表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

4

 アルマーニ草原のフィールドボスであるキングボアを倒し、地の魔石(大)他を手に入れた俺たちはいったんクレイドルの街に帰還していた。

 体力や魔力を回復するのももちろんだが、先程の戦闘で短剣が一本駄目になったのである。

 修理するにしろ買い直すにしろ、とりあえず街に戻って仕切り直しということになったのだ。


 DAOの回復手段は基本的に食事である。

 料理関係のスキルを持っていれば出先でも食事ができるらしいが、基本は料理屋で食事をするのが普通だった。

 昨今のVRゲームにもれず、このDAOもプロの監修による料理が味わえるらしい。

 料理によっては一定時間特殊効果も付くので、食べたい料理と欲しい特殊効果で悩むのがゲームあるあるだったりする。


 ちなみに魔物からも一定確率で食材などが落ちるが、モンスターの一部ではなくあくまでもどこかからくすねた野菜や果物や鉱物類ということになっていた。

 アルマーニ草原でいうと、ホーンラビットからアルマーニンジン、グラスウルフからアルマーニ麦、キングボアからは大量のアルマーニ芋を回収できる。

 とはいえ料理スキルがなければまともな食事も作れないので、NPCの食材屋にでも売り払うことにしよう。


「おりょ、もしかしてしぃちゃん?

 ……こっちにも来てたんだ」

「わふ?」


 俺の後について屋台の料理を眺めていた次郎丸が誰かに呼び止められ怪訝そうな顔をする。

 振り返るといかにもな魔女の格好をした女の子が三毛猫を連れて立っていた。

 名前欄を見てすぐに思い当たる。


「おお、くまじゃないか。久し振りだな」

「…………? ど、動物アバターが喋った?

 よく見ると二足歩行だし、どうなってんの?」

「あ、そうか。俺だよ俺、俺がしぃ。こいつは俺の愛犬の次郎丸だ」


 混乱する少女にかいつまんで事情を説明すると、彼女は納得したようなしてないような複雑な表情で俺達二人を見比べる。

 そして呆れたように。


「まったく、あんたってば昔から変なことばかりするんだから……でも、運営も忙しいとはいえ放置ってどうなの?」

「ま、これはこれで楽しいぞ。そのうち修正されるかもしれないし」

「最悪BANされることだってあるのに気楽なもんね。中学時代からの腐れ縁とは言え、あんたには呆れるわ」


 彼女の言う通り、くまとは中学時代からの腐れ縁である。

 性格とか趣味は正反対なのに、何故かウマが合ってよくつるんでいた。ゲームでも一緒に遊んだりするが、見ての通り趣味は合わない。

 俺の本来のアバターが白を基調としたシスター服なのに対して、彼女のアバターは黒を基調とした魔女っ子服である。

 まあこれはこれで絵になるか。


 俺達はいったん適当な店に入り料理を注文すると、改めて情報交換に取り掛かる。


「それで、しぃちゃんはどこまで行ったの? 私は今レベル10だけど……」

「俺は今レベル7だな。ちょうどアルマーニ草原のボスを倒して帰ってきたところだ」

「アルマーニ草原のボスってキングボア!? それで7ってことはそれ以下で倒したの?

 相変わらず無茶するわねぇ……私は北にあるスノースの森に熊のモンスターがいるって聞いたからナナと一緒に見に行ってたの」


 相変わらず熊好きな女である。

 よく見たら三角帽子にもくまみみが付いてるし、くまグローブにくまブーツを装備してるな。

 ここからじゃ見えないが、たぶんくまのしっぽも付いてるんだろう。


 ちなみにナナは彼女の飼ってる三毛猫である。

 一度だけ次郎丸と顔合わせをしたこともあるが、出会い頭にねこパンチ一発で撃沈させられたこともあり彼女の事は苦手らしい。


「熊のモンスターって……フィールドボスか?」

「そうそう、あのへん炎に弱いモンスターが多いから、そいつら狩るついでにね。

 ただ、肝心のボスが見つからなくて……」


 MPも底をつきそうだったのでいったん戻ってきたらしい。

 満身創痍でボスと戦うとか無謀だからな。


 何故かくまと次郎丸から白い目で見られてるが気のせいだろう、うん。


「スノースの森って他にどんなモンスターが出るんだっけ?」

「ええと、スノースフォックスとかドングリス、あとはススカラスかな?」

「ススカラスか……飛行型モンスターは厄介だな」


 遠距離攻撃がないとまともに戦えない飛行型モンスターはアタッカーの天敵である。

 もちろん、双剣ツリーにも遠距離スキルというのがあるにはあるが、威力も低いため攻撃速度に優れたシューターや単発火力に優れたメイジと比べると見劣りしてしまう。

 こういうゲームでは役割分担が大事なので、そういうのは本職に任せた方がいいかもしれない。


「ひょっとして一緒に来てくれるの?」

「うん、俺もボスは見てみたいしな。人数が多い方が勝ち目もあるだろうし」

「正直見物さえできればいいんだけど……まあ、あんたがいた方がボスが寄ってくる気がするのは確かね。

 じゃあパーティ組むとして、どっちがリーダーになる?」

「いや、俺はたぶん動物アバターだからリーダーやれたとしても面倒くさいことになりかねない。

 次郎丸はパーティ結成とかよくわからんだろうし、消去法でくまがやってくれ」

「りょうかーい、えっと……うん、申請届いた?」


 くま さんから くまりんキュート への招待状が届きました

            拒否/受諾


 マージナルウィンドゥに表示されたパーティ申請画面で受諾ボタンを押すと、クラッカーの鳴るエフェクトと共にパーティ加入のファンファーレが鳴り響く。

 無駄に派手な演出だが、レトロゲームみたいで悪くはない。


「これでオッケーね。改めて聞くけど時間とか大丈夫?」

「問題ない。今日は一日オフにしてあるからな」

「じゃ、食事が終わったら準備を整えてスノースの森に向かって出発しましょ」


 こうして急遽結成された即席パーティであるが、これが長い付き合いになるとはこの時は思いもよらなかった。

 いずれにせよ、俺達の冒険はまだまだ始まったばかりである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ