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101 サラ、思い立つ

 結局、エドワードとミハイルの説得によって、エレノアの下に魂は戻ってきた。

 ただ、休暇中はレッド家の屋敷で過ごすようである。

 そのため、自分の部屋の整理をした後、エレノアは馬車に乗り、帰っていった。


 もちろん、ミハイルも休暇中であるので、自分の屋敷に帰っていく。

 アリア、フェイ、エドワードの三人がその馬車を見送る頃には、夕食の時間なっていた。

 とりあえず、三人は夕食を食べるために、食堂へと向かう。


「それにしても、エレノアに魂が戻って良かったな。まぁ、休暇もあるし、終わる頃には、気持ちを切り替えてくるだろうさ」


 フェイは、夕食を食べながら、そう言った。

 そんなフェイの目の前には、アリアとエドワードがいる。


「まぁ、最悪、落ちこんだまま帰ってきても、アリアとか、サラとかいるので大丈夫ですよ。一緒に勤務をすれば、そのうち慣れて、いつもの騒がしいエレノアに戻ると思います」


 エドワードは、あまり心配はしていないようであった。


「うん? 一緒に勤務? エドワード、どういうことだ?」


 フェイは、エドワードの言葉に違和感を覚える。

 アリアも、嫌な予感がしたので、エドワードのほうを向く。


「え? 団長から聞いていないんですか? エレノアは、第2中隊に配属されるみたいですよ。アリアたちと一緒のほうが良いだろうって、団長は考えたようです」


「……まぁ、良いけどさ。別に若手士官が一人増えたところで、困りはしないからな。ただ、アリアとサラはまだしも、ステラがいるのに大丈夫かと思っただけだ。そこらへんに関して、団長、なにか言っていなかったか?」


 フェイは、エドワードに尋ねる。


(たしかに、そこが問題だよな。一応、最近では、表面上、仲良くしているみたいだけど。それでも、相性は悪いままだからな。一緒に働くとなると、厳しい気がする)


 アリアは、げんなりとした顔をしながら、そんなことを考えていた。

 そんな中、エドワードが口を開く。


「私も疑問に思ったので、団長に聞いてみたところ、『まぁ、大丈夫なんじゃない? それになにかあっても、周りの近衛騎士たちが止めてくれるだろうしね!』って言っていましたよ」


「……どうせ、そんなことだろうと思った。まぁ、実際、その通りだから良いけどさ。はぁ……面倒事だけは勘弁してくれよ……」


 フェイはそう言うと、夕食を食べ始めた。


(いや、それって、現場に丸投げってことじゃん! ちょっと、困るよ! 絶対、二人を止めるのは私とサラさんに決まっている!)


 二人の会話を聞いていたアリアは、はぁとため息をつくと、夕食を食べる。






 ――2週間後の夜。


 休暇の最終日であったため、女子寮には近衛騎士たちが続々と帰ってきていた。

 そんな中、女子寮の鍵などが置かれた部屋にステラが入ってくる。


「アリアさん、女子寮の当直、お疲れ様でした。お土産を持ってきたので、ここに置いておきますね」


 ステラはそう言うと、アリアの目の前に、ナイフを置いた。


「うわぁ! ナイフじゃないですか! ありがとうございます! ちょうど、これくらいの大きさの物がほしかったんですよね!」


 アリアは、鞘からナイフを抜くと、手に取り、様々な角度から眺める。


「良かったです、喜んでもらえたようで。戦争中、アリアさんが手ごろな大きさのナイフを欲しいと言っていたので、ちょうど良いなと思って、買ってきました」


「わざわざ、私のために、ありがとうございます! 高かったんじゃないですか? 結構、良い物に見えますよ?」


 アリアは、イスに座った状態で、ステラの顔をうかがう。


「まぁ、それなりとだけ言っておきます。あまり値段を言うと、使いづらくなると思うので」


 ステラは、言葉を濁す。

 どうやら、かなり高価な物であるようだ。


「分かりました! これ以上は聞かないほうが良いですね! とにもかくにも、ありがとうございます! もらったナイフは、大切に使わせてもらいます!」


 アリアはそう言うと、ナイフを鞘におさめ、懐にしまった。

 その後、ステラとアリアは、休暇中の話をし始める。

 しばらくすると、二人のいる部屋の扉がバンと乱雑に開かれた。


「おーほっほっほ! アリア、お土産を持ってきてあげましたわ! たしか、クッキーが好きと言っていましたわよね? ワタクシが、屋敷にいるときよく食べている物を持ってきましたの! 泣いて感謝しながら、食べると良いですわ!」


 部屋に入ってきたエレノアは、紙袋を手に持ち、大きな声を上げる。


「はぁ? なんで、いるんですか? 私の記憶だと、エレノアは魔法兵団の所属だったハズなのですが? ここは、近衛騎士団の女子寮ですよ? 来るところを間違えていませんか?」


 ステラは、いつも通りの顔から、低い声を出す。


「え? アリアから、聞いていませんの?」


 対して、エレノアは、アリアのほうを見ながら、キョトンとした顔をする。


「あ! ステラさん、すいません! 実は……」


 アリアはイスから立ち上がると、ステラに事情を説明した。


「なるほど。それで、エレノアがここにいると。まったく、迷惑な話ですね」


 ステラは、話を聞き終わると、そうつぶやく。


「おーほっほっほ! ステラ! ワタクシと一緒に働けるなんて、光栄だと思いなさい! それでは、失礼しますわ! お風呂場の状況を確認しないといけませんの!」


 エレノアはそう言うと、机の上に紙袋を置き、部屋を出ていってしまった。

 どうやら、ステラの言葉を気にしないほど、機嫌が良いようである。


「はぁ……なんだか、面倒なことになりそうですね。アリアさん。荷物の整理をするので、ここらへんで、私も失礼します」


 エレノアが出ていった後、ステラも部屋を後にした。

 アリアはというと、返事をして、見送る。

 その後、エレノアからもらった紙袋を開け、中に入っていたクッキーをモグモグし始めた。


(うわ! これ、滅茶苦茶、おいしいな! 私がいつも買っているようなクッキーとは段違いだ! きっと、値段もヤバいくらい高いんだろうな!)


 アリアは、紙袋に入ったクッキーを次々と食べていく。

 一瞬、もっと味わって食べたほうが良いかとも考えたが、そんな思考が流れてしまうほど、クッキーはおいしかった。


 結果、10分後には、紙袋の中に入ったクッキーが消えてしまう。


(ふぅ~、おいしかった! さて、そろそろ、設備の点検とか、もろもろの仕事をするか。今日で、当直も最後だし、抜けがないようにしないとな)


 そう思ったアリアは、鍵などが置かれた部屋を出ていった。






 ――4時間後。


(あと帰ってきていないのは、サラさんだけか。それしても遅いな。道中、なにかあったのかもしれない)


 アリアは、部屋の上のほうにある時計を眺めながら、そんなことを思う。

 すると、女子寮の入口に馬車のとまる音が聞こえてきた。


(お! 帰ってきたのかな? とりあえず、様子を確認するために、外へ出るか)


 そう思ったアリアは、部屋を出て、女子寮の入口に向かう。


(うわ、寒い! さすがに、11月中旬にもなると夜は冷えるな!)


 アリアは、体をさすりながら、女子寮の入口に到着する。

 目の前には、見覚えのある馬車がとまっていた。


「あ! アリア、遅くなってごめんですの! はい、これ! お土産のクッキーですわ!」


 ちょうど、馬車から降りてきていたサラは、アリアに紙袋を渡す。


「ありがとうございます、サラさん! それにしても、ずいぶん、遅かったですね? なにか、事件にでも巻きこまれたんですか?」


 紙袋を受けとったアリアは、質問をする。


「事件になんて、巻きこまれていませんわよ! ただ、あまり人がいない時間を狙って、帰ってきただけですの!」


「え? なんで、そんなことをする必要があるんですか?」


 アリアは、よく分からないといった顔をした。


「その答えは、この子ですの!」


 サラはそう言うと、馬車から、なにやらブヒブヒと鳴く生き物を地面に下ろす。


「え!? なんですか、そのブタは!?」


 馬より一回りほど小さいブタを前にして、アリアは驚いた声を上げてしまう。


「シィですの、アリア! この子は、アリアも知っているフユブタのピッグちゃんですわ! 屋敷から連れてきましたの!」


 サラは口に人差し指を当てた後、説明をする。


「いや、なんで連れてきちゃったんですか!? バレたら、中隊長に殺されますよ!」


 アリアは、サラに小声で尋ねた。

 女子寮の部屋で、ペットを飼うのは、禁止されているためである。

 理由としては、共同生活をする上で、匂いなどが問題になる可能性があったからだ。


「荒んだ近衛騎士団での生活には、ピッグちゃんが必要ですの! この子がいれば、厳しい訓練にも耐えられるハズですわ!」


 当のサラはというと、ピッグちゃんの背中を撫でている。


「サラさん! 言いたいことは分かりますけど、これから、どうするつもりなんですか!? 自分の部屋に隠したとしても、匂いでバレますよ!?」


「もちろん、対策は考えてありますわ! ピッグちゃんは、基地にある馬小屋に隠しますの! あとは、明日、中隊長に作ってきた書類を見せて、許可をもらえば、万事解決ですわ!」


 サラは、相当な自信があるようであった。


「……本当に大丈夫なんですか? というか、早くピッグちゃんを連れていったほうが良いと思います! ここにいたら、バレてしまいますよ!」


 アリアは、とりあえずといった感じで提案をする。


「それも、そうですわね! アリア、バレないように手伝ってくださいまし!」


「え!? 私も手伝うんですか!? 一人で連れていってくださいよ!」


「なにを言っていますの! いつ、誰と出くわすか分からない状況で、ピッグちゃんを連れてはいけませんわ! アリアには、人が来ないか、見張りをしてほしいですの!」


「嫌ですよ! 見つかったら、私も怒られるじゃないですか!」


 アリアは、露骨に嫌そうな顔をした。


「そこをなんとかですの! 当直と歩いていれば、怪しまれないハズですわ!」


 サラは、顔の前で手を合わせて、頼みこむ。

 結局、粘られてしまったため、アリアは、渋々といった感じで了承した。

 その後、第2中隊の馬小屋に、ピッグちゃんを紛れこませることに成功したアリアとサラは、女子寮へと戻っていく。






 ――次の日の朝。


 訓練場では、近衛騎士団の全員を集めて、全体での朝礼を行われる。

 そこでは、新たに入団したエレノアの紹介などがあった。

 20分もすると、朝礼が終了し、訓練場にいた部隊は解散となる。


 その後、アリアたちの所属する第2中隊でも、朝礼が行われた。

 もちろん、そこでも、エレノアは自己紹介をすることとなる。

 朝礼が終了した後は、休暇が終わって初めての日だということもあり、各人で体を動かすよう、フェイが指示をしていた。


 そんなワケで、アリア、サラ、ステラの三人は、訓練場で走ったり、軽く剣を振るったりしている。

 エレノアはというと、ミハイルに連れられて、挨拶回りに行っているようであった。


「サラさん……ちょっと、挙動不審すぎませんか。そんなにキョロキョロしていたら、怪しいですよ」


 アリアは、軽く素振りをしながら、サラを見ている。

 当のサラはというと、アリアと同じく素振りをしていた。

 ただ、先ほどから、フェイのほうを見たり、周囲を見回したりしている。


 どうやら、走っているフェイが暇になるときを見計らっているようであった。


「そうですよ、サラさん。これから中隊長を説得しようというのに、そんな様子では、上手くいくものも上手くいきませんよ。落ちついてください」


 二人の近くで、カレン流拳法術の練習をしていたステラも、サラのほうを向いている。

 ステラは、事前にアリアから聞かされていたため、ピッグちゃんの件を知っていた。


「そうですわね! ステラの言う通りですの! とりあえず、書類を読み直して、なにを聞かれても大丈夫なようにしますわ!」


 サラはそう言うと、地面に座り、持ってきていたカバンから書類を取りだす。

 その後、熱心に読み始める。


(……なんか、書類の枚数が多い気がする。もしかして、あれ全部、中隊長に見せる書類なのか?)


 疑問に思ったアリアは、素振りをやめると、サラに質問をしようとする。

 だが、その前に、動きをとめていたステラが口を開いていた。


「サラさん。一応、聞いておきますけど、その書類全部を見せるワケではありませんよね?」


「え? 全部見せますわよ? これでも、要約してまとめたものですの! どうしても、これ以上は削れませんでしたわ!」


 サラは、書類から顔を上げると、そう言い放つ。


(……これは、厳しいかもな。まぁ、でも、全部、大事な内容かもしれないし、とりあえず、なにか助言をするのはサラさんが帰ってきた後にしておこう)


 アリアは、サラの持っている書類を見ながら、そんなことを思ってしまう。

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