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第67話 天正四年の正月

感想、評価、ブックマーク登録、いいね!を頂きありがとうございます。


アクセス数120万突破いたしました。多くのアクセス数を頂き、大変感謝しております。拙文でございますが、楽しんでいただけたら幸いです。


更新ペースが遅くなっており、大変申し訳なく思っております。もうしばらくご辛抱下さい。来週も火曜日の更新はございません。ご理解の程、よろしくお願い致します。

 天正四年(1576年)一月。重秀は父秀吉や叔父の小一郎と共に岐阜城下の羽柴屋敷に滞在していた。正月の挨拶として岐阜城に上がり、信長に新年の挨拶をした後は信長主催の酒宴に参加。次の日は信忠に新年の挨拶をした後に信忠主催の酒宴参加。そのまた次の日は一門や重臣たちへの挨拶回りで式三献を家ごとに行い、そのまた次の日には自分の屋敷に挨拶に来た客と式三献を交わした。父に似ずあまり酒の強い方ではない重秀は、酒の飲む回数の多さにうんざりとしていた。


 そんな重秀が隣の前田屋敷を訪れたのは、正月の忙しさも落ち着いたある日の昼間であった。前田利家に挨拶をした後、(くりや)を借りた重秀は、持ってきた薬を煎じて茶碗に移すと、それを持って利勝のいる部屋へと向かった。


「おーい、入るぞー」


 利勝の部屋にいきなり入る重秀。そこには不機嫌そうなオーラを醸し出して座っている利勝がいた。


「・・・藤十か。いきなり入ってくるなよ」


「前田の父上から聞いたぞ。仮病という珍しい病気にかかってるんだってな。それで正月に羽柴屋敷に挨拶に来れなかったって。というわけで、見舞いに来た。そして薬も持ってきたぞ」


 そう言って重秀が茶碗を利勝に渡した。利勝が顔をしかめながら茶碗を受け取る。


「俺、病じゃないぞ」


「知ってる。まあ、飲め。最近羽柴で増産している生薬を煎じてきた」


 重秀からそう言われた利勝が茶碗に口をつけた。独特の香りが口の中に広がるが、薬と言う割には苦味も渋みもそれほど無く、普通に飲めるものであった。


「・・・初めて飲む薬だが、これは何だ?」


「『蚕沙』と言って、血流を良くしたり、関節痛や胃痛に効くらしい」


「へぇー。で、何で出来てるんだ?これ」


「蚕の糞」


 重秀の回答を聞いて利勝が盛大に薬を吹き出した。重秀が笑いながら言う。


「おいおい、口から出すなよ。本当に薬なんだから」


「だからって糞はねぇだろ!変なもの飲ませるな!」


「お、だいぶ元気になったな。やっぱり薬としても使えるな」


 あっはっはと笑う重秀にバツの悪そうな顔を向けてきた利勝。少し重秀を睨んだ後に口を開いた。


「・・・蕭のこと、聞いているか?」


「ああ、去年の暮れぐらいに父から聞いたよ。祝言を上げたんだってな」


 重秀は落ち着いた口調でそう言うと、利勝の前で胡座をかいた。利勝が口を開く。


「・・・十一月に母上が越前の府中城に引っ越してきた時、蕭がいないことに気がついて、母上に問い詰めたら清六(中川光重のこと)に嫁いだってよ。俺、全く知らなかった」


 利勝の独白に重秀は黙って聞いていたが、利勝の次の言葉に重秀は驚愕する。


「䔥はさ、藤十のことを慕ってたんだ」


「ええっ!?」


「何だ、気がついてなかったのか?結構分かりやすいと思ったんだが」


「ってか、蕭ちゃんとは荒子城で会って以来、全く会ってないぞ。あれは・・・、確か五、六年前か?」


「いや、その前から慕ってたんだが」


「ええっ・・・!?全然気が付かなかった・・・」


 驚いている重秀に、利勝は「やっぱりか・・・」と呟いた。利勝が話を続ける。


「気付いて欲しかったから、あれだけ推してたんだけどな・・・。おかげでお前に顔を合わせづらくてな」


「そうだったのか・・・。ただ、蕭ちゃんの気持ちを今更打ち明けられてもな。いや、前から打ち明けられたからと言って、じゃあ、蕭ちゃんと婚儀を結びたいかと言われると・・・」


 重秀がそう言って視線を上に向けながら腕を組んだ。そして何かを思い出したかのような口調で話し始めた。


「・・・最近、父の命令で京から取り寄せた漢籍を読んでるんだけど、そこには房中術が描かれてさ」


「房中術?」


「男と女の正しい睦み合いのやり方。お互いに身体が健やかになり、丈夫な子が生まれるんだとさ」


「へぇー。で、それがどうした」


「それを読んでからというもの、女体に興味は持ってきたし、実際にヤッてみたいと思うようにはなってきたけど、蕭ちゃんとヤりたいかと言われると・・・」


 そう言ってきた重秀に、利勝が怒ったような顔をしながら近寄ってきた。


「おい!䔥が魅力ないっていうのかよ!?」


「そうじゃねーよ!その・・・、今までずっと妹みたいなもんだったろ?だから、蕭ちゃんに手を出すのは妹に手を出すようなものだから抵抗があるんだよな」


 戦国時代の日本でもやっぱり親子婚や兄弟婚はタブーであった。羽柴と前田は全く血の繋がりがないので、重秀が前田家の娘たちと婚姻関係に入っても全く問題はない。しかし、重秀の心の中では、幸や蕭に憧れや親近感を抱いていても兄弟姉妹として育てられたため、恋愛感情というものが育ちにくかったかも知れない。もっとも、恋愛感情があったからと言って、武家に生まれた以上すんなりと婚姻関係に入れたかどうかが疑問であるが。


「・・・本音を言わせてもらえれば、蕭ちゃんは妹として、家族として見てたけど、女としては見ていなかったな・・・」


 重秀が遠くを見るような目をしながら言うと、利勝が残念そうな表情をしながら言う。


「そうか・・・。俺としては羽柴に嫁いだほうが幸せだったと思うぞ。みんな顔馴染みだったんだし。俺の父上と母上もそうだったんだから」


 前田利家の母の姉の娘が()()なので、利家と()()は従兄妹同士となる。()()の母は()()の父が亡くなった後、別の男性と再婚しているが、この時()()は荒子城にいた()()の母の妹、すなわち利家の母に引き取られている。なので、利家と()()は結婚する前から顔馴染みだった。そういったことから、利家と()()の結婚は戦国時代では珍しい恋愛結婚だったのでは、と考えられている。


「済まない・・・。蕭ちゃんの気持ちに寄り添えなくて」


「謝るなよ。䔥が聞いたら傷つくからな。それに、武家に生まれた以上、慕い合っている者同士が婚姻を結べるとは限らないんだから・・・」


 そう言うと利勝は黙ってしまった。重秀も何も言うことができずに黙ってしまい、二人の間には沈黙が支配した。少し経って、その空気を払拭するかのように利勝が明るく話しだした。


「それにしても、父上も母上も䔥の祝言について全く話してくれなかったんだぜ。俺、嫡男なのに知らされないなんてな」


羽柴うちだったら父上がペラペラ喋りそうなんだけどな。他の家でもそうなのかな?」


 重秀が首を傾げながらそう言うと、利勝は首を激しく横に振りながら答える。


「そんな訳無いだろ!武家にとって誰がどういう血の繋がりがあるか知るのは大切なことだぞ!」


「そうなると、䔥ちゃんの祝言に反対しそうな孫四まごよを外して中川家との婚儀を進めたのかねぇ・・・」


 重秀がそう答えると、利勝は顔をしかめながら黙ってしまった。二人はしばらく沈黙していたが、重秀が口を開いた。


「・・・まあ、あの前田の母上のこと。きっと深謀遠慮があって言わなかったんだよ」


「そんな馬鹿な」


 思わず笑みをこぼしながら言う利勝に、重秀が笑いながら話題を変えた。


「しっかし、あの梅千代が祝言を上げるとはね。俺達より早く上げるとは思わなかった」


「ああ、全くだ。この前挨拶に来てたよ。『次は義兄上あにうえの番ですかね』だって。あいつの憎たらしい顔、二度と忘れないね」


 利勝が光重のモノマネをしたので、重秀が思わず笑い出した。


「あっはっはっ!ちょっと似てるぞ!」


「褒めても嬉しくねーよ。でも、次は藤十なんじゃないか?蒲生の姫君、どうなった?」


「それなんだけどね。蒲生様が正月の挨拶に来た時に、『側室でもいいから貰って欲しい』とまで言ってきた」


「側室って・・・。蒲生家って五万か六万石の大名だろ?しかも上様(織田信長のこと)の縁者じゃないか。羽柴の正室の家としては十分な格を持っているじゃないか」


「いや、俺もそう思うんだよ。ただ、挨拶に来てくれた忠三殿(蒲生賦秀のこと)の話によれば、どうも上様が去年の夏から家臣の中から年頃の娘を養女に迎えたいという噂が流れているらしい。それが、どこぞの大名や家臣に嫁に出すのが目的らしい、で、その家臣ってのが羽柴が最有力だって噂だ。まあ、孫四のところかも知れないけど」


「・・・だったら()()姫も養女の候補になるのではないか?」


「俺も父上もそう思って忠三殿に聞いたんだけど、蒲生にはそう言った話はなかったんだって。なので、上様が他家から養女を入れて、その養女と俺が婚儀を結んだ後に、側室として向かえて欲しいんだってさ」


「ああ、養女とはいえ、上様の娘となると蒲生の姫よりは格が上だからそっちが正室にならないとまずいな。となると、藤十は正室と側室を同時に娶ることになるのか」


 利勝の言葉に重秀が顔をしかめながら黙り込む。利勝が「どうした?」と聞いてきたので、重秀は口を開いた。


「・・・正直なところ、顔も名前も知らない織田の姫より、忠三殿が教えてくれた()()姫に興味が湧いてきてて。正室は()()姫で良いような気がしてきた。聞けば器量良しで闊達な姫様だって」


「へえ、中々良さげじゃないか。しかし、()()姫を正室に迎えるとなると、藤吉のおじさんは反対するだろうな」


「ああ、だからこんなことは父上には言えないよ。孫四にだから言ったんだ。他には言うなよ」


 重秀の言葉に利勝は真面目な顔をして「分かった、黙っとくよ」と言いながら頷いた。しかし、直後に何か思いついたのか、利勝が嫌な物を見るかのような目で重秀を見つめた。


「・・・おい。まさかとは思うけど、房中術を試したくて()()姫を正室を迎えたくなったのではあるまいな」


「んなわけあるか!大体、俺は十六歳より下の女子と睦み合わないと決めているんだ!()()姫はまだ十一歳だぞ!」


 重秀が思わず大声を上げた。


「あ、そうなんだ。でも何故?」


 利勝の質問に、重秀は後頭部を掻きながら答える。


「・・・俺の母上は十五で俺を産んで死んだんだ。聞けば、十五歳前の出産は母子の身体に悪く、母子もいづれかか両方が無くなることが多いらしい。だから、子をすならそれより上の歳になってからのほうが良いと思ってるんだ」


「ああ、なるほどね。でも、俺の母上は十二歳で姉上(利家の長女、幸のこと)を産んでるぜ?」


「前田の母上は例外だろう・・・」


 あの人(まつ)はおかしいんだよ、とは言わず、重秀は利勝にそう言ったのだった。そんな時だった。二人のいる部屋の障子が開き、村井長頼が顔を覗かせた。


「若、そろそろご準備を」


「ん?もうそんな時間か?相分かった」


 利勝がそう言うと、長頼は顔を引っ込めて障子を閉めた。重秀が利勝に聞く。


「準備?何の準備だ?」


「お前知らないのか?今宵は修理亮様(柴田勝家のこと)とお市の方様のお披露目の儀だぞ?俺と父上で参加するんだけど」


「ああ、父上が行きたくないって言ってたあれか。いや、羽柴からは父上と小一郎の叔父上が参加するから、俺は屋敷で留守番だよ」





「嫌じゃ、行きとうない」


「兄者。そういうわけにはいかんじゃろ。子供じゃないんだから大人しく行こう」


 柴田勝家とお市の方のお披露目の儀に参加するために準備をし始めた利勝に別れを告げて、前田屋敷から羽柴屋敷に帰ってきた重秀は、秀吉と小一郎が部屋で揉めているのを目撃した。


「父上、叔父上。只今戻りました」


 そう言いながら部屋に入る重秀に、秀吉が泣きついてきた。


「藤十郎〜!儂は嫌じゃぁ〜!何故柴田の爺のニヤケ顔を見に儂が行かにゃあならんのじゃ〜!」


 泣きつく秀吉を重秀は剥がすと、秀吉に諭すように言う。


「しかし父上。織田家の重臣にして上様の義弟となられる柴田様の婚儀に参加しなければ、羽柴と柴田は仲が悪いと噂がたてられまする。そうなれば、織田と敵対する者共に隙をつかれまするぞ」


「藤十郎の言うとおりじゃ。ここで兄者と修理亮様にわだかまりがない事を内外に示せば、羽柴が下手なことをされるおそれもないんじゃ。これは羽柴家、いや藤十郎のためでもあるんじゃ」


 重秀と小一郎がそう言って説得すると、秀吉は泣く泣く了解し、小一郎とともに柴田屋敷へと向かって行った。


 重秀が秀吉と小一郎を見送った後、自室に戻ると、そこには二人の若侍が待っていた。


「若、お戻りなさいませ!」


「・・・お戻りなさいませ」


「おう、孫六に紀之介。立派な若武者ぶりだな」


 数日前に元服した加藤孫六改め加藤孫六郎茂勝と、大谷桂松改め大谷紀之介吉隆に重秀がそう声を掛けると、茂勝が照れるような仕草をした。


「元服までに言葉を直せと山内様に徹底的にしごかれました。何とか間に合って良かったと思っております」


「俺は別に気にしてないけどな。俺の前では普段通りの言葉使いしても構わないぞ」


 重秀がそう言うと、茂勝は右手で後頭部を掻きながら笑って言う。


「いやぁ、若。そういう訳にはいかないっす。伊右衛門殿(山内一豊のこと)に叱られるっす」


「・・・元に戻っているぞ、孫六」


 思わず苦言を言う吉隆。そんな吉隆にも重秀は声をかける。


「紀之介も立派に元服したな。今後ともよろしく頼むぞ」


 重秀にそう言われた吉隆が「はっ」と言って畏まった。重秀が話を続ける。


「とはいえ、二人は元服したばかり。まだまだ学ばなければならないことはたくさんある。私もまだ父上や叔父上、半兵衛殿の前ではまだまだ半人前。共に鍛錬を積み重ねようぞ」


 重秀の言葉に、茂勝と吉隆は「承知しました」と声を揃えて平伏した。


 それからしばらくして、重秀は茂勝と吉隆の二人と雑談をしていると、部屋の障子の向こう側から、石田三成の声が聞こえた。


「若君!佐吉にございまする!」


「応!入れ」


「いえ、この場にてご無礼仕りまする!殿と小一郎様、お戻りにございまする」


「え、早っ!?今行く」


 秀吉達のあまりに早い帰還の報告に、重秀は驚きながらも秀吉と小一郎を出迎えるべく立ち上がった。





「父上、お戻りなさいませ」


「うむ、今帰った」


 出迎えた重秀に、秀吉が疲れたような表情を顔に浮かべながら言った。秀吉の後ろにいた小一郎も顔をしかめており、重秀はとりあえず二人に話を聞いてみた。


「お二方だいぶお早いお戻りでしたが、何かあったのですか?」


「なにもないぞ。ただ、柴田様とお市の方様が二人並んで座っているところを見ながら飲む酒が不味かったから、さっさと戻ってきたんじゃ」


 秀吉の言葉に重秀は面食らった。そんな秀吉の横では、小一郎がしかめっ面のまま秀吉に言う。


「兄者。柴田様の屋敷からおいとましたのは、藤十郎に用事があったのを思い出したからじゃなかったのか?」


「おお、それもあったの。藤十郎、まあ部屋に入って話をしようかのう」


 そう言いながら秀吉は居間へと向かっていった。


 居間についた三人は、囲炉裏を囲んで暖を取りながら話し合いを始めた。同じ部屋には三成や茂勝、吉隆の三人も控えていた。


「さて、藤十郎。実はお主が前田屋敷に行っている間、御屋形様の命で岐阜城に行っておったのじゃ。そこで、御屋形様より直接密命を預かってきたのじゃ」


 秀吉の「密命」という言葉に、三成達が息を呑んだ。その音を聞いた秀吉が笑いながら三成達に言う。


「密命と言ってもそんな大したことではないわ。ちょっとしたお使いよ。もっとも、今はまだ表立って言えぬがな」


「お使い、ですか?一体、何を命じられたのです?」


 重秀の質問に、秀吉は答える。


「播磨、但馬の調略よ」


「播磨、但馬?」


 重秀が首を傾げながら尋ねた。秀吉は話を続る。


「うむ、実は去年の暮れ頃から公方様(足利義昭のこと)がどうも西の毛利の元に行こうとしているらしい。三年ぐらい前に毛利への取次を命じられて以降、公方様の身柄をどうするか、毛利の安国寺恵瓊と何度か話をしたことがあった。その時は毛利は公方様が毛利家を頼ることに難色を示していたのだが、どうも最近はそうでもないらしい。恐らく毛利も公方様を受け入れる覚悟ができたようじゃ」


「と、言うことは毛利が公方様を掲げて織田と敵対するということか?兄者」


 小一郎の質問に、秀吉は難しい顔をしながら答える。


「うむ。未だに諸大名に影響力を発揮する公方様のことじゃ。恐らく毛利を焚きつけることは間違いないじゃろう。ということで、織田と毛利の勢力圏が接する播磨と但馬が注目されとる、ちゅう訳じゃ」


「・・・播磨と但馬の重要性は理解致しました。そこに調略をかけることも。しかし、それを何故上様は父上に命じられたのでしょうか?近場には荒木摂津守様(荒木村重のこと)や惟任日向守様(明智光秀のこと)がいらっしゃいますでしょうに」


 重秀の疑問に、秀吉がニヤリとしながら答える。


「上様はどうも摂津守をそれほど信用しておらんらしい。あやつは名物蒐集(しゅうしゅう)にかまけていて常に銭がないとぼやいておる。そこを敵につかれる虞があるようじゃ。それに、日向守殿は丹波の攻略で忙しいからのう。但馬や播磨にまで手は回らぬじゃろう。そして、儂に命が下されたのは藤十郎、お主のおかげよ」


「は?私めでございますか?」


 重秀が首を傾げたのに対して、秀吉がそのまま話を続ける。


「うむ、お主が牛の飼育を始めたことによって、儂等は但馬と播磨の牛を買うようになった。そのことで但馬や播磨の国衆と繋がりができたからのう。上様はそこに目をつけられたようじゃ」


「ああ、なるほど。・・・となると、私も牛の購入や視察と称して但馬や播磨への調略に行くことになるのですか?」


 重秀の質問に秀吉が笑いながら答える。


「あっはっはっ!お主はまだ十五歳、調略の使者にはまだまだ貫禄が足りぬわ!そういうことは儂と小一郎に任せておけ!お主は当分、長浜で内政の修行じゃ!」


注釈

重秀と蕭のような幼少期より同一の生活環境で育った相手に対しては、成長しても性的興味を持つことは少ないことがある。これをウェスターマーク効果と呼ぶ。

もっとも、このウェスターマーク効果については、その検証データが未だに少ないため、本当のところはよく分かっていない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 西国無双「せやろ?今さら誾千代を女に見れるかいな!」 悪家久「まさにまさに今さら亀なんぞと仲良くで来るか!」
[良い点] 代行者となりうる嫡男が本拠地に居るってだけで安定しますからね。 史実での秀吉秀長兄弟は片方播磨片方但馬で仕事しつつ、長浜へ顔を出すブラックだった。 前田利家は参考にしたらアカン。主君に注…
[一言] せっかく面白い小説なのに、更新頻度が少なくて前の話を忘れる。 残念
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