プロローグ
電脳世界が身近になった昨今、様々なVRゲームが生み出されている。
王道の冒険ファンタジーはもちろん、魔王になって世界を征服するもの、星々を旅するスペースオペラ、戦国時代や西部劇の世界を体験できるものも。
そんな数多のゲームを生み出してきたゲーム業界に今、小さな風が巻き起ころうとしていた。
「待ってました、新作VRMMORPGディアアニマルオンライン! 通称DAO!
ペットと一緒に遊べる新作ゲームが出るって聞いたときは耳を疑ったけど、事前のロケテも好評!
大手ゲームメディアも大作ゲームと並んで注目ゲームとして特集記事を組むほどの盛り上がり!
くうぅぅ……こんなの絶対やらなきゃ損だろ!」
「わん!」
「おお、お前もそう思うか……専用機材は高くついたが、お前と一緒に遊べるならどうってことないぜ。
事前に届いた機材も問題なくセッティングできたし、インストールもばっちり。
あとは登録コードを入力するだけ……と、きたきたきたきたきたああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
マージナルウィンドゥにログイン成功の文字が浮かび上がる。
ヘッドマウントイメージトレーサーを通して周囲の景色が塗り替えられていた。
大自然の風景に、でかでかとディアアニマルオンラインのタイトルが表示される。
「そんなのはいいとして、まずはキャラメイクだな」
このへんは淡白である。何度も見ることになるタイトル画面にあまり用はない。
適当にキャラを作り上げると、最終確認の画面になった。
「お、お前も来たのか。気分悪くなったりしてないだろうな?」
「わん!」
目の前には現実と寸分違わぬ愛犬が尻尾を振り振りこちらを見上げている。
アバターは違えど匂いで主人が判別できるらしく、最初こそ戸惑っていたもののすぐに慣れて俺の手にじゃれついてきた。
とりあえず動作は問題ないらしい。
「……よし、それじゃ、冒険に出発だ!」
「わんっ!」
状況が分かっているのかいないのか。
大喜びで飛び付いてきた愛犬が俺を押し倒す。どうやらこの時、現実世界では機材が混線したらしい。
プツンと画面が暗転し、すぐさま眩い光に包まれたかと思うと、俺たちは知らない街にいた。
事前のトレーラーで何度も見た、世界を生み出した女神マーテルのお膝元、確か名前はクレイドルだったか。
最初の街らしく周りにもペットを連れたプレイヤーが沢山いる。
「そういえば俺の愛犬は……あれ?」
あいつの姿が見当たらない。
よくよく見ると、なんか自分の目線もやけに低いような……。
手足もやたら毛深い。こんなキャラデザはしなかったし、できないはずである。
「いや、待て……これって……」
そもそも二足歩行ですらない。
犬じゃあるまいし、どうしてこんな格好をしてるのか。
「俺が何年人間やってると思ってんだ、こんちくしょう!」
無理矢理立ち上がるも、バランスをとるだけで精一杯である。
それでもよろよろと二足歩行し、試しに近場にあった池の水面に自分の顔を映し出すと、そこには見慣れた愛犬の顔があった。
「……どゆこと?」
首をかしげると、そいつも同じように首をかしげる。
間違いなくこれは自分だろう。
うん、つまりはあれだ。
「俺が犬になってるうううぅぅぅぅぅぅ!?」
悲鳴にも似た絶叫が、クレイドルに響き渡った。
俺と愛犬の冒険は、こうして波乱の幕開けを迎えたのである。