ゼリーとスライム
人の手の届かぬところ。隔絶されたその場所で二人の男女が話をしている。
「無事転移できましたね」
「当たり前だ。俺が直々に転移してやったんだからな」
「別に、そういう意味で言った訳では無いのですが」
「分かっている。ただの冗談だ」
「まあ! またそうやって私をからかって!」
「悪い悪い。で、そいつはどうなった?」
「・・・・・・小屋の外に出て、すぐにスライムに懐かれてるわ」
「そうか、ならいい」
男はそう言うと、次の瞬間には姿が消えていた。
「相変わらずせっかちね。もう少しゆっくりしていけばいいのに」
とはいえ、彼がそんなことをする性格ではないことは、長い付き合いの中で理解している。
「ふふっ。今後どうなっていくのかとても楽しみね」
彼女はそう言いながら、映像に写し出された、スライムと戯れる一人の男を見守っていた。
裏でそんな事が有ったことを知るよしもない俺は、時間も忘れて、ただスライムをぺたぺた、ぷにぷに、なでなでしていた。
「あぁ~、癒される~」
スライムからも嬉しそうな感情が伝わってくる。
「仲間になったおかげか、スライムの感情がなんとなく分かるようになったのは嬉しいな。よし、名前を付けるか」
ただ俺は、ネーミングセンスなんて持ち合わせていない。
「ドイツ語で相棒という意味を持つ、クンペルから取って、ペルなんてどうだ?」
スライムはそれを聞いて、嬉しそうに跳ねている。
「決まりだな。これからは一心同体。文字通り相棒だ」
するとペルは、跳ねるのをやめたかと思うと、少ししてから一本の触手を伸ばしてきた。
「おおっ! そんなこと出来たのか、器用だな。改めて、よろしくなペル」
俺はそう言って、ぷにぷにの触手と握手を交わした。
「さて、そろそろ真面目に動き出さないと夜になっちまうな。たしか人間は、水がないと数日で死ぬんだったな。早く探さないと」
そう思い歩き出そうとすると、ペルが行く手を阻むかのように目の前に出てきた。
ペルは俺の前に来ると、さっきの握手の時と同じように触手を伸ばしてきた。
違いがあるとすれば、触手の先端に野球ボール程の球体を持っていることくらいだ。
そして、ペルはその持っていたものを俺に押し付けてきた。
「くれるのか? ありがとう。でも、これは何だ?」
俺は、その球体をまじまじと見た。
生きている感じはしないから、ペルが分裂したとかでは無いと思う。
「鑑定してみるか」
スライムゼリー
スライムが生み出したゼリー。食べることが可能。甘くて美味しい。栄養だけでなく、水分も取れる。
「なんだ、このご都合主義展開は」
俺は、少し呆れつつも、懸念事項であった水と食料を同時に手に入れれたことに安堵していた。
「よくやったぞペル!! お前は最高だ!!」
そう言いながら、ペルを抱き締めた。
そして、ペルを抱き締めたまま、スライムゼリーを口に運んだ。
「うまっ! なんだこれ、まるでブルーハワイ味のかき氷をゼリーにしたみたいな感じだ」
スライムゼリーの味と食感に感動し、気が付いたら食べ終わっていた。
「ありがとなペル。そういえば、ペルは何を食べるんだ?」
俺が、疑問に思ったことをペルに聞いてみた。
するとペルの触手が、今度は俺の右手に巻き付いた。
「おお? なんか吸われてる感じがするぞ。何を吸ってるんだ? ステータス」
名前 シュウ LV1
職業 テイマー
HP 100/100
MP 35/50
攻撃力 10
守備力 12
素早さ 12
賢さ 10
スキル
鑑定LV1 言語理解LV- 守備力上昇LV1 素早さ上昇LV1 体術LV1
SP 0
「なるほど、MPを吸ってるのか。魔力が食事ということか。てか、気付いたら職業が、無職からテイマーになってるな。ペルが仲間になったからか。無職って響きが嫌だったから、なんか嬉しいな」
俺は、そんなことを言いながらMPが減ったことで、体に変化が無いか調べたが、特に変わったことは無いようだ。
(ラノベとかだと、MPが尽きたら気絶したりするからな。まだ、はっきりとは分からないけど、大丈夫そうだ)
「日も大分暮れたことだし、今日はもう小屋で休もうか」
俺は、そう言ってペルを持ち上げると、小屋に入っていった。
それから俺は、太陽が沈んで暗くなるまで、ゼリーを出してもらって食べたり、MPを吸わせたり、つるぷにボディを思う存分堪能したりしながら過ごした。
「さて、暗くなったことだし、もう寝ようか」
ペルと一緒にベッドに入る。
「やっぱり、ペルのつるぷにボディは最高だ。おやすみ、ペル」
ペルも、返事の代わりに一度体を震わせると、二人は静かに眠りについた。
読んでいただき、有り難うございます。
次回は世界についての説明回です。