後悔とスライム
フォレストウルフとの戦闘が始まって、まだ5分程しか経っていない。
ペル達もただの攻撃は意味が無いと分かり、何時でも攻撃出来る状態でいる。
「アリシア、勝てると思うか?」
「微妙ですね。ペルさん達の攻撃が当たれば可能性はあると思います」
「やっぱペル達に頼るしかないか」
「すいません。私も回復メインで、攻撃魔法はあまり得意では無いので」
「気にするな。そもそも、俺はなのん取り柄も無いしな」
呑気な事を言っているが、目線はフォレストウルフから外さない。外した瞬間狙われるのは目に見えている。
「アリシア」
「何ですか?」
「逃げろ」
「・・・・・・お断りします。もう一人になるのは嫌です」
「・・・・・・すまん」
「許しません。許して欲しければ、無事にここを切り抜けますよ」
「ああ、了解!」
俺は、ベビーを掴みフォレストウルフの上に投げる。同時に、短剣を構え走り出す。
ペルと残りのベビーが合わせるように触手を伸ばし、アリシアが魔法を放つ。
現状出来る最高のチームワークを発揮する。
さすがのフォレストウルフでも、全ては躱しきれない。ペル達の触手は全て躱すも、左耳にアリシアの氷の礫が当たり、俺の攻撃も腹の肉を少し裂く。
初めてのダメージ。このまま押し切れば勝てるかもしれない。
しかし、そんな甘くは無かった。
躱しきれないと理解したフォレストウルフは、ペル達の攻撃だけは躱し、ダメージ覚悟で攻撃を選んだ。
近接攻撃のため近くにいた俺に、フォレストウルフの爪が迫る。
どこで選択を間違えたのだろう。
運が悪かっただけかもしれない。明日の出発ならこんな事にはならなかったかもしれない。街に向かおうなんてしなければ良かったのかもしれない。
これが走馬灯なのだろうか。昔の思い出では無く、現状の後悔しか湧かないけど。
アリシアが悲痛な声を上げているのが聞こえる。
ごめんアリシア。結局君を一人にしてしまう。
ペルからは激しい焦りを感じる。
ごめんペル。お前は強い。フォレストウルフを倒して、アリシアを守ってくれ。
目の前に死が迫る。攻撃の直後で体が動かない。フォレストウルフの爪が俺の喉を掻き切る、その寸前、目の前が水色に染まる。
俺の投げたベビーが間に入ってきたのだ。
触手で俺を押し、フォレストウルフの攻撃が当たらないようにしてくれる。そして、俺の目の前で切り裂かれた。
地に落ちたベビーは、やがて灰になり小さな魔石を残して消えていった。
「ア、アア、アアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
感情が爆発し制御出来なくなる。徐々に目の前が赤く染まっていく。やがて、視界の全てが赤に染った。
「ここは?」
気が付くと、見覚えのある天井があった。
「小屋・・・・・・だよな」
「そうですよ」
「アリシア」
「おはようございます」
「! あれからどうなった!? フォレストウルフはっ!?」
「落ち着いて下さい。フォレストウルフは倒しました。ペルさん達も無事です」
「そう、なのか。そういえば、ペル達はどこに行った?」
「・・・・・・分かりません。毎日ゼリーだけ置いて、ずっと森の中にいます」
「なんで?」
「強くなりたいんだと思います。今度はシュウさんを守れるように」
「そうか・・・・・・ペル」
ペル達にも心配を掛けてしまったようだ。戻ってきたら謝らないと。
とりあえずベッドから出ようとしたが、体が動かない。
「安静にしてて下さい。三日間も目を覚まさなかったんですから」
「三日!?」
「そうですよ。このまま起きないんじゃ無いかって本当に心配したんですからね」
「ごめんなさい」
「貸し一つです」
「え?」
「貸し一つ」
「いや、あの」
「貸し一つ」
「はい。分かりました」
アリシアにも心配を掛けたんだ。貸し一つ位どうって事はない。
魔物の領域の中心。森の中とは思えない程立派な城が建っている。
その城の玉座に座る一人の男、その前で膝を着く二人の男女。
「場所は分かったのか?」
「申し訳ありません。あれ以降気配が無くなり、未だ発見出来ておりません」
「速く見つけ出せ」
「「はっ!!」」
玉座の男に言われ、男女は返事をすると一瞬で姿を消す。
「やっと現れたか、速く出てこい始まりの魔王よ!!」
歓喜に満ちた声で叫ぶ。その声は周囲の森にまで響いた。
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