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第十話 イリアスの師匠-02

休日なので2話更新です。こちら、その2話目になります。(7/19)

「……だが、このアイデアは悪くねぇ。この模様はあれか? 確か……そうそう、刻印詠唱っつーヤツだな」


 お? てっきり叩き出されるかと思ったけど、魔導ランタンの仕組みについては気に入ってもらえた様子──って、師匠、刻印詠唱のことを知ってるの!? 確か、今では忘れられた技術とかなんとか、ルティやヨルが言ってた気がするんだけど?


「師匠、刻印詠唱のこと知ってたんですか?」

「いや、知らねぇよ。知らねぇけどよ、儂がガキだった頃に、死にかけだった曾祖父さんが『図形で魔法効果を生み出す模様がある』とか言ってたのを思い出しただけよ。現物は見たこともねぇし、曾祖父さんも話に聞いたことがあるっつーだけのもんだな」


 師匠の曾祖父さん……その人でさえ「聞いたことある」レベルの話って、何百年前の話なのよ。


「それをおめぇが復活させたってか? いや、おめぇにそんな智慧も知識もねぇわな。……んん?」


 師匠が、初めて気づいたとばかりにヨルの姿を目に留めた。


「なんでぇ、そこのガキはイリアスの子供じゃねぇな。人間でもねぇようだな?」


 一目見て、師匠はヨルが人間じゃないと見抜いた。てか、あたしの子供って……そりゃヨルの見た目は幼女だけどさ、あたしの子供と言うには無理があるんじゃない?


「よく、お気づきに……」


 ヨルがやや目を丸くして師匠の言葉に驚いている。

 確かに、ヨルの見た目は完全に人の姿だ。ここに来るまではもちろん、あたしの店の方で用があって表に出てきた時も、ルティの食堂に食べに来ていたお客さんに見破られたことはなかった。


「そりゃおめぇ、こちとら職人だぞ。本物と偽物の区別くらい付かなけりゃ、やってけねぇだろ」

「お見逸れいたしました」


 ヨルが見た目の幼さとは裏腹に、ぎこちさなも稚拙さもない、真っ当な貴族令嬢もかくやという見事なカテーシーで頭を下げた。


「わたくしは始祖龍さまより権能を授かりし七神龍の一角にして、イリアスさまと契約を結びし聖獣、ヨルムンガンドと申します」


 そんなヨルの礼儀正しい態度に、師匠も目を丸くしている。

 まぁ、こういう見た目年齢と実際の行動のギャップを見ちゃうと「おおっ!?」て思うわよね。


「しっ、七神龍だとぉっ!?」


 あ、そっち?


「おい、イリアス! おめぇ、七神龍なんてものと契約を結んだのか!? なんでぇ、調教士っつーのは知ってたが、こりゃとんでもねぇな!」


 心底驚き、感心してる師匠だけど、それは勘違いってもんですよ。


「やだなぁ、師匠。そんなの、ヨルが自分でそう言ってるだけですって」

「はぁ!? いや、だって、おめぇ……」

「七神龍なんて、創世神話で語られるような存在ですよ。存在そのものが怪しいじゃないですか。そもそも師匠、七神龍の名前って知ってます?」

「おう、知っとるぞ!」

「えっ!?」


 うっそ、ホントに? あたし、全然知らないんだけど……ドワーフには伝わってるのかしら?


「といっても七神龍の中の一柱だけだがな。儂らドワーフの守護龍として崇められとる。その名は確か……おい、ヨルムンガンドっつったか? おめぇが七神龍なら知っとるはずだな。言ってみろ」

「えっ? えー……」


 師匠に話を振られて、ヨルは困ったように視線を彷徨わせた。


「なんでぇ、知らねぇのかよ」

「いえ、その……七神龍は人々の信仰を必要としておりませんので……信仰していただいても、自身が崇拝されていると気づかないのでは? ですので、ドワーフ族が七神龍のどれを信仰しているのかまでは、ちょっと……わたくしでないことだけは間違いなさそうですが」


 そりゃ自分の名前を言っても反応してくれなかったもんね。

 そんなヨルの言い訳──もとい説明に、師匠はマズイ料理でも食べたときのような渋面を浮かべた。


「なんでぇ、イリアスの言う通りかよ。一瞬、本物の七神龍かと思ったが……儂の目も曇ったもんだなぁ」

「いえ、ですから──」

「わかったわかった。そういうことにしといてやるよ」


 ヨルはなおも言い訳しようとしてるっぽいけど、師匠はすっかり興味を失ったようで、まったく相手にしなくなってしまった。


「まぁ、でも、師匠。ヨルが本当に七神龍の一角を担っているのかどうかは別としても、この子が刻印詠唱の知識を持ってるのは間違いないです」

「おう、それだな。イリアス、おめぇはつまり、この魔導ランタンっつーのをどうしてぇ訳だ? 儂のとこに持ち込んだってのは、生産の相談か?」

「それもあるんだけど、あたしとしては、この魔導ランタンをみんなに使ってもらいたいのよ」

「ほう?」


 あたしは、自分の考えをひとまず師匠に説明した。

 魔導ランタンを広く世に広めたい。そのためには特権階級に独占させるわけにはいかない。そして何より、刻印詠唱の技術をどういう風に扱うのがいいのか悩んでいる。

 師匠だったら、その辺りについて、あたしよりも良い考えを出してくれるんじゃないかなぁって期待してるんだけど……果たして。


「なんでぇ、イリアス。おめぇ、小難しいこと言ってるが、要はこの魔導ランタンを世に普及するのが第一の目的ってことだろ? だったらおめぇ、商売する相手は個人じゃねぇぞ」

「え?」

「ギルドだよ、ギルド。冒険者ギルドや商業ギルドだけじゃねぇ。この都市を統制してる各種ギルドに売り込むんだよ」

「えっ!?」


 ここ第三前線都市は……いや、ダンジョンを含む、その周囲にある七つの前線都市すべてが、どこの国にも属していない中立地帯となっている。

 しかし、だからと言って何のルールもない無法地帯というわけでもない。いわゆる〝まとめ役〟というものも存在する。

 それが冒険者ギルドや商業ギルドのような、各分野のギルドだ。


 例えば、都市の治安を守るのは冒険者ギルド。

 経済を管理してるのは商業ギルド。

 病気や怪我になっら医療ギルド。


 他にも、公共の施設を建設したり管理してる建築ギルドや、馬車などの運行を管理している馭者ギルドなど、都市のインフラ下部基盤を支えるギルドなら山のようにある。

 そんな各種ギルドの長の相互監視で、この都市は比較的健全に運営されているってワケなのよ。


「個人に売っても広まるのに時間がかかる。おめぇが心配してるみたいに、アホな金持ちが独占しようとするかもしれねぇ。だったらその前に、この魔導ランタンを〝当たり前の道具〟にしちまえばいい」

「それが……各種ギルドに売り込むこと?」


 あたしの疑問に、師匠は「おうよ」と頷いた。


「素材を見ると、こいつぁミスリルの合金を使ってやがるな? てことは、材料費だけで一〇万くらいはかかる。安く見積もっても、一個五〇万以上か? そうそう手が出せる値段じゃねぇ。駆け出しの冒険者とかなら尚更よ」


 うーん……確かに駆け出し冒険者に、一個五〇万もする魔導ランタンはなかなか手を出しにくいわね。


「だが、冒険者ギルドに卸して〝備品〟ってことにしたらどうだ? 駆け出しの冒険者に貸し出したり、夜間警備のときの明かりにもなる。通常のランタンにかかってた燃料費も浮くわけだ。それで導入しねぇって突っぱねるのは、阿呆ってもんよ」

「おお、なるほど!」


 その辺りに考えが及ぶのは、さすが商業ギルドの役員をやってるだけのことはあるわね。金勘定の嗅覚が半端ない。


「他のギルドでも、魔導ランタンの有効活用はあるはずだ。それで、おめぇは売り込みをしてこい」

「わかった……って、師匠はどうするの」

「儂か? 儂はちぃとばっかし魔導ランタンの可能性を広げてみるつもりよ。なんでぇ、こいつぁもっと大きな可能性を秘めてやがるぞ!」


 なんだか師匠の目が爛々と輝いてる。まるでオモチャを見つけた猫みたいだ。

 こりゃ飽きるまでとことん遊び尽くす──もとい、研究し尽くすつもりだわ。

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