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第002話 降下


 転生の神様から逃げた俺は、地上に降下し始めた。


 降下しながらふと俺の頭をよぎる事があった。

 何故、無の神様は身体のみだったのか?

 これ程までの完全無欠の神様なので気にはなった。


 だがこうなった以上、もうどうでもいい。

 俺は俺の信じる道を突き進むまでだ。



 地上に目を向けてみた。

 文明レベル的には、建物などを見る限り地球で例えるなら中世くらいだろう。

 思い切りロールプレイングゲームの中に迷い込んだ印象を受けた。


 さっきから凄い勢いで地上に向かい降下している。

 だが無が発動している状態だからか全くの無風だ。

 テレビや映画で見るような、物凄い風圧で顔が変顔になりそうな感じでは一切ない。



 「探せ!!早く探すのだ!!まだこの辺りのどこかに居るはずだ!!」


 髪が多少乱れる程の風を受けながら転生の神様が地上へ向かい降下してきていた。

 周りに天使の姿をした者を多数従えての降下だ。

 天使の姿をした者達はかなりの風を全身に受けており、背中に生えた翼の羽根が時折り抜けて飛んでいく。


 「私が悪いのだ…。あんな過去の神の身体を貸してしまったのだからな…。きっと身体が暴走したに違いない…。そもそも、あの天使めが予約してあるのを気付かず極悪人を誤って転生させてから全てが崩れてしまった…。」


 真横を同じ位の速さで転生の神様は降下していた。

 だから、独り言が丸聞こえだ。


 でも良いことを聞けた。

 ・無の神様は過去の神様であること。

 ・無の身体が暴走して俺は被害者の認識。

 ・転生代行者で間違えた天使が悪い。


 とりあえず、俺の位置付けは悪じゃないって事だ。

 これで心置きなく、この世界を平和にする活動が出来そうだ。


 俺は無だから、俺自身は正義でも悪でも無い。

 だから今こう決めた。

 ・俺が正義と思うものを救済し。

 ・俺が悪と思うものを粛清する。



 「ありがとう。転生の神様。」


 転生の神様の耳元へ近づいた俺はそう囁いた。


 「この声は無か…。キミか?どこに居るんだ?」


 「そうですよ?ここ!!見えないでしょうけど。」


 降下するのを転生の神様はやめ、空中で静止した。


 「キミが転生したのは…旧世代の無の神。あまりにも完全無欠だったが為、封印されていた身体だ。新世代では無限の神と改められたのだ。」


 無限は限りという文字が付いている。

 それに対し無は無だ。

 同じ気もするが、そういう精神論的な話だろう。


 「これから俺がこの世界を平和にしてみせます。」


 「そうか。では無を、この世界をキミに託すぞ?この世界に本当の平和が訪れた時、私の元に戻ってくるといい。その時、改めてキミの転生をやり直させてくれ。あと…。」


 転生の神様の何か含みのある言い方が気になった。

 何か言いかけたが言わんとしてることは分かった。


 「ミスった天使は、俺が粛清しとくで良いです?」


 「それを言おうとした。助かる。困っていた。」


 やはり自分の手では下したく無いのだろう。


 「粛清分かりました。では、またいつか!!」


 「キミのお手並み拝見といこうかな。この世界にいる天使は好きに使うといい。では、平和になった世界でまた会えるのを楽しみにしている。」


 そう言い残すと、転生の神様はさっきまでいた明るい場所の方向へと登っていった。



 さて、俺はこれからやることが多そうだ。

 さっきの含みのある言い方かなり気になってきた。

 まずは世界の端から色々調査していくことにする。


 あることに俺は気付いた。

 世界の端はどこにある?


 俺はこの世界の全貌を全く見ていなかった。

 降下することばかりに気を取られてしまったのだ。



 とりあえず、見晴らしのいい高度まで上昇した。

 正直、視界に入った瞬間ガッカリした。


 この世界は地球によく似た球状の惑星だった。

 表層を覆う水や氷の上へと顔出す大陸も見える。

 だが、その大陸は上部、真ん中、下部で輪切りのスイカのように三つに分かれていた。


 上端か下端でどちらにするか迷った。

 地球では北半球にある日本という島国に住んでいた俺は、死ぬまで南半球に行く機会が一度も無かった。

 だから下端から調査することにする。


 意を決めて下端の大陸へ降りようとした。

 俺はある事に気づいてしまった。

 西端か東端かについて決めるのを忘れていた。

 もうここは、迷わず西端に決めた。


 ここまででかなりの時間をかけてしまった。

 俺はまだ一ミリも調査が始められていなかった。

 ただ、一度ルールを決めれば後は繰り返すだけだ。


 まず、下端の大陸の南西の端を降下地点に定めた。



 俺は無だ。

 だから何も考えず降下していけばいい。

 無ゆえ常にぶつかる心配をすることもないのだ。


 ボーッとしていると眼下に水と崖が広がっていた。

 恐らくは地球でいうところの海だろうか?

 水が崖にぶつかり波飛沫をあげているのが見える。

 俺は無性にその水を舐めてみたくなった。


 もう少し…。

 もう少し…。

 無の状態では、地面への着地は非常に難しい。

 降下し過ぎると地面の中へ入ってしまう。

 上昇し過ぎると遥か数メートル上へ行ってしまう。


 やっとの思いで、地上数十センチの誤差まできた。


  『無/解除』


 俺はそう強く念じた。


  スタッ…


 俺は無に転生してから初めて、自分の足で地上に降り立った。

 『無』を解除してから気付いたのだが、俺は裸だ。

 髪は長いし顔は中性的で美人だし背は高くないし胸は大きいし尻も大きい。

 こんなあられもない姿を誰かに見られていたら、間違いなくタダでは済まないだろう。


 早く水を舐め終え『無』の状態に戻りたかった。

 そこで俺は崖の際まで進むとその場で屈んだ。

 そして波飛沫に向かって手を伸ばそうと試みた。


 「そんな崖ギリギリに立っては危ないですよ?」


 誰だろうか?

 俺の背後から女性のような声が聞こえた。


 「すみません。」


 俺は返事をしつつ、波飛沫に触れることができた。

 しょっぱいのかそうでないのか…。

 緊張の一瞬だ。


  ペロッ…


 「ペッ…ペッ…。」


 結構しょっぱい…。

 地球もこれくらいだっただろうか?


 「それはそうですよー?塩水湖ですからね?」


 まだ俺のことを見ていたのだろうか。

 また声がした。


 それにしても海と呼ばないのは驚きだ。

 こんな規模の大きい湖などあるわけない…。

 海という名で慣れている方が変なのか?


 湖と海どちらも大きな水たまりなのに。

 実際地球にも塩水湖は存在する。

 この世界は湖で統一してくれてるのだろうか?


 とりあえず俺は立ち上がると振り返った。


 「は…裸じゃないですか!!」


 おっと…そうだった。

 俺は下腹部を手で、胸を腕で隠した。

 声の主は、十代そこそこくらいの少女だった。

 可愛らしい感じだが、肌が濃い褐色系だった。

 しかも切れ目で耳も長く尖っている。

 恐らく種族はロールプレイングゲーム的には、ダークエルフといったところだろう。


 「ゴメンなさい…。水浴びしようと、際に置いていたら波にさらわれてしまって…。」


 無の容姿の関係で、俺が女性っぽく演じる。

 うん、別に悪くないし、悪い気もしない。

 更に、無の中性的な声帯がそれを助長していた。


 「ちょっと待っててね?」


 そう言うと、少女は手に持っていた植物で編まれた大きめのカゴを地面に置き、ガサゴソと探し始めた。


 そういえば俺は、無に転生したんだ…。

 そうだ、男の俺はもう死んで前世の存在だ。


 この身体では女として生活した方が楽なのか?

 だが、無の身体には生殖器官が無い。

 それは無の神様の身体だから。

 見た目上は男としても女としても生きられるのだ。


 「これ!!着てください!!」


 はぁ…?!

 これはもう紐だろ紐…。

 そう愕然とする俺に少女は躊躇なく手渡してきた。


 「あ、ありがとう。助かります…。」


 それは布面積の非常に小さな水着だった。

 確かに胸の先と、下腹部が隠れればいいのだが…。



 この後、自分の着た姿に興奮したとは言えない。

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