第8話 ただ異常だっただけ
時々玄は自分を呪う。
今回もそうだ。
過去の自分を呪い、過去の選んだ選択肢を後悔しながらも対処していく。
過去の自分の尻拭いをする。
そんな実感しかなかった。
玄の脳裏にこの世界とは思えない街並みが浮かんでくる。
夜にも関わらず人工の光が溢れ、小さい疑似的な太陽が燦々と街を照らしている。そしてとあるマンションから15、6歳の少年がバックパックを背負って飛び出してきた。その何秒か後に若い青年が追いかけるように飛び出してきた。まだ三十代前半ぐらいだろうが兄ではなく父親らしい。
マンションの目の前の大通りを少年が渡り終えた後、信号は青年を拒絶するかのように青色から赤色に変わる。しかし追いついた青年は気付かなかったらしく、前だけを見て走ってしまった。右から来てる車に気づかず。
耳触りの悪い音が響く。
無我夢中で走っていた少年も音で気付き、かすかに息をしている父のもとに駆け付ける。
介抱するも虚しく彼は、最後に遺言らしきものを呟いて息をしなくなる。
その後の少年の行動は早かった。
手遅れである事を分かっていながらも救急車を呼び、ただ見ているだけの野次馬の対応をし、その後救急車が来たのを確認して携帯電話で母親に電話をかけた。
簡潔に起きたことを話し、許される訳ないのに藁にもすがる思いでただ謝罪をした。
そしてサヨナラを告げた。
ここで少年は選択を間違えた。
この選択が少年を、殺しも、生かしもした。
結局この選択は後悔に繋がったのだ。
ただ少年にとってこの電話をした後に残されている選択肢は、行動、ただ一つである。
少年は母親が来る前に携帯電話からSIMカードを無理矢理引っこ抜くと千切って破り捨てた。
携帯は思いっきりコンクリートの地面に叩きつけ、破壊した。
そして翌日、携帯電話ショップに行き新しい携帯電話を買うと、新幹線で関西を訪れ即日、関西国際空港から日本を離れた。
余りに用意周到すぎる。
少年は罰が帰ってくる事も分からず、ただ一心不乱に逃げたのである。
もちろん母の父への愛と、錯乱した精神状況を考えたら、分からなくも無い。
ただ異常だっただけだ。
ただ異常だっただけ。
その何百年後死んだのも、逆にそれまで生きれたのもこれのおかげだろう。
そして死んだ後、少年は境地にたどり着いた。
選択を誤ってはならない、そして分からなかったらただ待て、という簡単な答えである。
そして今少年の導き出した答えが証明されようとしている。
少年――玄は笑わざる得なかった。
その笑いを助長するかのように、爆弾の音は永遠に鳴らない。
「勝った」
玄は木っ端微塵になった部屋を背に、また笑った。
今回爆弾の音が鳴らなかったのは、偶然ではない。必然である。元々玄によって発明されたばかりの近代的な爆弾が爆発する確率は多く見て三割、二割ぐらいなのだ。そして三発爆弾を仕掛けたと仮定して、全てが爆発する可能性はギリギリ一桁行くかどうかだ。言ってしまえばゼロに近い。
冷静になって考えてみれば、これが労力と結果が見合う、つまり費用対効果が一番高い選択だったのである。
――まあ爆弾を作った奴の腕にもよるから、完全に確率通りってわけじゃないけど、三発仕掛けて全部爆発するのは現実的に見て無理だしな。まあ二発爆発させるだけで上出来か。
そんな事を考えながら、玄は船の側面に向かう。
そこでは失望した生き残りが撤退の準備をし終わり、最後に副艦長が、来た船に乗り込もうとした時だった。
油断していた副艦長を玄は確保した。
「―――っっ」
副艦長が確保されたことに気付いたエルはわざわざ上がってくるが、小型ナイフを首に突きつけているため副艦長を奪還することができない。
もう無理だと悟った副艦長は巡視船に撤退を指示する。
「行け!」
泣く泣く、巡視船は船員の命のために、二人を敵艦に置いて去っていく。
最後に船員達が反撃と言わんばかりに、銃を構えて発泡するがそびえ立つ巨艦の前には全く意味を為さない。
それを見届けた彼らの中には不穏な空気が流れていた。一か八かの賭けをしようとするエルに、表情を崩さない玄、そして対照的な二人に囲まれている副艦長。
あと少しで開戦というところにはぐれた天、旭と宙が急行する。不敵な笑みで、玄を斬り捨てようとしていたエルは、天達を前に心の中で舌打ちをし剣を鞘に収める。
「じゃあ 早く尋問室に来いよ てめえら」
「えっ」
数秒間沈黙を保っていたこの場で、天や旭たちからしたら奇想天外な事を言い出し、案の定、わけが分からない、という顔をされるも、事の次第を説明し今から尋問室に行くことになる。
こうして海戦は終わりを告げた。
そしてこの戦いは大戦の序戦であり、これからの泥沼の戦いからしたら、カワイイ物だった事が後に分かる。
東地中海海戦と呼ばれるこの海戦は、その結果に反して東洋世界に落胆を西洋世界に熱狂をもたらした。




