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第百三十八話 孫とウナギ

作者: 山中幸盛

 山中幸盛の孫・桃太郎は小学三年生で、ユーチューブの魚釣り動画を見るのが大好きだ。加えて、釣りユーチューバーのほとんどが釣った魚を自らの手でさばくシーンを公開しているし、また多種多様の魚を色々な方法で購入してさばくことを専門とするユーチューバーもいるほどなので、その影響で桃太郎も自らの手で魚をさばきたがる。

 たとえばスーパーマーケットまで母親の買い物に付いて行き、内蔵処理がなされていないお頭付きの魚をあえて選んで買ってもらい、それを家の出刃包丁でさばくので、今や母親よりも遙かに上手く処理できるらしい。

 そこで、昨年の五月は幸盛が直腸癌の手術・入院などがあって桃太郎をウナギ釣りに連れて行ってやれなかったので、今年のゴールデンウィーク中に、日没直後に潮が良く風が弱い日を選んで行ってみることにした。

 庄内川河口にあたるその場所は、もちろんトイレなどないので、幸盛は大便がしたくならないように、朝食はカロリーメイトとヨーグルトと牛乳程度でガマンする。昼食もお菓子一個でガマンするが、しかしその分、夕方四時過ぎに家を出る際には、コンビニで買った骨なしチキンやサンドイッチなどをガツガツ食べて空っぽの腹に押し込む。

 そのウナギ釣りポイントは、以前桃太郎一家とハゼ釣りに行った場所の近くなので、夕方六時頃現地集合にして、幸盛はエサ屋でカメジャコを買ってから先に行き、釣ザオ四本分の仕掛けを作り終えた頃に桃太郎一家が到着した。

 だがカメジャコは相変わらずの人気で小さめのしか残っていなかったので、釣れる確率はかなり低下するだろうが、念のため、クーラーボックスに海水を入れておく。もしウナギが釣れたならば、下手に堤防の上で針を外そうとすればウナギは暴れまわりつかもうとしてもにょろりくにょりとすべりまくるし、万が一針が外れたとしてもくねくねと海に向かって蛇のごとく逃げて行くので、クーラーボックスに入れてすぐに蓋をしてハサミで糸を切った方が無難なのだ。

 すると、七時半頃にサオ先に付けた鈴がリンリンと鳴ったので、桃太郎がサオを持ってリールを巻くと、まずまずのサイズのウナギが前後左右に身体を振って釣れてきた。

「やったー、ウナギだ」

 と桃太郎は興奮しながら叫ぶ。

「じゃあ、クーラーに入れるぞ」

 幸盛は道糸を手で引っぱってクーラーボックスの上までウナギを誘導し、そして中に入れてすぐに蓋をしてハサミで糸を切る。家の冷蔵庫で水道水を入れて凍らせたペットボトルが海水を冷やしているのですぐにウナギはおとなしくなる。ウナギに触りたくてしかたない桃太郎は時々蓋を開けては、ウナギの口からはみ出ている釣り糸を指でつまんで引っ張り回すので注意する。 

「あんまり遊ぶと弱っちゃうぞ」

 結局、九時半頃までやって釣れたのはこの一匹だけで、各各の家に帰り、幸盛は帰宅するとクーラーボックスに水道水を追加して食塩を少々振りまき、空気を送るポンプを作動させた。釣ったウナギはきれいな水で数日間生かして泥抜きした方が良いことは知っているが、今回は気休め程度だ。


 翌日桃太郎一家が幸盛の家にやって来て、自家製の長さ七十六センチ幅三十センチ厚さ二十二ミリの木製まな板(かつて車庫の棚に使用していた板)の上で桃太郎がウナギをさばくことになる。そして、ウナギの生命力はとてつもなく強く、さばく途中で猛烈に暴れることを幸盛は知悉しているので、桃太郎が到着する前にウナギを氷水に入れて冷やし、動きを鈍らせておいた。

 また桃太郎は背が低いので、二リットルのペットボトル半ダース箱に空を六本入れた踏み台を用意したが、彼がその上に乗っても潰れないのを確認してから、調理開始だ。

 幸盛は桃太郎にキリを渡しながら言った。

「昔、おじいちゃんが釣ったウナギを冷凍庫に入れて完全に凍らせておいても、さばいている途中でくねくねと動き出したでね、氷水なんて気休めにしかならんけど、最初くらいはおとなしくしとるやろ。それじゃあ始めようか」

 桃太郎はうなずき、ウナギをまな板の上に乗せた。体が冷え切っていて動かないので、幸盛がスケールを当てて長さを測ると五十二センチあった。

「それじゃあ、目打ち、いくよ」

 と言って桃太郎がウナギの目にキリを立てたので、幸盛がすかさず金鎚でそれを軽く打ちつける。と、そのとたん、ウナギが猛烈に暴れ始めた。桃太郎は包丁を前ビレの所に入れて背開きを始めるが、ウナギは頭から下をくねくねと動き回らせるので、幸盛は桃太郎の横に並んで乾いた布巾でそれを押さえながら言った。

「先に内臓を出したら少しはおとなしくなるやろ」

 桃太郎はうなずき、なんとか腹を割って心臓や内臓を取り出したのだが、それでもウナギは動きまわるので、幸盛が尻尾の方を必死で押さえつけている間に、桃太郎は頭の方からすこしずつ開いていく。さほど切れない包丁で、しかも初めてのウナギなので動画のようにはうまくさばけなかったが、それにしてはまずまずの出来映えだった。



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