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第171話 国替え(表)

感想、評価、ブックマーク登録、いいね!を頂きありがとうございます。大変励みとなっています。


週1のペースとなってしまい申し訳ございません。活動報告にありましたように、9月中は週1のペースが基本となります。

また、誤字脱字報告を頂いても反映に時間を要する虞があります。


どうぞよろしくお願い致します。

 天正八年(1580年)二月中旬。重秀は秀吉と小一郎、黒田孝隆、さらに備前石山城から来た宇喜多直家が富川正利(のちの戸川秀安)と共に安土城内の羽柴屋敷に来ていた。秀吉が事前に呼び出されており、そのついでに直家がついてきたのであった。


 さて、安土の羽柴屋敷では秀吉達が上機嫌に会話をしていた。


「やっと安土に帰ってこれた。久々に上様の顔が見られるのう。そして播磨が誰のものになるかもやっと決まる」


 信長が秀吉を呼び出したのは、去年の播磨平定に対する褒美を与えるためであった。


「しかも和泉守殿(宇喜多直家のこと)も体調が悪いのにも関わらず安土まで来て下さった。和泉守殿が上様に拝謁できれば、宇喜多のお家も安泰というものでござろう」


 秀吉が直家に向かってそう言うと、直家は「まったくです」と言った。


「これも、前右府様(織田信長のこと)へ働きかけてくれた筑前殿のおかげ。もうこれで思い残すことはありませぬ」


 直家の言葉に、秀吉は「ご冗談を」と笑って返した。


「八郎殿(のちの宇喜多秀家)がまだ幼少なのですぞ。和泉守殿にはまだまだご壮健であらなければ、せっかく復活した宇喜多の家がまた危うくなりまするぞ」


 そう言う秀吉に、直家は「それもそうですな」と笑い返した。そんな秀吉に、小一郎が口を挟んでくる。


「しかし、上様は儂に一体何の用じゃ。兄者から回された書状を読んで驚いたぞ。お陰で雪深い竹田城から苦労して来る羽目になったんだぞ」


 そう言って愚痴る小一郎に秀吉が宥めるように言う。


「まあ、そう言うな。上様にはお主が但馬平定の際に先陣を任せることをお知らせしておるし、その際に雪で閉ざされる前に押収した生野の銀を上様に献上しておる。お褒めの言葉が貰えるのではないか?」


「そんなもんかのう。儂は嫌な予感がするのだが・・・」


 小一郎がそう言いながら首を傾げた時だった。安土の羽柴屋敷の留守居役である副田吉成が部屋の外から声をかけてきた。


「殿。そろそろお城へ上がる刻限となりました」


「おお、もうそんな時か。では官兵衛、行って参る」


 秀吉がそう言うと、ただ秀吉についてきた孝隆が「行って参りませ」と言って平伏した。秀吉が頷くと、秀吉と重秀、小一郎、そして直家と正利が立ち上がり、部屋から出ていくのであった。





 信長が家臣と合う場合、普段は安土城天主一階部分の大きな広間で会うのが普通である。極稀に五階や六階(最上階)で会うこともあるが、そこは狭いので大人数が入れない。そこで一階の広間で会うのである。


 さて、広間には秀吉達だけではなく、柴田勝家、池田恒興、池田元助、阿閉貞征、更には堀秀政や長谷川秀一といった奉行衆もいた。皆が広間の下段の間に座っており、信長が現れるのを黙って待っていた。

 待つことしばし、外から「上様、殿様のおなぁ〜り〜」という声が聞こえてきた。と同時に複数の足音が聞こえてきた。秀吉達が一斉に平伏した直後、上段の間に直接入れる襖が開き、信長と信忠が太刀持ちを従えて入ってきた。

 そして信長と信忠が上段の間に並んで座ると、下段の間で平伏していた秀吉達が一斉に頭を上げた。そして皆の視線が信長に集まると、信長は甲高い声で「大義!」と言った。


「備前石山城主、宇喜多和泉守殿!」


 信長が座っている場所から一番近いところに座っていた長谷川秀一が大声で直家を呼び出すと、秀吉の隣りに座っていた直家が「ははっ!」と言って立ち上がった。直家が立ち上がると同時に、末席に座っていた正利も立ち上がった。正利は両手で三方さんぽうを持ち、その上には一振の刀が刀袋に入れられた状態で乗せられていた。

 上段の間と下段の間の間、ちょうど信長や信忠が座っている前に空いたスペースに来た直家は、斜め後ろに侍っている正利と共に座ると信長に向かって平伏した。そして少し頭を上げると、信長と信忠に挨拶の口上を述べた。


「ご尊顔を拝し奉り、恐悦至極にございまする。御前に侍りまするは備前石山城主、宇喜多和泉守直家にございまする。前右府様及び三位中将様におかれましては、ますますの弥栄をお祈り申しあげまする」


 直家の挨拶に対し、信長は特に感情を顔に出さずに直家に話しかける。


「和泉守、大義。今後は天下一統のため、筑前と共に西の平定を成せ。そのためにうぬは引き続き汝の領地を善く治めるように」


 信長の言葉に、直家は「ははぁ!」と言って再び平伏した。そして頭を上げると、信長に言う。


「前右府様への貢物として、備前長船の刀工、左衛門尉景光が造りし太刀を献上いたします」


 そう言うと直家は正利の前に置かれていた三方を両手に取り、頭を下げつつその三方を頭の上に掲げた。すると信長がいきなり立ち上がった。

 本来ならば下段の間の角にいる小姓が三方を受け取って信長の前に置くのが普通なのだが、信長はそんなことをせず、直家の前まで歩いて行き、刀を掴むと乱暴に刀袋を外して刀を鞘から抜いた。その行動に、直家や正利はもちろん、秀吉達も驚いた。

 そんな者達の驚きをものともせず、信長はじっと刀を見つめていた。偶に反りを確認したり、刃文や刃を見るべく色々動かしたりしていたが、暫く経つと刀を鞘に戻し、近くに来ていた小姓に刀を渡した。そして直家に高い声で話しかける。


「確かに名工景光の刀よ。最近の長船の刀は質が落ちたと聞いていたが、やはり名工が造りし刀は違うものよ」


 この時代、備前国長船では多くの刀工が住んでおり、西日本における刀の一大生産地となっていた。そのため大量生産された長船物が流通しており、当然その中には粗悪品も混じっていた。そのため、ブランド力が少々落ちていた。

 しかし、鎌倉時代から室町時代にかけての名工(長光、景光、兼光)が造った刀はやはり大量生産された長船物とは一線を画しており、各地の大名や公家たちの垂涎の的であった。

 そんな刀をもらった信長。機嫌が良いのは当然であった。


「和泉守。大儀であった!これからも、備前と美作を任せたぞ!」


 信長がそう叫ぶと、直家は「ははぁ!」と腹の底から声を出しながら平伏した。そしてその顔には、謀略や調略が上手くいった時に出るような腹黒い笑顔ではなく、心から安堵したような笑顔を浮かべていた。





 直家と正利が自分達が座っていた場所に戻ると、今度は柴田勝家が呼ばれた。信長の前に出てきた勝家には、信長より越前一国と加賀の江沼郡と能美郡が与えられることが伝えられた。

 その代わり、尾張の領地と近江永原城、そして近江の領地である栗太郡と野洲郡が召し上げられることとなった。近江の領地のうち栗太郡の一部は石山本願寺との戦いで功を挙げた池田恒興に与えられ、野洲郡の大部分は信長の直轄地になった。また、尾張の領地は信忠の直轄地となった。

 ただし、安土滞在の賄料として、野洲郡の一部は勝家の知行として残されることとなった。


「権六(柴田勝家のこと)。汝に越前を任せる訳は分かっておろうな?」


「はっ。加賀、能登、越中を平定し、更に越後の上杉を討ち破ることにございまする」


「で、あるな。権六、越前の国衆及び旧佐久間の与力共は全て汝が使え。万難を排し、北国を平定せよ!」


 信長の高い声が大きく広間に響くと、それに負けない大声で勝家が「ははぁ!」と答えた。この瞬間、『北陸方面軍』は『佐久間軍団』ではなく『柴田軍団』となった。


「次、羽柴筑前守殿、池田紀伊守殿、阿閉淡路守殿、堀久太郎殿、池田勝九郎殿、羽柴小一郎殿、羽柴藤十郎殿!」


 秀一の大声で呼び出された者達が信長の前に出る。呼ばれた順に横一列に座ると、皆が一斉に平伏した。そして信長が秀吉に声をかける。


「猿、去年の播磨平定見事であった!これで織田の面目が立ったというものよ!褒美を取らす!」


 信長の言葉に対し、秀吉が「ははぁ!」と返事を返した。直後、秀一が懐から書状を取り出し、開いて読み上げた。


「羽柴筑前守に播磨一国を与える。また、播磨の国衆、与力は勝手次第とする。さらに、宇喜多を始め備前と美作の国衆を全て筑前守の与力と致す!」


 この瞬間、織田家に新たな軍団が生まれた。後世で『羽柴軍団』又は『中国方面軍』と呼ばれる軍団である。

 広間に感嘆の声が上がる中、秀一の声がまだ続く。


「ただし、筑前守が有する長浜城、北近江三郡及び摂津二郡を召し上げる!」


 その言葉に、重秀は思わず驚きの声を上げそうになった。広間でもざわめく声が広がった。そんな中、秀吉が広間の驚きの声以上の大声を上げて返事をする。


「ははぁ!有難き幸せ!この猿、承りましてございまする!」


 その声に広間のざわめきはピタリと止まった。


 ―――父上すげぇ―――


 頭を下げた状態の重秀は心の中でそう思った。秀吉に播磨一国が与えられる事自体は予想できたし、その代わりに今までの領地の一部が召し上げられるのは想定の範囲内であった。

 しかし、秀吉の旧領は全てを召し上げられてしまったのだ。これは重秀や秀吉は予想していないことだった。

 そんな中、秀吉は躊躇すること無くこの決定を受け入れた。長年育て上げた北近江や、丹精込めて築城した長浜城を手放すことに秀吉は忸怩たる思いがあっただろう。しかし、そんな思いを一切見せず、秀吉は信長の命に従ったのである。

 そんな秀吉に改めて尊敬の念を抱く重秀であったが、一方で兵庫城から立ち退かなければならない事に、重秀は憂鬱な気分となっていた。


 ―――兵庫城にはそれほどいなかったし、思い入れはないから私は良いんだけど、またゆかり達を移さないといけないのか・・・。須磨の近くに住めて喜んでいたんだけどな。

 ・・・さて、次に住むのは姫山城の二の丸か?いや、父上が西播の抑えとして姫山城に居て、小一郎の叔父上が北播の抑えになるやも知れない。そうなると、私は東播の抑えとして三木城に行かされるかも知れない。嫌だなぁ。海の近い場所が良いな。小さくてもいいから、阿閇城でもくれないかなぁ。いや、いっそ林ノ城でも良いかも知れない。明石の近くだから、縁も喜ぶやも知れないし、『明石殿』と呼ばれることを期待するかも知れない。いっそ林ノ城を明石城と改名しようかな?―――


 そう思っていた重秀の耳に、「藤十郎、藤十郎っ」と自分の名を呼ぶ声が聞こえた。その声に気がついた重秀が、頭を上げて声のする方へ顔を向けると、秀一が睨みつけていた。

 重秀が訳の分からない状態で周りを見渡すと、眉を八の字にして睨みつけている信長と苦笑いしている信忠の顔が見えた。そして、秀一が苛立った感情を乗せて重秀に言う。


「藤十郎っ、話を聞いていたか!?」


 そう詰問する秀一に対し、重秀は答えることができなかった。その様子から全てを察した秀一がこめかみに血管を浮かべて言う。


「・・・もう一度述べる故、しかと聞くように・・・!」


「は、ははっ!」


 そう言って重秀が頭を下げると、秀一がもう一度書状を読み直す。


「羽柴藤十郎重秀、摂津国八部郡及び有馬郡を与える。また、兵庫城主に任じ、兵庫城におらしむべし。更に羽柴筑前守の与力とする」


「ははぁ!有難き幸せ!」


 反射的に返事をする重秀。しかし、その意味を重秀はその場ではまだ理解していなかった。





 羽柴屋敷に戻った秀吉は、直家と正利を客間に案内した後、小一郎と重秀の腕を掴んで書院に連れて行った。小柄な体格からは予想がつかないほどの力で小一郎と重秀を引っ張ると、座敷の中に放り込んだ。そして秀吉は一旦書院から離れると、今度は孝隆の腕を引っ張って書院にやってきた。


「官兵衛っ、そこに座れ!」


 怒気を発しながらそう言う秀吉の圧に、すでに座っている小一郎と重秀はともかく、孝隆はただ従うしかなかった。黙って座ると、秀吉は重秀の対面に座った。


「藤十郎、小一郎、官兵衛!此度の上様の羽柴への仕打ち!あれはなんじゃ!」


 そう言う秀吉に、重秀は首を傾げながら尋ねる。


「・・・何をそんなにお怒りなのですか?」


「なんじゃお主、話を聞いておらんかったのか?」


 秀吉がそう聞くと、重秀は頷きながら秀吉に言う。


「お恥ずかしながら、播磨のどこの城に住もうかと考えていたので、あまり話を聞いておりませんでした」


 重秀がそう答えた瞬間、秀吉の拳が重秀の頭に直撃した。「いでぇっ!」と叫びながら直撃した部分を両手で抑える重秀に、秀吉が怒号を浴びせる。


「このド阿呆!上様や殿様の前で何をボーッとしとたんじゃ!?そんな悠長なことをやっている場合ではないぞ!」


 そう怒鳴る秀吉に、小一郎が「兄者落ち着け」と宥めた。そして重秀に話しかける。


「藤十郎。どこまで話を聞いていた?」


「えっと、父上が播磨一国を貰う代わりに北近江三郡と摂津二郡を召し上げられたことと、私に八部郡と有馬郡が与えられることは聞いていました」


「ほとんど聞いていないではないか・・・」


 重秀の回答を聞いた小一郎がそう呆れると、重秀に詳しく説明をした。


 召し上げられた羽柴の領地のうち、長浜城とその周辺である坂田郡の領地は堀秀政に、山本山城と浅井郡の東側のうち、羽柴家の知行およそ五万石は阿閉貞征に与えられた。

 残りの羽柴領のうち、塩津と大浦の湊とその周辺は織田家の直轄となり、残りは秀吉の与力となっていた近江の国衆(宮部継潤など)に与えられた。ただし、安土滞在のための賄料として、菅浦を含む浅井郡の西側のうち、五千石の知行は羽柴に残されることとなった。


「そして儂は生野銀山の奉行を命じられ、ついでに但馬一国を与えられることとなったんじゃ」


 小一郎の説明を聞いた重秀は、小一郎の最後の言葉に思わず反応した。


「・・・ついでに但馬一国って、まだ平定してませんよね?」


「切り取り次第ということじゃ」


 重秀の質問に、小一郎ではなく秀吉が眉間の間を右手の親指で抑えながら呟いた。重秀が首を傾げながら尋ねる。


「・・・父上。父上は何が不満なのですか?確かに我等は旧領を召し上げられましたが、そのうち摂津二郡は私に、切り取り次第とは言え但馬を小一郎の叔父上に与えられました。父上の播磨を合わせて、結構な大身となっていませんか?」


 そう聞いてきた重秀に対し、秀吉は溜息をつきながら言う。


「お主、何も分かっとらんのだな・・・。いいか、小一郎には但馬を与えられた。お主は摂津二郡と兵庫城を与えらた。そうなると、儂等はどうなると思う?」


 秀吉の言葉に対し、重秀は首を傾げた。直後、思いついたような顔で秀吉に言う。


「・・・叔父上と私は父上の側にいなくなる・・・?」


「そのとおりじゃ。しかも、小一郎とお主は上様・・・いや、この場合は織田家当主たる殿様か。殿様から領地を与えられとる。つまり、小一郎とお主は儂の家臣ではなく、織田の直臣という立場になったのじゃ。そうなると、儂は小一郎とお主へ命じる権限が無くなるのじゃ。同輩となるからのう。

 ・・・まあ、小一郎が但馬の領主となるのは但馬を平定した後の話じゃ。それまでは儂の家臣だからまだ良い」


 そこまでは落ち着いた口調で言っていた秀吉であったが、直後に秀吉は大声を上げる。


「そんなことよりも!藤十郎を儂の与力にするってどういうことじゃ!?与力も糞もあるか!藤十郎は儂の息子じゃぞ!嫡男じゃぞ!城や知行は儂が与えるのが筋じゃろうが!」


 そう叫ぶ秀吉に、孝隆が落ち着いた声で話しかける。


「筑前様、落ち着いて下され。主君が家臣の子息に知行を与えることは珍しくはありませぬ。それに八部郡と有馬郡の二郡は摂津とは言え播磨の隣。遠方ではないのですから、むしろ上様は筑前様の事をよくお考えだと存じまするが」


 孝隆の言葉に秀吉が溜息をついた。小一郎が秀吉を慰める。


「・・・まあ、播磨一国は兄者のものじゃ。少なくとも、兄者は一国一城の主じゃ。それに、平定前に思っていた石高よりは少ないとは言え、三十万石は確実じゃ。今までの十八万石よりはだいぶ加増されとるじゃないか」


「・・・そこが上様の嫌らしいところよ」


 秀吉がそう言って再び溜息をつく。


「他の者から見れば儂は加増されとる。しかしながら、播磨は国衆が多い。というか、平定を急ぐあまり国衆を寝返らせすぎた。連中の知行を考えれば、儂の石高は二十万くらいじゃ。これでは家臣たちに加増しづらい・・・。もし加増するならば、藤十郎や小一郎の家臣とするしかあるまい。とすると、儂を支える家臣は少なくなり、儂の力が益々小さくなる・・・」


 そう言うと秀吉は項垂れた。


「まったく。半兵衛の言うとおりになりおった。上様がこんなに早く羽柴・・・いや、儂の力を削ぎに来るとは思いもしなかった」


 そしてその状態のままで孝隆に声をかける。


「・・・官兵衛、雪解けと同時に宍禾しさわ郡の宇野家を攻め滅ぼすぞ」


「・・・すでに降伏の交渉を行っておりますが・・・?」


 孝隆がそう言うと、秀吉は顔を上げて叫ぶ。


「交渉は打切りじゃ!宍禾を羽柴の物にするのじゃ!これ以上国衆を残せるか!儂の取り分を増やすのじゃ!」


 秀吉がそう叫ぶと、孝隆が「は、ははぁ!仰せのままに!」と平伏した。秀吉が今度は小一郎に叫ぶ。


「小一郎!山本山城をさっさと阿閉の野郎に引き渡してこい!それが終わったら但馬へ攻め込め!どうせお主のものになるんじゃ!兵は儂が送ってやる!分かったな!?」


「あ、ああ。分かった」


 息を呑みながら返事をする小一郎。秀吉は今度は重秀に叫ぶ。


「藤十郎!」


「は、はい!」


「長浜城の引っ越しはお主に任せる故、久太(堀秀政のこと)とよく談合せよ!良いな!?」


 秀吉の叫び声に、重秀はただ頷くだけであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何だかんだで藤十郎も城持ち大名になったのか 家臣団の統制から内政に水軍の増強とやること一杯過ぎる 頼りになる小一郎も側にいないとなれば秀吉以上に苦労しそうだ
[一言] こういう一見出世や給料アップに見えるから本人達は文句言えないけど、実際は新たな領地の統治と国人衆や領民の慰撫に苦労しなきゃいけないから、国替される家臣は大変だよね 柴田勝家が一番それで言う…
[一言] 現代の公務員の感覚がある人間からみると秀長や秀重の別に知行があてがわれて直臣化というのは信長の思惑を知っていても悪くない話なんだろうな。 最終的に羽柴の家督相続時に播磨がどうなるのかという…
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