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第65話 岩村城の戦い(後編)

感想、評価、ブックマーク登録、いいね!を頂きありがとうございます。


PV数110万を突破いたしました。拙文を読んで頂きありがとうございました。


8/1火曜日の次話投稿はありません。


どうぞよろしくお願い致します。


 天正三年(1575年)十一月十日の昼前。重秀は山内一豊と五藤為浄と一緒に、柿助を連れて信忠の本陣を訪れていた。信忠に正直に報告すると、信忠は側近の斎藤利治に調査を命じた。利治は一旦柿助の身柄を後方に移送し、重秀達と岩村城の西側にある山腹の洞に移動した。そこには兵糧米そのものはなかったが、空になった米俵や兵糧米を運ぶのに使ったモッコ(主に土などを運ぶ網目状の運搬道具)やモッコを担ぐための棒が多く散乱していた。

 利治がさらに死んだ間者を調べるために、為浄の案内で山内勢の陣へと向かっている間、重秀と一豊は重秀の本陣に戻った。そこでは、兵達が柵を作ったり見張り台を作ったりと土木工事を行なっていた。指揮を取っていた竹中重治に聞けば、守りを固めているらしい。


「若君、城内の敵は恐らく数日中には夜襲を仕掛けてくるものと思われまする」


 重治がそう言うと、重秀だけではなく、側にいた一豊も「えっ!?」と声を揃えて驚いた。重治が話を続ける。


「昨日、山内勢が討ち取った間者は恐らく武田の援軍と連絡をつけるためと思われます。行って帰ってくるのに数日掛かります故、その前に我等に一当てしてくるものと思われまする」


「・・・何故に?」


 重秀が首を傾げながら重治に聞いた。


「理由はいくつかあります。一つは士気を上げるため。夜襲で我等を混乱させ、ついでに兜首を一つや二つ上げれば士気は上がるでしょう」


「なるほど。籠城してばかりでは士気は下がるばかり。それどころか城内の兵糧が尽きていれば、士気は下がりこそすれ、上がりはしませぬな」


 重治の話を聞いていた一豊が納得したような顔つきで頷いた。重治は話を続ける。


「実際のところ、兵糧は城外から極秘に運ばれていたので、恐らく士気はそれほど落ちていないでしょう。ここで我等を討ち払えば、さらに士気は上がり、武田の援軍が来るまで城を保たせることができる、と考えるでしょう。

 そしてもう一つは我等の包囲網の綻びを探すこと。ある程度攻撃して我等の隙を探し出し、援軍との挟撃ではそこを集中的に攻撃して突破を図るものと思われます」


 俗に言う威力偵察である。


「し、しかし、武田の援軍は本当に来るのでしょうか?半兵衛殿の話を聞いていれば、岩村城は武田の援軍が来ることを前提に動くことを想定しております。しかし、紀伊守様(池田恒興のこと)の手勢は美濃と信濃の国境にまで物見を派遣し、援軍を見つけたら狼煙で報せるという徹底した監視網を作られております。しかし、その報せは一向に来ておりませぬ」


 重秀が疑問を呈すると、重治は笑いながら重秀を諭した。


「若君。岩村城主の秋山伯耆守(秋山虎繁のこと)は城内の兵達に『武田は岩村城を見捨てない』と演じ続けなければなりませぬ。そうしなければ城内から降伏の声が上がりまするからな」


「・・・つまり、岩村城は武田の援軍が来ることを前提とした動きを取らなければ、内部から崩壊する、ということですか」


 重秀の発言に、重治が笑みを浮かべながら頷いた。


「それに」


 急に別の人物の声が重秀の耳に入ってきた。声のする方に重秀が視線を向けると、そこには本多正信が立っていた。


「弥八郎?どこ行ってたんだ?」


 重秀が聞くと正信が即答する。


「竹中様に言われて宮部様の陣へちょっとお使いに。竹中様、宮部様は陣の強化を承諾致しました。また、こちらへ援軍をいつでも送れるように兵を用意しておくとのことです」


「骨折りでした、本多殿」


 正信の報告に対し、重治がねぎらいの言葉をかけた。頭を軽く下げる正信に、重秀が話しかける。


「それに、ってなんだよ」


「ここで夜襲をかければ城内の兵が少し減りますからな」


「・・・?減っちゃまずいのでは?」


 重秀の疑問に、正信は笑いながら答える。


「口減らしにはなりますからな。多少は兵糧は保たせることは可能でしょう」


 予想外の答えに重秀は絶句してしまった。重治が話を続ける。


「まあ、そういう訳で、我等は夜襲に備えなければなりませぬ。若君、我等羽柴勢が夜襲で敵を返り討ちにすれば、武功第一となれましょうぞ」


 重治の言葉に重秀の身体が熱くなった。やっと戦らしい戦ができると興奮したのだ。


「分かりました。羽柴勢の強さ、敵に見せつけてやりましょう!攻城戦だと言うので、新しく作った大筒を五丁ほど持ってきてましたが、実戦の試験もせずに終わるのかとやきもきしておりました!秋山の兵に羽柴の大筒の恐ろしさ、見せてやりましょう!伊右衛門!迎撃は山内勢が主力ぞ!市、虎!どこにいる!?」


 重秀がそう叫ぶと一豊も興奮した口調で「応!お任せあれ!」と応じた。重秀は一豊を連れて福島正則と加藤清正を探すべく本陣から出ていった。


「やれやれ、若はやはり若い。敵が羽柴勢に夜襲をかけるわけないのに。夜襲をかけるならば、参陣したばかりで士気の高い我等ではなく、長い間城を包囲していて士気が緩んでいる池田・森勢か川尻、毛利(長秀)勢なのに」


 正信が呆れたような声でそう話すと、重治が笑いながら答えた。


「まあ、良いではありませぬか。正直、数が少ない我等に夜襲をかける可能性も無きにあらずなのですから。むしろ士気を上げてもらった方が生き残れます」


「ですなあ」


 正信はそう答えると、重治と共に笑ったのであった。





 結論から言えば、岩村城からの夜襲は十一月十日の真夜中にあった。だが、夜襲部隊は羽柴勢ではなく、水晶山に本陣を構える信忠の軍勢に夜襲を仕掛けたのであった。

 それに対して信忠率いる織田勢の準備は万全であった。前日に自害した間者を調べた斎藤利治が、羽柴の本陣に寄った際に重治から夜襲の可能性について聞いていた。利治は信忠の本陣へ帰ると、さっそく信忠に重治の話をした。信忠は全軍に夜襲の警報を発した。

 その結果、岩村城の夜襲部隊は川尻勢、毛利勢の反撃をまともに食らって壊滅。1千名の兵と21名の物頭(足軽隊を率いる武士のこと)が戦死することとなった。こうして、岩村城は夜襲に失敗した。


 それから数日後、秋山虎繁は降伏を申し出た。織田方に寝返ることを条件に、城内の将兵の命を助けることが条件であった。


「・・・虫が良すぎではありませぬか?」


 信忠の本陣で軍議が開かれ、利治から降伏条件を聞かされた森長可が不満そうな声を上げた。池田恒興も息子の元助も横で頷いていた。恒興が続けて言う。


「勝蔵の言うとおりじゃ。しかも秋山は武田信虎(武田信玄の父親)の代から仕える宿将。そうただでは降伏しないと思うのだがなあ」


「しかし、これ以上城攻めを長引かせては、武田の援軍がいつ来るか分からぬぞ。それに、そろそろ雪が降ってきてもおかしくない頃じゃ。儂は受け入れるべきじゃと思うが?」


 河尻秀隆がそう言うが、顔からは不満の表情がありありと表れていた。内心は秀隆も納得はしてなさそうだ。


「おい、猿若子。お前はどう思う?」


 長可からそう聞かれた重秀は、予め考えていた台詞を口にした。


「降伏を受け入れることに異を唱えませぬが、条件がゆるすぎます。せめて伯耆守殿には腹を切っていただきとう存じまする」


 重秀がそう言うと、毛利長秀と数名の諸将が「異議なし」と声を上げた。


「相分かった。先程父上より使者が来て、すでに父上は京より岐阜へお戻りのようだ。一旦、このことは父上に報せて指示を仰ぐ。これにて解散といたす故、皆は自陣へ戻り、敵の襲撃に備えるように」


 そう言うと信忠は立ち上がった。重秀を含めた参加者たちも立ち上がって信忠に礼をした。


 それから数日後、再び信忠の本陣にて軍議が開かれた。不満げな表情の信忠の口から、「秋山の寝返りの条件を飲み、降伏を認める」という言葉が発せられた。当然、諸将から不満の声が上がった。


「静まれ!これは上意であるぞ!」


 利治の一喝で諸将は黙り込んだ。信忠が自嘲気味な笑みを浮かべながら口を開く。


「藤十郎、長島城の最後の戦いを覚えておるな?」


 いきなり名指しされた重秀は、諸将が注目する中、しどろもどろになりながら答える。


「は、はい。えーっと、降伏を受け入れるように見せかけて、一揆勢が城の外に出てきたところを根切りに・・・っ!」


 重秀が長島城での出来事を思い出しながら話すが、何かに気がついたようで途中で止めてしまった。何人かの将が何かを思い出したような顔をした。重秀が再び口を動かす。


「え?まさか、あれをまたやるんですか?長島城の時はあれで一門の方々が多く討ち死にされたではありませぬか」


「・・・父上の命令だ。やらざるを得ない。とはいえ、今回は長島城の反省を踏まえて慎重に行う。取り敢えずは秋山と大叔母上(おつやの方のこと)を捕縛し、岐阜へと連れて行く。城内に残る家臣には『降伏のお礼を申し上げるために岐阜城へ向かった』と言って騙す。そして城内の兵達は全て甲斐に返す。そこで」


 信忠はそこまで言うと一息ついた。そして、今度は意を決したような表情で命じた。


「池田勢と森勢は木ノ実峠にて甲斐へ帰る兵を根切りにいたせ。毛利勢は城内に入り武装解除させ、こちらの合図で城に残った家臣を根切りにいたせ。河尻勢は毛利勢の援護をいたせ。すべてが終わったら岩村城は肥前守(河尻秀隆のこと)に任せる。羽柴勢は捕縛した秋山と大叔母上を岐阜まで速やかに護送せよ。残りの諸隊はすべてが終わるまで待機いたせ。良いな」


 信忠の命に重秀等諸将は一斉に「ははぁ!」と言って礼をしたのだった。





 次の日、岩村城へのだまし討ちは首尾よく終わった。秋山虎繁とおつやの方は信忠の兵に捕縛され、甲斐へと向かった生き残りの兵達は木ノ実峠で池田・森勢の鉄砲隊によってその屍を峠に晒すこととなった。騒ぎに気づいた岩村城内の者達はすでに毛利勢によって城の小屋に監禁されており、その小屋ごと燃やされてしまった。そしてすべてが終わった時には、虎繁とおつやの方は重秀率いる羽柴勢によって岐阜へと護送されていたのだった。

 重秀はこの時、虎繁とおつやの方の護送には大変気を使った。虎繁については武田の宿老として捕縛した以上、その事実を世間に広く知らしめるために縛り上げた状態で馬に乗せて護送した。もっとも、『甲斐の猛牛』と称された名将を侮辱したり辱めたりするようなこともなく、淡々と護送していった。おつやの方は信長の叔母ということもあり、輿に乗せて御簾を降ろさせ、衆目に晒させないようにした。口には竹を咥えさせて舌を噛み切らないようにしたものの、手足は緩く縛って動かしやすいようにし、長時間の輿での移動で負担がかからないように配慮した。このことは『長浜日記』を始め、信長の一代記にも書かれている。

 一方、重秀と虎繁、おつやの方との間で会話がかわされたという記録は残っていない。恐らく話すことがなかったのであろう。後世の小説や映画、ドラマでは重秀がおつやの方の美しさに惚れて口説いたとか、父秀吉の継室になるよう説得して失敗したという話があるが、それらは全て後世の創造である。


 そんなこんなで岐阜についた羽柴勢。そのまま岐阜城へ入城すると、重秀は虎繁とおつやの方、そして一緒に連れてきた柿助を連れて本丸御殿の庭まで来た。そこには毎度おなじみの堀秀政が待っていた。


「やあ、藤十郎。骨折りだったね。秋山とおつやの方様はそこのゴザに座らせて、その百姓は後ろに座らせてやってくれ。そして藤十郎はそこで待っていてくれ。すぐに上様はやってくるからね」


「上様?」


 重秀がそう聞くと、秀政が何かを思い出したかのような顔つきで答えた。


「ああ、御屋形様のことだよ。御屋形様は従三位権大納言と右近衛大将を兼ねるようになったからね。もはや天下人として『御屋形様』ではふさわしくないということで、今後は『上様』と呼ぶようになったんだ」


「はあ、そうですか」


 イマイチ実感が湧かない重秀がそう返事した時だった。本丸御殿から「上様の御成り〜!」という声が聞こえた。重秀はその場で跪き、秀政は縁側の近くまで移動して跪いた。

 重秀が跪いて頭を下げた後、顔を上げると、縁側で立っている信長の隣にはなんと秀吉が胡座をかいて平伏していた。


 ―――あれ?父上何で岐阜にいるんだ?―――


 重秀がそう思っている中、秀政が信長に報告した。


「申し上げます。羽柴藤十郎が秋山虎繁とおつやの方様、他一名を連れて岩村城より帰還致しました」


 秀政がそう言うと、重秀は再び頭を下げた。そして顔を上げて報告した。


「羽柴藤十郎重秀、若殿様の命により、武田家家臣、秋山伯耆守並びにおつやの方様をお連れ致しました」


「大義」


 信長が低い声でそう言うと、視線を虎繁に向けた。そして冷たい声で宣告する。


「秋山伯耆守、うぬを逆さ磔の刑にいたす。引っ立てい」


「ま、待て!儂は織田に対して忠誠を誓った!なのにこの仕打はあんまりではないか!」


 虎繁がそう叫ぶが、信長は冷たい視線を送りながら虎繁に言う。


「汝のことだ。どうせ頃合いを見て、刈屋の水野下野守の支援で武田に寝返るのであろう。だが残念じゃったな。刈屋の水野下野守が岩村城に兵糧を運んでいることは、すでに明白よ」


 信長の話を聞いた虎繁が忌々しそうに舌打ちをした。信長が話を続ける。


「我が織田では獅子身中の虫を飼っておくほど余裕はないのでな。まあ、諦めろ。連れて行け」


「ま、待ってくれ!儂は良い。しかし、おつやは助けてやってくれ!頼む・・・!」


 虎繁はそう叫びながら番兵に引っ立てられて庭から連れ出されてしまった。信長はおつやの方の方を見やる。おつやの方が負けじと信長を睨み返すと、声を上げた。


「おのれ信長!秋山は降伏した際の約束を守ったのに、そなたは守らなかった!これほど薄情な男とは思わなんだ!」


「養子とは言え、息子(信長の四男、御坊丸のこと)を敵方へ人質に出す女に薄情と言われる筋合いはないわ。しかも、秋山との間に生まれた実子はすでに城の外に出したと言うではないか」


 信長の言葉におつやの方は青ざめた。信長は鼻で笑いながら話を続ける。


「その程度の情報、知らぬと思うたか。まあ良い。息子は見つけ次第お前の元に送ってやる。極楽か地獄か来世か知らぬが、親子仲良くな。連れてゆけ」


 信長の命によって、おつやの方は信長への罵声を叫びながら連れて行かれた。信長は何事もなかったように重秀に話しかける。


「さて藤十郎。そこの百姓が刈屋から兵糧を運んだ百姓だな?」


「御意」


 重秀がそう答えると、信長は命じた。


「その者は久太(堀秀政のこと)に引き渡せ。当方で取り調べる。何、命まで取ろうとは思っておらぬ。おらぬが、当分刈屋には戻せぬ故、取り調べが終わり次第、羽柴に身を預ける。ほとぼりが冷めたら故郷に返してやれ」


「御屋形様のお慈悲、確かに承りました」


 重秀がそう言って平伏すると、秀政と秀吉からわざとらしい咳払いが聞こえた。重秀は咳払いの意味がしばらく分からなかったが、そのうちに気がついた。


「・・・上様へのご無礼、平にご容赦を」


「許す」


 そう言うと信長は屋敷内に引き返していった。





 その日の夜。岐阜城下の羽柴屋敷では、秀吉主催の慰労の酒宴が催されていた。参加したのは重秀を始め、竹中重治、山内一豊、前野長康、宮部継潤、浅野長吉そして福島正則、加藤清正、五島為浄、本多正信も参加していた。


「此度は骨折りであったな、皆の衆。一兵も失わずに帰還できたのは僥倖じゃ」


 秀吉が上機嫌にそう言うと、手に持っていた盃を口につけて酒を飲み干した。


「その代わり、全く戦功を上げることはできませんでしたが」


 重秀は不満そうに言うと盃を口につけて酒を飲んだ。


「何を言うとるんじゃ、藤十郎。お主はすでに十分功を上げとるではないか」


「はあ?」


 秀吉の言葉に対して、意味が分からないという表情を返す重秀。そんな重秀に秀吉が語りかける。


「ほれ、刈屋城から兵糧が岩村城へ流れたという話じゃ」


「ああ、あの話か。しかしよ、義兄貴あにき。あの百姓の証言だけじゃあ証拠は足りなくねぇか?」


 長吉が秀吉にそう疑問を呈した。秀吉がニヤリとしながら話す。


「ああ、証拠はでっち上げる」


「はあぁ!?」


 秀吉の衝撃的な発言に重秀が思わず声を上げた。秀吉は構わずに話をする。


「刈屋の下野守(水野信元のこと)が岩村城の秋山と繋がっていると、半兵衛から文が来てのう。丁度、岐阜にお戻りの上様を追いかけて関ケ原あたりで合流し、その事を申し上げたのじゃ。上様は大層喜んでおったわ。目障りな水野を取り潰す大義名分ができたのじゃからのう」


「で、では、証拠のでっちあげについて、上様は・・・」


 重秀が困惑顔でそう言うと、秀吉は笑いながら言った。


「同意しておるわ。あの柿助とやらの証言を元に、下総守が率先して岩村城兵糧を運んだことにしてやるわ。のう、半兵衛?」


 秀吉にそう言われた重治がすまし顔で言い放つ。


「岐阜への道中、若君は秋山やおつやの方様に気が向いておりましたからな。隙をついて証拠を捏造するくらい、造作もないことです。ところで」


 重治がそこまで言うと、顔を重秀から宴席の末席にいた正信に顔を向けた。


「下野守様の失脚は三河守様(徳川家康のこと)のためになる、と弥八郎殿は仰っていましたな?」


「おお、織田と羽柴の陰謀に、それがし如きの弱い者まで巻き込むおつもりか?恐ろしいですなぁ」


 全然恐ろしいなんて思っていない口調で話す正信に、秀吉が話しかける。


「弥八郎。これらの証拠は三河守様に提出される。お主の口から真相を三河守様に聞かれては不都合じゃ。死にたくなければ手伝え。三河守様の下へ帰りたいんじゃろ?」


「分かっておりまする。喜んでお力添えさせていただきまする」


 秀吉の恫喝めいた命令に、正信は笑いながら頭を下げた。そんなやり取りを見ていた重秀は、大人たちの謀の凄まじさに、ただ身を震わせることしかできなかった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公、いる意味あるの?
[一言] とは言え後々の事を考えると水野を殺さず徳川勢の権力家康で一本化させない方がいいんだよなあ
[良い点] 重秀のサラブレッド感は、上から目をつけられないという点でいい感じかも知れない。秀吉のコピーだと上様も潰しにかかるだろ。
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