解決策を含め、話し始める。

 白熱した議論は、寒さを忘れさせてくれていた。






 ――次の日の朝。


 アリアたちが毛布にくるまって、天幕で寝ていると、外からエドワードの声が聞こえてくる。


「……うん? なんですかね? ちょっと、見てきます」


 寝ぼけ顔のアリアは、毛布にくるまっているサラとステラにそう言った。


「お願いですの」


「すいません、お願いします」


 サラとステラは、毛布から出る気配がない。

 どうやら、寒さと眠気には勝てないようである。


「……なんですか、エドワードさん? 朝から、そんなに騒いで……」


 アリアは、天幕の垂れ幕をめくり、目の前にいたエドワードに向かって、そう言った。


「レイル士官学校の入校生が来たみたいだぞ! それで、ロバート大尉に挨拶をしようと思ってな! アリアたちもと、誘いに来たというワケだ!」


 エドワードは、眠気のない、元気な顔をしている。

 ロバートに会えるのが楽しみなようである。


「え!? ロバート大尉が来ているんですか!? これは会いにいくしかありませんね! エドワードさん、ちょっと、待っていてください!」


 アリアはそう言うと、垂れ幕を下げ、天幕の中で準備を始めた。

 二人の会話が聞こえたのか、サラとステラも起き上がり、外に出るための準備をしている。


 エレノアはというと、『うぅ……寒いけど、しょうがありませんわね。恩師には、挨拶をしないといけませんの……』などと言って、ベッドから起き上がっていた。


(……エレノアさんでも、そういうこと思ったりするんだ。いや、さすがに失礼すぎか。頭のネジが飛んでいるだけで、根本的に悪い人ではないからな)


 ガサゴソ動いているエレノアを見ながら、アリアは失礼なことを考える。






 ――20分後。


「お! お前ら! 久しぶりだな! 元気にしていたか!」


 レイル士官学校でアリアたちの担任であったロバートは、白い息を吐きながら、大きな声を上げた。


「ハイ! レイル士官学校を卒業してから、いろいろありましたけど、なんとか元気にやっています!」


「お久しぶりですわ、ロバート大尉! 元気そうでなによりですの!」


「何度か死にそうになりましたけど、なんとか生きています。ロバート大尉も、お元気そうですね」


「お会いするのを楽しみにしていました! ロバート大尉の教えのおかげで、今でも元気にやれています!」


 アリア、サラ、ステラ、エドワードの四人は、それぞれ、元気です的なことを口々に言う。


「そうか! とりあえずは元気みたいだな! 近衛騎士団の活躍は、俺も聞いている! 相当、大変だったろう? レイル士官学校を卒業して、少しで戦場だったからな! まぁ、無事にこうして会えて、俺は本当に嬉しいぞ! 教え子を送り出したばかりだというのに、死んだと聞かされたら、最悪だったからな!」


 ロバートはそう言うと、笑顔になる。

 どうやら、アリアたちを心配してくれていたようであった。

 そこから、近衛騎士団のこと、今のレイル士官学校の入校生のことなどを楽しそうに会話する。


 しばらくすると、入校生と思わしき男性がロバートに近づく。


「ロバート大尉! 4組の入校生を見回ってきました!」


「おう、ブルーノ! どうだった?」


「皆、住居作りを優先しています! 今のところ、ケガをした者などはいない状況です!」


 ブルーノは、大きな声で報告をする。

 手入れされた紫色の髪に、自信のある顔が特徴的な男性であった。


「そうか! 報告、ご苦労! お前も生存訓練に戻れ!」


「ハイ! 了解しました!」


 ロバートの指示を受けたブルーノは、一瞬、アリアたちのほうを見た後、森の中へ戻っていく。


「彼がロバート大尉の組の学級委員長ですか。なんだか、エドワードさんよりも弱そうですね」


 ブルーノの去っていく姿を見ながら、ステラはつぶやく。


「……さすがに、近衛騎士団の一員として戦争も経験したからな。レイル士官学校の入校生には負けないと信じたい……というか、負けたらシャレにならないだろう」


 エドワードはというと、顔を青くしながら、そう言った。

 どうやら、自分が負けた場合にどうなるかを想像したようである。


「おいおい、エドワード! 心配をするな! ブルーノの強さは、学級対抗戦のときのお前くらいだ! 今のお前だったら、一方的にボコボコにできるだろうよ! 成長力がお前の持ち味なんだから、自信を持て!」


 ロバートはそう言うと、エドワードの背中をバンバンと叩く。


「ありがとうございます! そんなことを言ってくれるの、ロバート大尉くらいです!」


 背中を叩かれたエドワードは、感激しているようである。


(エドワードさんは配属された士官の中で一番弱いからな。強さが正義の近衛騎士団で、褒められることは、ほとんどなかっただろう。まぁ、それは私たちも一緒ではあるけど。戦争中もいろいろあったし、これで、エドワードさんの気持ちが少しでも楽になったら良いな)


 アリアは、嬉しそうにしているエドワードを見ながら、そんなことを思う。

 ひとしきり、エドワードを元気づけたロバートは、改めて、アリアたちのほうを向く。


「はぁ……今から考えると、お前たちの代は優秀なやつが多かった。それに引きかえ、今年はな……」


 ロバートは、アリアたちを見ながら、ため息をついてしまう。


「そんなに悪いんですか? さっきのブルーノって人は、至って普通に学級委員長をしているように見えましたけど」


 アリアは、疑問に思ったことを質問する。


「あいつは、全然、マシなほうだ。当時のお前たちと比べると、見劣りはするがな。ただ、貴族的な思考は直さないと、軍で生き残るのは厳しいかもしれない。軍で指揮することになる奴らは平民だからな。あのままの状態で、戦争に突入したら、部下に後ろから弓を射られるかもしれない」


 ロバートは深刻そうな顔をし、そのまま、続けた。


「さっきも言ったが、ブルーノでも良い方だ。他の奴らは、なんだろうな、自分が戦場で士官として戦うってことを考えていない気がするな。自分は後方部隊に行って、楽をするんだって気持ちが透けて見える。だから、訓練もそこそこで良いんだみたいに考えているんだろう。そんな考えでは、配属されても、上手くいかないに決まっている」


 愚痴は続いてしまう。


「だから、お前たちの代より、平均的な成績は圧倒的に低い。もちろん、優秀な奴の数も少ない。まぁ、お前たちの代が近年まれにみる良い代っていうのもあるが、それを差し引いても、今年は厳しいな。俺も、散々、指導はしてきたが、なかなか、上手くはいかないのが現状だ」


 ロバートはそう言うと、はぁとため息をついてしまう。


(……大変そうだな、ロバート大尉。レイル士官学校にいるときは、怒られてばっかりだったけど、私たちのためにいろいろと考えてくれていたのは事実だからな。今になって、そのことを痛感するよ)


 アリアは、げんなりとした顔のロバートを見ながら、そんなことを思ってしまう。






 ――2時間後。


 ロバートとの再会を終えたアリアたちは、現実に戻ってきていた。


「おい、アリア! なんだ、その指揮は! 自分の小隊を殺すつもりか! せっかく、お前自身が強くなっても、指揮をできなければ意味がないだろう! お前は小隊長なんだぞ! もう少し考えて指揮をしろ!」


 アリア、サラ、ステラ、エレノアの後ろにいたフェイは、大きな声で叫ぶ。

 なるべく、自分たちで考えさせるよう、指揮をしているようであった。


「ハイ! 分かりました!」


 対して、アリアは返事をすると、ふたたび、小隊の指揮に戻る。

 現在、近衛騎士団は、雪山で、中隊対中隊の模擬戦闘訓練をしていた。

 アリアたち四人は、第2中隊の小隊長として、必死に指揮をしている状況である。


 相手は、エドワードと学級委員長三人組が所属する第1中隊であった。

 さらに言えば、アリアが指揮する第1小隊の相手は、かつて1組の学級委員長だった人が指揮をする小隊である。


(くっ! さすが、1組の学級委員長さん! 剣術の腕は、私のほうが勝っているけど、指揮能力は負けているみたいだな! 小隊の皆さんが悪いワケではない! 押されているのは、小隊長である私の責任だ!)


 一面の銀世界の中で指揮をしながら、アリアはそんなことを思ってしまう。

 そんな中、フェイはエレノアの近くに移動し、叫びまくっていた。

 どうやら、一番押されているエレノアの小隊をなんとかしようと考えたようである。


「おい、エレノア! お前の小隊が抜かれたら、中隊は敗北するぞ! 私と指揮を変わるか? そっちのほうが、お前にとっても良いだろう? 楽ができるしな!」


 フェイは、エレノアに向かって、大声を上げた。


「いいえ、変わりませんわ! そんなことをしたら、士官として、ワタクシがいる意味がありませんの! 中隊長は、そこで見ていてくださいまし! すぐにエドワードを捕縛してきますの!」


 エレノアはそう叫び返すと、いきなり戦い方を変える。

 相手のエドワードが指揮をする小隊は、かなり戸惑っているようであった。

 どうやら、押されていたのではなく、相手の小隊を死地に誘いこんでいたようである。


 しばらくすると、エドワードの小隊は壊滅をし、小隊長であるエドワード自身は捕縛されてしまっていた。

 その後、エレノアの小隊が第1中隊の後方に回る。


 結果、これが決定打となり、挟みうちにあった第1中隊は敗退をしてしまう。


(ふぅ~、勝てて良かった! もし、私の小隊が抜かれて、同じ状況になったら、戦犯になるところだったよ!)


 アリアはエドワードを見ながら、そんなことを思った。

 当のエドワードはというと、縄でグルグル巻きにされ、ピクリとも動かない。

 どうやら、エレノアに捕縛された上、戦犯となってしまったため、魂が抜けてしまったようである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ