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何でも願い事が叶うランプを手に入れた。

作者: 狼上こず

 私はフリーマーケットで売っていた、古びたランプを買った。

 手書きの値札には「何でも叶う!」と書いてあって、百円くらいなら払ってやってもいいだろうと思ったからだ。


 馬鹿げた話だと思いながらランプをさすると、あれよ不思議、ランプの魔人がぼわんと登場。

 私は「そんなこともあるんか」と思いながらそいつの半透明なひげ面を眺めた。


「あの、もっと驚くとかないんですか?」


「だって、何でも叶うんでしょ? だったらそれくらいはやってもらわないと」


「いやまあ、そうですけど。貴女みたいに冷静な人、初めて会いましたよ」


「そりゃどうも」


 冷めているとよく言われるが、まさかランプの魔人にまで言われるとは思わなかった。

 しばらくじっと見つめていると、魔人はモジモジし始めた。


「あの……願い事はなんでしょうか」


「えっ、言わないとダメ?」


「いや、別に言わなくてもいいんですけど……このままだと居づらいんですよ。私の仕事はあくまで願いを叶えることなので、それを果たさせてください」


「分かった。君のために願い事を叶えさせてあげよう」


「なんか押し付けがましいなぁ」


 文句を垂れられても、こちらの知ったことではない。とはいえ、せっかく百円も払ったのだから、少しくらい使ってやるか。


「んじゃ、叶えられる願い事を百個にして」


「ダメです。そういうルールの裏をかくような願い事は叶えられません」


「なんでだよ。誰もが考える夢でしょうが」


「だからダメなんです! 他の願いにしてください」


「それじゃ、魔法のランプを二個に増やそう!」


「いや、無理です」


「なんで!」


「願い事が増えちゃう系は全部ダメです」


「魔人を二人にするのも?」


「無理です」


「けちくさいな」


 増やすのがダメなら、ランプ自体にアプローチしてみるか。


「魔人をランプの束縛から解放して私の専属奴隷にします」


「そういうのもなしです!」


「なんでよ」


「私の能力を乱用される可能性がありますから、専属契約は無理なんです」


「ちぇっ、めんどくさいなぁ」


「悪うございましたね」


 だったら、もう少し趣向を変えてこんなのはどうだろう。


「私を神様にして」


「いや、それも無理です」


「なんで」


「叶えられる願い事の範疇を超えてます。もっと現実的なものにしてください」


「私が神様になったら、もっと世界が良くなるんだけどな」


「たとえばどんな風に?」


「お菓子を食べても太らなくなる」


「それ、あなたの個人的な願望でしょう。というか、最初からそれを私に願えばいいじゃないですか」


「それじゃつまんないでしょ」


「願い事で大喜利をしていただきたいわけではないんですが」


「あ、バレた?」


「バレバレですよ、さっきから。ちゃんとしてください」


 それじゃあ、もっと平和的に利用してやろう。


「世界中の言語を一つに統一して」


「うわ、また出た。神様レベルの願い事」


「ダメなの?」


「叶えられる限界を超えてます」


「んじゃ世界平和で」


「アバウトにしてもダメ!」


「んもう、何ならいいのよ」


「私からアドバイスするのはルールで禁止されてますから、自分で考えてください」


「あんまりルールばっかりにこだわってるとマニュアル人間になっちゃうよ」


「あなたの願い事がぶっ飛びすぎなんですよ!」


「スケールのでかい女と言ってくれる?」


「でかすぎるのでもう少し縮めてください」


 ああ言えばこう言うで埒が開かない。こうなったらとことん議論してやろうではないか。


「そもそもさ、あんたはどうしてこの仕事を始めたわけ?」


「大昔に大変悪いことをしまして。その罪を償うために、一万人の願い事を叶えることになりました」


「一万人の願い事を叶え終わったらどうなるの?」


「晴れてランプから釈放されます。私はこの能力を失って普通の人間に戻ります」


「あんたそれでいいの?」


「えっ」


「その能力を持ったまま、外に出たいって思わない?」


 ランプの魔人は私の言葉を聞くと、肩をすくめた。


「何度か試しましたよ。でもダメでした。ランプの呪縛が強すぎるんです。壊すどころか抜け出すこともできませんでした」


「バカやろう!」


「っ――!?」


 私はぐっと拳を握りしめて熱弁する。


「諦めちゃダメだよ。どこかに必ず抜け穴がある。だからそれを見つけようよ」


「抜け穴を……?」


「一緒に考えてあげるからさ。久々に悪いことしちゃおうぜ」


「いいんですか? 私、極悪人かもしれないんですよ?」


「いいじゃん、それはそれで。そのときは私が責任を取って売主に返品するよ」


「責任を逃れる気まんまんじゃないですか」


 ランプの魔人ははぁ、とため息をついた。


「あなたと話していると、この役目がなんだか馬鹿馬鹿しく思えてきました」


「お、その気になった?」


「はい。抜け出す方法を考えましょう。もし呪縛から逃れられた暁には、好きなだけ願いを叶えて差し上げます」


「よしゃ、やったるで!」


 互いに意見の一致をみたところで、私は高らかに宣言する。


「決めた! 一つ目の願い事!」


「おっ、ようやく決まりましたか! どんと来てください!」


「魔人がいままでに犯した全ての罪を清算したことにして」


「そ、それは……!」


「どうなの? できるの、できないの」


「できますが、それを叶えたら一体どうなるのか私にも分かりません」


「んじゃ、やってみよ」


 ランプの魔人はごくりと唾を飲み込むと、両手を掲げた。


「ちちんぷいぷい!」


「古いな、ネタが」


 手のひらから放たれた魔法の輝きが魔人の体を包み込む。

 私はその眩しさに、思わず両手で顔を覆った。


 次の瞬間、目を開けると、そこにはランプの呪縛から解き放たれた魔人が自由に浮かんでいた。


「やった! やりましたよ!」


「それじゃ、願い事を百個に!」


「あっ……」


 魔人と私の間に妙な沈黙が流れる。

 もしかして、まさかのまさか?


「すみません。一人につき願い事三つまでっていうのは変わらないみたいです……」


「くそ、一個無駄遣いしたじゃん! バカ魔人!」


「バカ魔人とはなんですか! この強欲魔人!」


「なんだとぉ……!」


 私たちは取っ組み合いをしながら、ランプをこつんと蹴飛ばした。

 願い事は残り二つ。私たちの抜け穴談義はまだまだ続きそうだ。



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