TW-3 過去の筋肉は今の美少女、きっと未来は動物園
「ギョン ギョンギョン ギョエエエ」
窓からお日様の光が瞼の内を白く光らせる。私の左側からは最愛の人の肌の温もりを感じる。いつもは早いが今日は遅いか休みなのだろう。この人と一緒にいられる時間が長いだけで胸が高鳴る。いつも深夜に疲れながら帰ってくるので、寝させてあげよう。音を立てないように静かにベットからおり、ナイトブラを脱ぎブラをつけショーツに足を通す。今日は水色で星の刺繍が散りばめられている可愛いものだ。いつもはシンプルなものを着けるのだが今日だけは特別だ。
それにしても朝ギョンなど漫画の世界だけだと思っていた。まさか自分が体験することになるとは。私、異世界にてリア充になる。これだけで本を出せそうだ。重版は不可能かな。
考え事をしていたら腕が止まっていたようで、体が冷えてきた。少しだけ急ぎながら箪笥を開け、中からデニム生地のホットパンツと、もやしぃぃ!と叫ぶ大根の白色ロングTシャツを手に取る。このシャツにもスリットが入っている。スリット大好き。
服に着替え、ドレッサーの鏡を見ながらかみのセットをし始める。相変わらず下手くそなポニーテールは今日だけは特別綺麗に感じた。
音を立てないようにドアを開け外に出る。もっと布団でぬくぬくしたいが朝ごはんの支度があるからだ。普段はやってもらっているのだが今日だけでも私が作ろうと思う。家が完全木造のために家内で火を使ったら速攻で火が回る。だから外で料理をするのだ。
外に出ると、切り株でできた椅子が二つと凸凹とした木のテーブル。キャンプファイヤーの小型版のような形をしたコンロ?が三つある。
コンロの中に石炭を二本入れてマッチで火を付ける。ある程度火が高くなる前に手早く玉ねぎとお肉をみじん切りにして、森にある河川で冷やした調味料を持ってくる。この間に火が大きくなっているので、街で拾ったフライパンを温め油を引く。玉ねぎが茶色になったらお肉を入れてよく火を通す。あとは、昨日炊いておいたご飯を入れて具材とよく混ぜ、最後にケチャップを入れてケチャップライスの完成。 次は卵を二つお椀の中に入れてかき混ぜる、その中に砂糖を少しとマヨネーズを少しだけ入れる。あとはケチャップライスとは別のフライパンに卵を入れて火を通す。ここでほんの少しだけ混ぜて固形のようなものを少しだけ作っておく。あとはフライパンを傾けて形を整え、皿に盛ったケチャップライスの上に被せるだけ。これでオムライスの完成。あとがこの卵をもう一つだけ作ればいいだけだ。 結構上手に出来たのではないだろうか。
「んぅう…おはよう、すい」
テーブルの上に配膳していると、大好きな人が起きてきた。寝起きだからかフニャッとした声がいつものかっこいい雰囲気とはかけ離れていて萌える。
「おはよう、お姉ちゃん。 ご飯の準備できたよ」
「本当…? ありがと…」
この人は私のお姉ちゃん。お姉ちゃんって呼んでるけど本当は血が繋がっていない。 そもそもお姉ちゃんは人間ですらない。だってお姉ちゃんって私たちを拉致した張本人だからね。
お姉ちゃんは本来この世界に来る予定はなかったそうだ。理由は話してくれないけど。なんか私のことが気になって降りてきたそうだ。好き。
「食べないの?」
「うぇへへ」
「すい?」
「んにっ!た、食べるよ!いただきます!」
「?いただきます」
これ以上腕を止めているとお姉ちゃんに心配されるので食べなげら昔を振り返るとしよう。あれは今から36万・・・いや、1万4000年前だったか……。
「全軍!突撃いいいイィぃぃ!!!」
指揮官の合図を引き金に屈強な男たち、女たちが雄叫びを上げながら侵攻する。敵勢力も負けず劣らずの怒号を響かせながら突撃を仕掛けてくる。
私があの中にいたのならばすぐにペシャンコになってしまうだろう。私は儚く脆弱な究極美少女、あんなのにはなることが出来ない。だから私は動けずにいた。
「はっはっはっ!素晴らしい動きだな1、2年組!」
「首取ったリィ!」
左右から急襲を仕掛けてきた敵たちは、指揮官の首へとその腕を伸ばす。指揮官は空に大口を開け笑っている。もうダメだと思った私は瞼をキュッと瞑る。
瞬間、一陣の風が駆け抜けた。砂塵が顔を襲うのを感じながら薄ら目を開けると、指揮官の周囲に倒れる敵兵の姿があった。
「怖いか? それは当然だ!誰だって身の危険を感じると恐怖を感じるものだ!」
指揮官の声に合わせるかのように砂嵐が晴れていく。
「だが! お前には仲間がいる!味方がいる!」
敵陣地の方から雄叫びが聞こえてくる。それは怒号ではなく歓声。それも最初に聞こえた声たちが。
「味方を信じろ!我らは弱くない!屈強な兵だ!そして自分を信じろ!お前は弱くない!」
指揮官はそれだけを言うと大口を開けてはっはっはっ!と笑い始める。みるみるうちに風は強くなっていき、またも目を開けられなくなった。
「我らの出番は、まだ先だ!だがお前ならこれからの困難にも打ち勝てる!また会おうぞ!!」
最後の言葉はこれであった。だから私は強い女でいないといけない。また指揮官たちに会うためにも。
「すい?話がズレてない?」
「んぇ、本当だ」
お姉ちゃんと出会ったのは一ヶ月ほど前で。それ以降は一緒に暮らしているだけだよ。
けどそれよりも前に、変な筋肉ムチムチな上半身が大きい羽が生えた人が来ていたんだけどね。なんだか数日経ったら「ママ〜!もう無理だよお!」と言いながらどこかへと走り去ってしまった。 あの人の筋肉凄かったから、街で拾った握力計を握って貰ったら片腕405kgのゴリラだったよ。凄かったよね。
え?さっきの話はなんだって?あれは私がいつか夢で見たものだよ?
「まあ、すいが心配で一緒にいるってのが私がここにいる理由なんだけどね」
「ウェヘヘ、お姉ちゃん好きぃ」
「こら、すい。 先にお皿片付けなさい」
「はーい」
まあ、私はお姉ちゃんが一緒にいてくれるだけで満足なんだけどね!
ザクっ ザクっという枯葉を踏む音が静寂な森に響いていた。もちろん歩いているのは私だ。昨日街に行った時に考えていた森の泉に向かっているのだ。私的には早朝が一番好きなのだけれど、今の時間…だいたい十六時ぐらいに行っても朝とは違う玄ん想的な風景が見れる。あそこの泉は朝、昼、夜で全く違う光景を目にすることができる。おそらくはお姉ちゃんも知らない、私だけの特等席だ。
侵攻の妨げとなる木の枝や葉っぱはおらないように気をつけながらてで優しく退けていく。自然は大事だからね、大切にしないといけないよ。
今回は家から近いこともあり、持ってきているのは方位磁石だけだ。逆に鞄とかは邪魔になるからね。
数分も歩くと目的地に到着する。 橙色に染まった木漏れ日は泉の水をオレンジ色に染め上げる。涼やかに吹く風は泉の水をゆらし、さながらダイヤモンドの輝きを作り出している。森の中にいるはずなのにこの場所は鳥の鳴き声、虫の声一つと聞こえてこない。ただ木々が波打ち葉っぱが囁くのみ。それがさらに幻想を加速させている。
一本の大樹の元に腰掛け、膝を横に曲げてリラックスをする。 マイナスイオン気持ちいい……。
日本にいた頃はスマホをいじるしか暇つぶしができなかったが、この世界に来てからはこうゆうのが好きになっている。スマホは便利だが、別に生きるだけなら必要ないなと思ってしまう。
少しだけ目を閉じるとしようか。ほんの少しだけだから大丈夫。私は自分に言い聞かせるかのように考え、目を瞑った。あいも変わらず聞こえてくるのが葉っぱの音だけだから心地が良かった。
ミーン ミーーン という声に気がつき視界が明るくなってくる。
もう夜?
どうやら私は寝過ごしてしまったようで、起きた頃には夜が更けていた。お姉ちゃんが心配しているかもしれないから帰らなければ。
だが夜の泉は蛍が飛んでいてこれもまた幻想的に見える。まだこの光景を見ていたいがそういう訳にはいかない。
私は寄り掛からせてくれていて大樹から身を起こし、ありがとうと額と右手をつけながら言う。一瞬大樹が動いたように感じたのは気のせいだろう。
ポケットから方位磁石を取り出し目を凝らす。お姉ちゃんは北方向がお家だと言っていた。確か方位磁石は白の方が北だった気がする。雪を表す白と南国を表す赤。なんて分かりやすいんだろうか。方位磁石を作った人には頭を向けて寝れそうにないや。
白色の針が指し示す方へと私は歩みを進める。蛍たちが道案内をしてくれるかのような川を作ってくれている。
私は色々な人やものに助けられてばっかだ。だからせめて感謝の気持ちは忘れないで生きていこう。蛍さんたちにありがとうと口にすると一匹が口の中に入ってきた。 ふえぇぇ。