TW-1 拝啓チュートリアル世界様
「ぴーきょきょ。 ぴーきょきょきょきょ」
目を覚ますと窓辺で丸い緑色の小鳥が囀いていた。声は変だがアニメなどでよく見るような光景だ。しかしその声がとてつもなく煩い。二日酔いしたかのように頭にガンガンと響く。思わず顔をしかめてしまったが仕方ないと思う。
「ぴーーきょきょ。 ぴーきょきょきょぎょ」
そんな私の顔を見てか緑色の小鳥がさらに高い声で囀りまくっている。心なしかその声に嘲笑が混ざっている気がした。イライラしながら窓をピシャリと閉めてもう一度布団に入り直す。外からこちらに向かってぴきょぴきょと鳴いてるあたり確信犯だろう。ベットに顔を埋め枕の下に腕を通し耳を塞ぐ。そしたら息ができなくなってきた。
ぶっはあと顔を上げるとこちらに勝ち誇ったかのようにぴきょぴきょ鳴いている緑鳥。おまけに首を左右に振りまくっている煽り性能付きだ。おそらく私にはブチギレマークが出ているだろう。視界の隅がぼやけるのは目尻が上がったから、そういうことにしておこう。
だが緑鳥は鳴くのをやめない。こんな小鳥に舐められていていいのだろうか。ここは心を鬼にしてなんか……いろいろ…したら、いいのでは?
けど何をしたらいいのかなんて私には分からない。私は根っからの指示待ち人間なのだ。ならばこれを機に指示待ちを卒業すべきでは? そうだそうしよう。
案一、グーパンで緑鳥を殴る。
可哀想だし多方面から叱られそうだから却下。そもそも私の運動神経で緑鳥に当てれる気がしない。
案ニ、大きな声で驚かす。
一番現実的だろう。だが、私がママンから聞いた話では、鳥を驚かすと生きたまま目を抉り取られ脳を貪り食われると言っていた。 怖すぎ却下。
案三、頭を下げながらパンの切れ端を貢ぐ。
平和万歳。争いのない世界って最高だね。けどこんな屈辱に私は耐えれるのか?ここまで馬鹿にされておきながら頭を下げられると? 無理だね、私の頭はそんなに軽くないんだよ。
そんなことを考えている間もぴきょぴきょ囀る小鳥。 ふっふっふ、今から起こる恐ろしいことを知らないとは憐れよのお。
私はベットの近くにあるテーブルからふっくらパンを一枚だけ取り、どうぞ納め下さいと言いながら献上した。 だが、これは普通の食パンではない。なんと賞味期限が5月13日、そして今は5月3日!10日も前なのだ!腐っているのは確実、実際袋の下に白色のクズがいっぱい落ちているからね!まさに腐っクラパン。 フハハ!腐ったパンを食って絶望するがいい!
「きょきょ、きょ」
………あれ?平気そう?いや、でも期限は10日前だし…匂いは、甘い匂いがする。あれ?
いや、待て待つんだ私。そうか分かったぞ、この緑鳥は平気なフリをして私にもこのパンを食わせる気なのだ。 ふっふっふ、流石は私だこのような孔明の罠にも気付いてしまうとはな。
「きょきょ」
この緑鳥よりも私の方が賢い事が分かった瞬間、この緑鳥が馬鹿に見えて仕方がない。きょきょきょきょ鳴きながら首を傾げるあたり馬鹿丸出しよのぉ。
そんなことをしているうちに目がスッキリとしていたので壁掛けの時計を見る。そうしたらなんと7時ピッタだった。私がいつも起きているのは12時過ぎだからものすっっごい早起きだ。早起きは三文…いや四だったか?まあ得ってママンが言ってたな。
まあそれは置いといて。
早く起きてしまったのはいいのだが、何をしようか。とりあえず顔でも洗おうかな。そうだそうしよう。そうと決まれば行動だ。 ベッドの横にあるドレッサーからヘアゴムを一つ取り頸?のあたりで結ぶ。鏡を見ると相変わらず何箇所か膨らんでるけど上手くできた方かな。髪の長さはロングなのではないのだろうか、背中まで伸びている。前髪はぱっつんじゃなくて右から左に斜めにしてある。にしても、真っ黒な黒髪にこの碧眼は目立つ。なぜに純粋天然日本人である私が碧眼なのだろうか。
まあ、そんなことはどうでもいい。取り敢えずは外の出る準備だ。
ハンガーに掛けてあったバスタオルを手に取り、自室から外に出る。完全木造建築の我が家は部屋にいようが居間にいようが目に入るもの全てが木だ。箪笥やテーブルにベッド・お風呂に至っても木、これぞ本当の木造建築。鉄?そんなこは知らないね。
ゆっくりとした足取りで階段を一段一段降りていく。階段のサイズが不揃いで転びそうになるからだ。欠陥住宅?この家作ったのお姉ちゃんぞ?お?お姉ちゃんを馬鹿にしたな?喧嘩か?怖いからやめてくださいごめんなさい。
「んひっ」
見えもしない人に謝りながら階段を降りていたら前方不注意?で階段から転げ落ちた。誰だこんな不揃いな階段作ったやつは、変な声が出てしまったではないか。私のクールビュッフェなイメージを返せ。
幸いなことに後四段ぐらいということもあり怪我はしなかった。でもお尻がヒリヒリする。ズボンをめくったら日本猿みたいに真っ赤なお尻になってるかも知れない。 それはそれで見てみたいなと思い即座にズボンを下ろし腰を曲げる。 クッ、ギリギリ見えない、だが残像を残せるくらい高速回転すれば見えるのでは?
その場で五回転ぐらいぐるぐると回り続け、目が回ってしまい顔面からぶっ倒れた。お尻痛いし顔も痛い。
ぼやけた視界からは少し黒くなった木造の床。ズルズル鼻を鳴らしながら立ち上がりお風呂に向かって歩みを進める。この程度で挫けてたまるものか、私は強い女なんだ、目元を両腕も上腕二頭筋でこすり涙の痕を消し去り上を見上げる、そこにあったのは満点の木造建築。ああ神よこんな時ぐらいは空を見させて下さい。また視界がぼやぼやし始めたので、意識を切り替えるためにも先に鼻をかむとしようか。足を素早く動かし華麗にターンを決める。ズボンを下ろしていることを忘れていて、綺麗に後頭部を打ちつけた。
ああ、私の中で何かがポキッと折れた音がした気がした。
そして、それを最後に私の意識は暗転するのであった。