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第十一話 ギルド長からの依頼-02

「実はおまえに、ダンジョンで行方不明になっている冒険者パーティの探索、および救助を頼みたい」

「救助? 冒険者を?」


 ダンジョンに潜る冒険者の仕事は、決して安全とは言い切れない。むしろ、命を落とすリスクが高い危険な仕事だ。

 その分、魔物を倒して得られる素材や、見つけた財宝で一攫千金も狙えるメリットもあるけど、一か八かのギャンブルであることは疑いようもない。


 そして、そういうことは冒険者になった時点で覚悟してる話でもあるはずなのだ。


 ダンジョンの中でピンチに陥ってる他の冒険者を助けるのは善意だし、助けてもらえなくても文句を言うのはお門違い。

 当然、ダンジョンから帰ってこない冒険者を探しに行ったり救助したりすることも──まったくないとは言わないけど──そうそうある話じゃない。

 何より、冒険者ギルドのギルド長から直接救助の依頼が出されることなんて、まずもっておかしい話なのよね。


「もしかして、その救助対象って外の国の王子さまとか貴族なの?」

「いや、そうじゃない。今はまだAランクの冒険者だ。ただ……」


 と、そこでギルド長は、あたしの顔色を窺うように言葉を止めた。


「……なに?」

「その冒険者な、勇者候補なんだ」


 ……そう来たか。


「ふーん……まだ勇者なんて称号を冒険者に与えようとしてるんだ」

「そうは言うが、勇者という称号は別格なんだよ。なくすわけにはいかん」

「そうやって勇者の称号を押しつけられた前の冒険者がどうなったのか、ギルド長は忘れたの?」


 あたしの言葉に、ギルド長は不機嫌そのものといった凶暴な表情になった。

 ……さ、さすがにちょっと言い過ぎちゃったかしら……?

 ギルド長こそ、前に勇者の称号を持っていた冒険者と、同じパーティを組んでいた仲間だったわけだし……あたしにあれこれ言われたくないって思ったのかもしれない。


「……俺としては──」


 そんなギルド長が、重々しく口を開いた。


「──おまえにこそ、勇者の称号を継いで欲しかったんだがな」

「あたしが?」


 突然何を言い出してるのよ、このおっさん。


「勇者ってのは、自らの勇猛さを示し、人々に勇気を与える英雄に授けられる称号でしょうよ。なんでそこにあたしが出てくるかな?」


 どこをどう切り取っても、あたしには掠りもしない称号じゃん、ねぇ?


「そもそも、仮にあたしが勇者の称号を授かるに相応しいとしても、そんなもの、こっちからお断りなんですけど?」


 あたしがそういえば、ギルド長は「ダメだ、こいつ」と言わんばかりに肩を落として落胆のポーズを取って見せた。

 そりゃそうでしょうよ。勇者なんて、ロクなもんじゃないんだから。


「とりあえず……相手が誰であれ、なんであれ、人命救助って言うのなら協力はするから、その勇者候補って人の状況を教えて」


 あたしが話の先を促せば、ギルド長は「……おまえが知ってるかはわからんが」と前置きして口を開いた。


「その冒険者の名はハーキュリー・オルダナス。今はまだAランクの冒険者だが、近々勇者の称号とともにL級に格上げになるだろう」

「……知らないわね」


 ギルド長の話だと、そのハーキュリーなる男性冒険者は、年齢も十代で若く、今現在でも〝救済者〟という称号を持つ剣術士らしい。

 性格もなかなかの人格者で、若手冒険者の育成や他の人が受けたがらないような依頼も率先してこなし、方々での評判も上々のようだ。

 絵に描いたような善人。万人に愛される人気者ってことらしい。


「話だけ聞くと……なんか裏の顔がありそうに感じるわね」

「俺も最初はそう思った。が、ギルドの総力を挙げて調べてみたが、キナ臭いところとの繋がりは一切見つかっていない。もちろん、素行についても同様だ。裏と表で態度を使い分けもしてる男じゃない」


 ギルド長がそうまで言うんだから、どうやら本当にハーキュリーなる冒険者は、根っからの善人なんでしょう。

 だからこそ、冒険者ギルドも長いこと空白になっている〝勇者〟って称号を、ハーキュリーに与えようって考えたわけか。


「そんなハーキュリーが二週間ほど前にダンジョンへ潜り、予定を過ぎても戻って来ていない」


 ハーキュリーは、基本的に固定の仲間がいない単独冒険者とのこと。そのため、依頼は同じ目的の冒険者と即席パーティを組む形でこなしているらしい。今回のダンジョン探索も、そういう他の冒険者と一緒に潜ったみたいね。

 なので、行方不明になっているのは、ハーキュリーを含めて合計四人。場所は、ダンジョン地下階層三十一階だ。目的としては、万病に効く霊薬の素材、エリキュールの花の採取とのこと。


「地下階層かぁ~……」


 あたしとしては、気になるのはそこね。

 ダンジョンは、ヴィーリアがつい最近になって百二十二階層を踏破して百二十三階層に到着した上層階とは別に、地下深くにも伸びている。今は四十七階層まで踏破されていて、今は四十八階層の踏破を目指し、各冒険者がしのぎを削っているような状況だ。


 さて、上は百二十二階層まで踏破されているのに、地下は四十七階層までしか踏破されてないわけだけど、この差はいったいなんなのか?


 賢明な人なら察しが付くと思うけど、地下は上層階に比べて難易度が高いってことを意味してる。階層の差で見れば、およそ三倍の難しさってわけ。

 そうなると、俗に〝暗闇の階層〟と呼ばれる地下三十一階層は、地上階層だと約九十階層くらいの難易度ってことになる。


 並の冒険者なら、そこまで潜って戻ってくるってだけで命がけだ。


「そんなとこに、あたし一人で救助に向かえと?」


 近所のお使い気分で頼まれても、そりゃ無理ってもんでしょうよ。


「大規模な救助隊を組織しても、生半可な腕前の連中ばかりを集めたって二次被害が増えるだけだろ。それなら、確かな腕を持つ冒険者に任せたほうが安全だし確実だ。ドラゴンを単独撃破するような奴にな」

「ドラゴンを単独撃破することと、地下三十一階まで単独潜入することは難易度的に別ものだと思うんですけど!? そもそもさぁ、だったらあたしじゃなくてヴィーリアとかのLランク冒険者に頼みなさいよ」


「Lランクの冒険者は片手で数えられるくらいしか存在せんのだ。彼らは彼らで、そのランクに相応しい活動を続けている。暇をしている奴なんぞ一人もおらんわ」

「……それ、あたしを救助に向かわせる理由になってないんだけど?」

「おまえは探索能力がズバ抜けている。隠し階層であっさり財宝部屋を見つけ出したようにな。その腕を見込んでの依頼だ」


 くぅ、隠し階層で財宝を見つけたことが裏目に出るとは。

 まぁ、こうなったら仕方がない。あたしが適任だとギルド長が判断してるのであれば、人命もかかってるわけだし、嫌とは言えないわよ。


「わかった。とりあえず、救助には向かいましょう」

「そうか、受けてくれるか。助かる。救助が第一の目的だが、万が一ということもある。その際には、ハーキュリーの所持品などを持ち帰ってくれ。その場合でも、報酬はちゃんと支払おう」

「別に報酬なんて──」


 あ、いや、待て待て。

 そもそもあたしは、なんで冒険者ギルドのギルド長のところに来たんだっけ?


 魔導ランタンの売り込みに来たんだよ!


「──めっちゃ報酬ください!」

「なんだ、おまえがそこまで前のめりになるのは珍しいな」


 あたしの態度にギルド長は面食らっようだけど、こっちも必死なのよ。


「いやいや、実はですね──」


 ここからのあたしは、冒険者ではなく個人の店舗を一身に背負う経営者である。

 腰を低くし両手を揉んで、「へっへっへ」と愛想笑いを浮かべながら、かくかくしかじかと魔導ランタンの売り込みを始めるのだった。

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