幕間
今回は少し核心に触れます。
別人視点のため、シュウ達の出番はありません。
シュウ達がフォレストウルフと戦う少し前。
誰も干渉する事が出来ない特別な空間から、一人の男がシュウを観察していた。
「弱い。弱過ぎる。これでは魔王城に行く前に死ぬじゃないか。何のためにわざわざシステム領域に干渉してまで、あのスキルを取らせたと思っている」
スライムばかりにかまけて、積極的なレベル上げをしないシュウに対し愚痴をこぼす。
その時彼のいる空間に何者かが侵入する気配を感じた。
ここに干渉できる存在は限られているため、おおよその特定は出来ていたが、もしものために警戒は解かない。
「やっぱり、あの時の干渉は貴方でしたか」
「この空間に入って来るなんて、誰かと思えばしょんぼり女神じゃないか」
「誰がしょんぼりですかっ!」
「違うとでも? いつも一人寂しくしょんぼりしているじゃないか」
「寂しくありませんし、しょんぼりもしていません! そもそも私は、この世界の産みの親として管理するという大事な仕事がありますから」
「はいはい。で? その創造神様がこんな所に何用で」
「・・・・・・何故彼にあのスキルを?」
「本来の持ち主が持つべきだからだ。間違ってもあの雑魚が持っていいようなものでは無い」
「なら何故その雑魚を殺さないのですか? 大事な玉座を取られてますよ、始まりの魔王さん?」
「玉座なんかに興味はない。あの雑魚を生かしてるのは、奴が強くなるための駒だからだ。俺が殺しては意味が無いだろう」
「やっぱり彼と戦うのですか」
「それが約束だからな」
「ですが、彼はあの人ではありませんよ」
「・・・・・・」
魔王は理解していた。シュウはシュウであり、あの男が生まれ変わっただけの別人である事を。
しかし、理解と納得は別だ。
例え記憶がなくとも、彼の生まれ変わりなら約束を果たす義務がある。
「分かりました。貴方がそれを望むなら邪魔はしません。でも、ほどほどにして下さいね黒野君」
「その名で呼ぶなセレス」
「ふふっ、それではまた」
そう言い残してセレスは消えていった。
魔王は再びシュウの観察を始める。このままでは遠くない内に取り返しのつかないミスを犯すだろう。
彼には強くなって貰いたいが、不幸になって欲しい訳では無い。
「弱い事への危機感を持ってもらうしか無い。ステータスをいじった魔物を送り込むか。そうだなフォレストウルフが丁度いい」
魔王はそう言うと、一匹のフォレストウルフを生み出す。鑑定では見えない、特別なステータスをもつ魔物である。
「あいつらのステータスなら、勝てると踏んで戦いを挑むだろう。行ってこいフォレストウルフ」
フォレストウルフは主の命に従い、シュウ達と戦うべく森の中に駆け出した。
「これでいい。負けたところで死ぬ前には助け出せる」
翌日フォレストウルフとの激闘の末、スライムの分裂体一匹を犠牲にシュウ達は勝利した。
「あのスキルの発動を誘発するとは、スライムもなかなか役に立つ。しかし、止めるためとはいえ少し強くやりすぎたか」
あの時スキルは暴走していた。魔王が止めなければ、ペルとアリシアはシュウに殺されていただろう。
それを止めるため魔王は一瞬あの場に行き、シュウの延髄に蹴りを入れていた。
魔王が力加減を誤り、三日程昏睡する羽目になったシュウ。
シュウに少しの申し訳なさを感じていた魔王だが、シュウが眠っていた三日間の出来事でその感情は消えていた。
「なんなんだあのスライムは。エンシェントスライムなんて聞いた事ないぞ。セレスの奴が何か干渉したのか? いや、それは無い。あいつは見てるのが好きなタイプだからな。だとしたらあのスライムの潜在能力か」
ペルの成長速度と聞いた事の無い進化を果たしたことに驚きを隠せない魔王。
「今度は剣化に人化。何でもありだなあのスライムは。そもそもあいつを強くするためのフォレストウルフだったが、スライムが強くなってるだけじゃないか」
驚きを通り越して呆れ始めている魔王。スライムが強くなるのも、総合的にはプラスと考え良しとした。
肝心のシュウは、ベビー剣やペルの人化でテンションが上がりすぎて、フォレストウルフの事をすっかり忘れている。
「前途多難だな・・・・・・」
魔王の必要のない苦悩は終わらない。
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