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第十一話 ギルド長からの依頼-01

 師匠のところで魔導ランタンを世に広める手段について相談した結果、あたしは一人、冒険者ギルドへ向かうことになった。


 ヨルはどうしたのかって言えば、師匠のとこである。

 何故かと言えば、それはもちろん、刻印詠唱を師匠に教えるためだ。


 今回、魔導ランタンを世に広め、あたしの店の目玉商品にするためとして、師匠と契約を結んだわけなのよ。


 こっちは技術を教える。

 その代わり、師匠の店で魔導ランタンの製作を許可する。


 ただし、発案者がイリアス・フォルトナーであることを明記し、刻印詠唱を用いた魔導ランタン以外の刻印詠唱を使った商品を開発した際にも、あたしの店との共同開発であることを明記した上で、売上の数パーセントを〝技術使用料〟として支払うこと。

 この〝数パーセント〟の具体的な数字については、後日改めてご相談──ということにしてある。


 そういう理由もあって、ヨルは師匠に刻印詠唱を教えなきゃならない。ので、ここから先はあたし一人で魔導ランタンの売り込みをしていくことになった。

 その最初の場所がここ、冒険者ギルドってわけよ。


「やっほー、ミュール。お久しぶり!」


 受付カウンターに、あたしが新人冒険者だった頃からお世話になっていた担当官、エルフのミュールがいたのでにこやかに声を掛けた……んだけど、すっごいジト目で睨まれた。


「え、えー……どうしたの? そんな睨んで……」

「イリアスさん……聞きましたよ。あなた、結局ダンジョンに潜って、新階層を踏破したそうじゃないですか」

「へ?」


 あたしが? 新階層を? 踏破ぁ?


「ちょっと待って、どういうこと? あたし、そんなことしてないわよ」

「先日、ヴィーリア小隊の先触れが今回の階層更新にまつわる報告を届けてきたんです。その際、言ってましたよ。イリアスさんが新階層の財宝を見つけ、ヴォイド・ドラゴンの生き血を売ってくれたおかげで武器を強化できたのが大きかった──って」

「あー……」


 確かにそういうことはしたけどさ。


「でもあたし、財宝を見つけただけよ? 踏破してないじゃん」

「それを〝踏破〟って言うんです!」

「えぇっ!?」


 うっそ、ホントに? あたしの感覚だと、次の階層に至る《門》を見つけたり、階層主を倒したり、あるいは全域の地図を完成させたりしたことを〝踏破〟って言うんだと思ってた。


「そもそもイリアスさん、財宝を守ってたヴォイド・ドラゴンを倒してるじゃないですか。ドラゴンですよ、ドラゴン。ダンジョンに棲息する魔物の中でも最強種です。それを階層主と見るのは当然じゃないですか?」

「いや、もっと強いのがいるでしょ」

「ドラゴンより強い魔物ってなんです?」

「それはもちろん──」


 って、そういう話をしに来たんじゃないでしょ、あたし!


「そんなことよりも! ちょっとギルド長と話がしたいんだけど、時間取ってもらえるかしら?」

「むしろ、イリアスさんが来たら執務室に連行しろと言われてます。新階層踏破の件を、詳しく聞きたいんだそうですよ」

「えぇー……」


 会ってくれるのはこっちとしても願ったりだけど、なんか面倒くさいことになってない?


「こっちも用があるから会うには会うけど……ちなみにギルド長の様子、どんな感じ?」

「頭抱えてる感じです。私にも、『早くイリアスを呼び出せ!』って言うくらいでしたし」

「それはそれは……」


 マジで面倒くさそうな感じになってるけど……ん、仕方がない。

ミュールに別れを告げて、あたしはそのまま、冒険者ギルドの二階にあるギルド長の部屋へ向かうことにした。


「ギルド長、イリアスちゃんがやってきたわよ~」


 ドアをノックして声を掛ければ、中から「おう、入れ」と重低音の重々しい声が聞こえて来た。

 初めて声を聞く人は不機嫌そうな印象を受けるかもしれないけど、実際はそうじゃない。いつもどこか機嫌が悪そうで低く威圧的な喋り方をするだけで、本人もそれを気にしてたりする。

 なので、声から判断するギルド長の機嫌は、いつも通りの平常運転だと思う。そんな不機嫌じゃなさそうかしら?


 まぁ、そうよね。あたし悪いことしてないし。

 怒られることもしてないはずだから、別にビクビクする必要なんてないのよ。

 ここは堂々とした態度で、ギルド長と対面すべくドアを勢いよく開けてみた。


「こンの、バカタレが! おまえは何をやってるんだぁっ!」


 いきなり怒鳴られた。

 さっきは師匠にも怒鳴られたし、なんかあたし、今日は怒鳴られることが多いなぁ。


「ちょっと待ってよ、落ち着いて。なんで怒ってるの?」

「おまえがっ! 勝手にダンジョンに潜ってっ! 荒らしたからだっ! ド阿呆め!!」

「別に荒らしてないでしょ。あたしはただ、新しく発見された隠し階層に潜って財宝を見つけただけじゃない」

「それが荒し行為と言うんだ!」


 あたしの言い分に、ギルド長はスキンヘッドの頭から湯気を上げそうなくらいにカンカンだった。おまけに、怒っているからなのか、冒険者として一線を退いてなお筋骨隆々の肉体は、普段より一回りか二回りくらい大きくなってる気がする。

 並の冒険者でも、このギルド長、レイヴ・ウォーケンに睨まれると泣き出しちゃうって話は伊達じゃないわね。


 でも!

 あたしは別に悪いことしてないし!

 怒られる筋合いはないもんね!


「冒険者がダンジョンに潜って財宝を見つけただけでしょ。どこに問題があるの?」

「おまえは冒険者を辞めたんじゃなかったのか!?」

「………………」


 やっべぃ、そうだった!


「いいか、状況がわかってないなら教えてやる! 冒険者を辞めたと言ったおまえが、ビクニック気分で未知の階層を踏破して財宝を見つけた。それを他の冒険者が知ったらどうなると思う?」

「ど、どーなるのかしら……?」

「新階層は簡単な上に財宝が眠る場所として、分不相応の馬鹿がこぞって押しかけ、命を落とすんだよ!」


「えぇっ、ちょっと待って。それは、その馬鹿が悪いんじゃないの?」

「その馬鹿を調子づかせるのが、おまえの軽率な行動だっつってんだ!」

「ちょっとちょっと。そんな馬鹿の手綱を握るのも、冒険者ギルドの役目でしょう? それにミュールが言ってたけど、あたしの冒険者ライセンスって残ってるのよね? 冒険者が自分の判断でダンジョンに潜って文句言われるのは納得いかないんですけど!?」

「ほぉ~う」


 あたしがそんな風に言い返せば、ギルド長は怒気を孕ませながらもふてぶてしく笑った。


「つまり、おまえはまだ、自分が冒険者だと言うんだな? だったら、称号持ちの冒険者らしく、ギルドからの要請に応じる義務も残ってるってことだよなぁ!?」

「はぅっ!?」


 もしかしてあたし、墓穴掘っちゃってる?


「ぼ、冒険者の役割云々はともかく! あたしはもう、商人として自分の店を持ってるんだから、その辺りの配慮があって然るべきでしょ? 冒険者ギルドからの要請はあくまでも協力要請であって、絶対服従の義務じゃないはずだわ!」

「確かにその通りだ。だが、立て続けに断り続けられりゃあ、こっちとしても、その冒険者に対する心証は悪くなるぞ」

「ぐぬぬ……っ!」


 ここで「心証が悪くなっても関係ないし!」とか言えたらいいんでしょうけど、あたしはそこまで子供じゃない。何より、自らを〝商人〟と定義しておいて、他人の評判をまったく気にしないのはどうかと思う。

 そして何より、ギルド長がそういう風に話を持ってくってことは、どうやらあたしがダンジョンに潜って新階層を荒らしたことに対するお小言が、本来の目的じゃないっぽいことを意味してる。


「……何か協力して欲しい要請があるの? もしかしてだけど」

「おまえは妙なとこで察しが良いから助かる」


 ギルド長がニヤリと笑った。

 その笑い方が、なんというか、気の弱い人なら卒倒しちゃうんじゃないの? ってくらい恐怖心をあおるのってどうなのかしらねぇ?

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