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書くことをやめないで

作者: tei

 書くことをやめないでください。

 突然、こんなメッセージを送られて、先生はびっくりしていることと思います。私も、びっくりしているんです。こんな風に誰かに宛てて文章を書いたのなんて、生まれて初めてなんです。だから、変な文になってしまっているかもしれません、先に謝っておきます。

 先生、なんて呼ばれることも、いやでしょうか。でも、私には、先生は先生なんです。このメッセージの中でだけでも、そう呼ばせてください。

 先生。私は、先生の文章が好きです。先生の文章で綴られる、物語が好きです。私はこれまでの人生で、と言ってもまだそんなに長生きしているわけではありませんが、あまり本を読まないで生きてきました。絵本も漫画もだめで、文字ばかりが並んでいるような本は尚のこと、頑張って読もうと思っても、あまり興味を持てなくて。かと言って、外で運動するのが好きなわけでもない、友達も多くない、お喋りのネタも持ってない。人生に色があるとしたら、私の人生の色はきっと、ぼやけた薄墨色だったでしょう。ああ、薄墨色という言葉は、先生の文章で初めて知ったんですよ。あれを読んだときに、この色は私の色だ、と思いました。

 でも、そんな私の日常は、あるとき変わったんです。暇つぶしにネットを巡っているときに、偶然開いたのが、先生のサイトでした。世界中の人々がネットで小説を公開しているなんて、私はそのときまで全然知らなかったんです。だから最初はびっくりして、好奇心から、ひとつの短編を覗いてみました。

 驚きました。

 それは、原稿用紙一枚かそこらしかないような、本当に短いお話でした。それなのに、それだけの数の文字の中に、人の悲しみや苦しみ、愛情や喜びが詰まっていたんです。最初の一文から引き込まれて最後まで、瞬きも忘れて一気に読んでしまいました。

 そんなことは初めてでした。文字を追うのが苦痛でしかなかった私が、一度もつまずくことなくひと息に、物語を楽しめるなんて。それだけじゃない、そこには胸が苦しくなるような感動がありました。今まで誰にも教えてもらえなかったような、それでも確かに私の胸のどこかにはあった、そんな感情を、そっと撫でてもらったような。

 泣いてしまったんです。私は、その物語を読んで、泣いてしまったんです。

 世界には、こんな文章があるんだと、こんなに心を動かされるような物語があるんだと、そのとき知りました。

 それから、私は毎日少しずつ、先生のサイトに置いてある物語を読むようになりました。一日の終わり、眠る前の時間に、大切な贈り物を開くような気持ちで。キラキラと光るお話もあれば、暗く沈んでドロドロとまとわりつくようなお話もありました。短いお話も、長いお話もありました。そのどれもが、私の心を動かして止みませんでした。主人公と同じ気持ちを味わい、ときにはそこに描かれたものとは違う考えに思いを巡らせ、果てなく広がる世界に胸を高鳴らせ、はかなく消えてゆく世界に切なくなりました。

 ひとりの人が、こんなにもたくさんの物語を考え、書いたのだと思うたびに、私はどきどきしました。先生の文章を読んで、物語に触れることのできる、人間として生まれてこられたことが、嬉しくてたまりませんでした。

 先生。先生の書いたものは、私を変えたんです。確実に、私の中のどこかに根を下ろして、それはもう、永遠に成長を止めることはありません。

 だから先生。書くのをやめるなんて言わないでください。私がもっと早く、ただ読むだけじゃなくて、こういうメッセージを送っていればよかったんでしょうか。けれど、こういう風にメッセージを送れるなんて、知らなかったんです。・・・・・・知っていても、恥ずかしくて送れなかったかもしれませんが・・・・・・。

 今まで黙っていたのに勝手なことを言う、と思われても構いません。ただ、ここにひとり、あなたの書く物語を愛してやまない人間がいることを、知って欲しかったのです。

 私のために、書いてくれませんか。あなたでなければ、だめなんです。あなたにしか書けない文章が、物語が、世界があるんです。そして、それを読むことで、これからも幸せに生きていける人間が、ここにひとり、いるんです。

 私のために書いてくれたなら、書き続けてくれたなら。きっとこの後、私の他にも、あなたの文章に気がつく人が出てきます。あなたの文章を愛する人が出てきます。これは絶対、そうです。だって、私みたいな人は、他にもたくさん、いるはずだから。あなたの文章を必要としている人が、この世界には必ず、いるんです。絶対です。

 だから、書くことをやめないでください。あなたの心が挫けそうになっているのだとしたら、私のことを思い出してください。まだ見ぬ私のような人間のことを考えてみてください。

 また新しい物語の世界で、お会いできることを楽しみにしています。

 あなたの読者のひとりより。

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