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第十九話 デミウルゴス-01

 もし、あたしに何らかのミスがあったとすれば、それはミュールに王城の中を任せたことだったのかもしれない。


 外で暴れていた暴走ゴーレムは獣装宝術(レガリア)を使ったあたしと、フェニックスの協力もあって、過剰戦力とも言えるほど一方的に掃討することができた。

 とは言っても、あたしやフェニックスが強いからとか、相手が弱すぎたからってことだけが理由じゃない。

 そこには、都民の避難を優先させ、暴走ゴーレムとの戦闘を極力回避した警備隊の英断と協力があったからだ。


 そうして外の暴走ゴーレムが残り三体ほどになった頃だろうか。


 御神木の中からゾッとするような気配が、一瞬だけ爆風のように広がって消えるのを感じ取った。なんて言えばいいのか、それは全身に鳥肌が立つようなおぞましさを感じるものだった。

 あたしその気配に尋常ならざるものを感じ、残りの暴走ゴーレムはフェニックスに任せて急いで駆けつけた。


 そしたらこの有様だ。


 騎士の多くは命を落とし、王様を含めて重傷者も数しれず。

 ミュールは立場的なものもあってなのか、皆に守られて比較的軽症だったのは幸いだった。けど、逆にそのせいで化物に目をつけられ、殺されかかっていたという体たらく。


 ああ、もうホントに、自分の迂闊さが嫌になる。


 そもそもあたしは、冒険者ギルドからミュールの護衛依頼を受けてここにいる。それを踏まえて考えれば、戦闘状況が発生している中でミュールと別れたのは判断ミスだったと言わざるを得ない。

 やっぱりあたしは、つくづく冒険者ってのには向いてないなぁと思う。


「おまえは……ハハ、これはなんと僥倖なことか。おまえのことは知っているぞ。ルティーヤーが言っていた〝あの方〟じゃないか」


 ルティーヤー……? こいつ、ルティのことを知ってる? 〝あの方〟って何のこと?

 てか、暴走ゴーレムが言葉を喋ってることに驚きなんだけど……まぁ、いいか。

 ふー……っと息を吐いて、意識を切り替える。


 容赦はしない。遠慮もしない。

 相手がなんであれ、あたしがやるべきことは決まっている。


「僕はね、キミにだけはちょっと興味があったんだ。あのルティーヤーが何故──」

「うるさいな」


 何かキャンキャン喚いているけど、耳を傾けるつもりなんて欠片もない。

 トン、と地を蹴って駆け出すあたしの速度は、フェンリルの獣装宝術を纏ったままの今、音を置き去りにするほどに速い。

 すれ違いざまに繰り出したフェンリルの爪は、いとも容易く化物の右腕を斬り落とした。


「今さらなんの話がしたいって言うの? 散々壊し、傷つけ、殺したくせに。おまえに出来る残されたことは、惨めに、無様に、あたしに引き千切られて破壊されるだけよ」

「ハハ、これは凄い。あまりに速くて反応できなかったよ。でもね、この程度はなんら問題にならないんだ」


 そう言うや否や、あたしに切られた腕の切断面からにょきにょきと枝のようなものが生えてきたかと思えば、瞬く間に元の腕の形に戻ってしまった。


「このように、どれだけ切り裂かれようと痛みは感じないし再生もすぐにできる。ハハハ、随分と便利なものだね」

「再生するのか……」


 あたしがこぼした言葉に何を思ったのか、化物が深い笑みを浮かべた。


「これでわかっただろう? 聖獣を従えるキミはなかなかどうして厄介だが、こんな玩具の体を拾った僕にさえ傷一つ付けることはできない」

「……昔から、気になってたことがあるのよ」


 なんだか余裕綽々って感じの化物だけど、それよりもあたしは、斬り落とした奴の腕を見ていた。

 腕は腕のまま、そこから体がにょきにょき生えてくることもなければ動くこともない。完全に死んで──機能を停止している。


「再生する奴をちょうど真ん中から半分に切ったら、どっちが再生するのかなって」

「ハハ、怖いことを考える奴だなぁ!」


 なんとでも言えばいい。

 それにね、再生持ちに対して思うことは他にもあるのよ?

 例えば砂粒ほどに全身くまなく擦り潰してやったら、どれが再生するのかな──とかね。


 できるかしら? できないわよね?


 それはつまり、腕とか足とか再生できちゃうような奴でも、斃す方法はいくらでもあるってことなのよね。

 再生するなら再生すればいい。

 その分、壊し続けてやるわ!


「参ったな、僕は少しキミのことを教えてもらいたいだけなんだが……仕方がない。手足の一本でももいだら、大人しくなるかな?」


 完膚無きまでに叩き潰してやろうという、あたしの本気度がしっかり伝わったのか、醸し出す雰囲気が変わった。

 ゴゴゴゴゴ、と地鳴りが急に鳴り響く。まるで地震が起きる前触れのような音とともに地面が揺らいだ──いや、これ地面じゃない。


 根だ。


 ここは巨大な御神木の内部。その足元に地面のように広がっていたのは、土じゃない。すっかり踏まれて均されて地面のように見えていたけれど、それは御神木の根が絡まり踏まれて真っ平らになった、木の根の集合体だった。

蠢き出した地面──木の根は、まるでそれ自体が意思を持っているかのように激しく波打つ。立っていることさえままならない。


「この──ッ!」


 狙っているわけじゃないんだろうけど、ぶつかってきそうな木の根を交わし、あるいはフェンリルの爪で切り裂きながら、あたしは強制的に動かされていた。立ち止まってどうこう出来る状況じゃない。


「きゃあ!」


 そこへ響くミュールの悲鳴。この状況に、彼女も例外なく巻き込まれている。


「ミュール!」

「他所を心配している場合かい?」


 驚くほど近くから化物の声が聞こえた。

 木の根の乱舞に紛れて接近を許してしまったみたい。

 距離から化物が放とうとしているのは……魔導粒子砲? さすがにアレが直撃しちゃうのはマズイ。


 ──直撃すれば、だけどね。


「外で試してきたわよ、そんなもの!」


 目の前で放たれた魔導粒子砲は、しかしあたしに届くまえにかき消えた。フェンリルの権能である〝吸収〟によって、余すことなく喰らい尽くしたのだ。

 最初に魔導粒子砲を受けようとした時は、喰えるかどうか不安だった。けど、外で二〇体ほどの暴走ゴーレムの相手をしてる時、どうしても受けざるを得ない状況に追い込まれて受けてしまったのだ。そうしたら、心配してたのが馬鹿みたいにあっさり喰えたのよ。


 ホントにフェンリルはなんでも喰う。それも、口からじゃなくて全身どこからでも吸収してしまうのは反則だと思う。

 そんな権能を使えている今のあたしは、物理的干渉を伴う物質ならなんでもかんでも吸収して消してしまえる、絶対防御の鎧を身にまとっているようなものなのだ。


「これは驚いた。フェンリルとは、そこまでのものだったか!」

「弱点はあるけどね!」


 この権能、あたしが使うと全身からくまなく吸収してしまう。

 全身──つまり、足の裏からも吸収するってことだ。

 つまり、どこかに立ったまま使おうものなら足場の地面さえ吸収し、地中に落ちていくことになっちゃうわけだ。フェンリルだったら吸収する場所を上手く制御できるっぽいけど、あたしだとそうなってしまう。

 だから、常時発動させておくなんて無理。今みたいに空中くらいでしか使えないんだよね。


 でもまぁ、そんなことを化物に説明してやるつもりはない。せいぜい驚き、警戒すればいい。

 そして、それを知らずにこうして迂闊に近づいてきた自分の浅はかさを悔やめ。


「りゃああっ!」


 至近距離で魔導粒子砲を当てようとしたってことは、こっちからも手を伸ばせば掴めるということ。

 そして今のあたしは、触れただけで相手を喰うフェンリルの権能が働いている。

 振り抜いた腕は、なんの抵抗もなく化物の胸から首に掛けて削り取った。


「……驚いた。いったいキミは──」

「あっそ」


 皆まで言わせることなく、続けて繰り出す蹴りが化物の側頭部を捉え、これまたなんの抵抗もなく頭部が消失する。ペラペラとよく回る口も、これで使えなくなったわね。

 それとも、すぐに再生するのかしら? あるいは、頭部がなくなったら流石に再生できなくなる?

 どっちだろうと思っていれば、蠢く木の根が次第に緩慢になり、そして動かなくなった。どうやら終わったらしい。


 呆気ない?


 実際の戦いなんて、どんな強敵が相手でも、決着が付くときはあっさり終わることもよくあるのよ。

 それよりも、今は。


「ミュール、どこ!? どこにいるの!」


 根が蠢いたことで、平坦な広場みたいな地下墓所は、障害物だらけの運動場みたいな有様になっていた。命を落とした騎士たちや傷ついた王様、それにミュールの姿もどこにあるのかさっぱりわからない。


「こ……ここです……」


 辺りをキョロキョロ見渡していると、割と近くからか細いミュールの声が聞こえてきた。根と根の隙間に挟まっていたようで、それでもなんとか自力で這い出てくることができたらしい。


「良かった、無事だったのね」

「運が良かっただけです。一歩間違えれば、根と根の間に挟まれて潰されていたかもしれません……」


 ミュールは表情を暗くしてそう言うけれど、それでも無事だったのは喜ぶべきことだろうとあたしは思う。

 でも、違うんだろうな。

 ミュールが表情を暗くしている本当の理由は、木の根の蠢きで下に呑まれてしまった死んだ騎士たちの亡骸や、重症を追って動けなかった生きていた騎士や王様の安否だと思う。


「他にも生存者がいるかもしれない。すぐに探そう?」

「はい……すみません、イリアスさん」

「謝ることなんてないわよ」


「いえ、あの怪物のことです。結局、イリアスさんにすべて任せてしまいました。少しでもお力添えできればと思っていたんですけど、結局、何もできずに見ているだけで……」

「ああ。いいのよ、そんなこと。何事にも適材適所ってのがあるでしょ。本当に大変なのはこれからの──」

「イリアスさん!」


 突然、ミュールにあたしは突き飛ばされた。


 えっ!? と思う暇もない。


 青い閃光が視界を横切り、あたしを突き飛ばすために伸びたミュールの腕を消し飛ばしていた。

ちょっと筆が迷走中……むむむ。

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