苦戦とスライム
森の外に向かい歩き出して、30分程経過していた。
魔物との遭遇はないが、森から出る気配もない。
「魔物出ませんね」
「毎回こっち来る時は、ほとんど見ないね」
「なるほど、だからこっちが外だと判断したんですね」
「そゆこと」
「今まで、外に出ようとしなかったんですか?」
「何の知識も無かったからね。下手に街に行って捕まったら大変だし」
「捕まったりはしないと思いますけど、詐欺とかには会いそうですね」
「だよね。だから、最低でも身を守れる位には強くなろうと思って。気が付いたらペル達の方が断然強くなっちゃったんだけど・・・・・・」
「あはは、まあ、ペルさん達の力もシュウさんの力の内ですよ。ホブゴブリン瞬殺する力があれば大丈夫です」
そんな話をしていると、オオカミのような遠吠えが聞こえた。
「今のはフォレストウルフ!? こんな街に近い場所で!?」
アリシアが、何やらそうとう驚いている。
「そんな珍しい事なの?」
「そうですね。知り合いの話でも聞いたことがありません」
「おう、まじか。強いの?」
「ここに居るってことは、弱い可能性もあります。しかし、伝え聞く話ではホブゴブリンよりも遥かに強いです」
「伝え聞くって、会ったことないのに断定出来るのか?」
「そもそもウルフ系はフォレストウルフしか聞いたことがありません。上位種もいるとされていますが、誰も遭遇した人はいません。」
「なるほど。ウルフって事は群れなのか?」
「群れという程の規模はありません。基本的に、番と子供。多くて四匹くらいです」
「了解。ペル、数と位置は分かるか?」
ペルは左前方に一匹だけと伝えてくる。
「左前方に一匹だって」
「一匹? 番を見つける前なのかも知れません。これは運が良いですね」
「逃げることは出来そうか?」
「恐らく難しいかと。フォレストウルフの遠吠えは獲物を見つけた合図だと言われていますから。もう、戦闘は避けられないでしょう」
その時、ペルがフォレストウルフの接近を伝える。すぐさま短剣二本を構える。(アリシアに使用許可は得ている)
「来るぞっ!」
「はいっ!」
現れたのは緑色の体毛をしたオオカミだった。
フォレストウルフ LV8
HP 400/400
MP 250/250
攻撃力 50
守備力 40
素早さ 60
賢さ 50
強い。しかし、数値に大差がある訳では無い。こちらは五人、勝てない戦いでは無いだろう。
それを分かってか、敵もこちらを様子見している。
先に動いたのは、ペル達だった。
ベビー二人が触手を伸ばす。フォレストウルフは、ホブゴブリンを瞬殺出来るあの触手を難なく躱す。
躱されることを読んでいたペルが避けた方に触手を伸ばす。しかし、それでも当たらない。
フォレストウルフは、その機動力を持って縦横無尽に触手攻撃を躱していた。さらに、ペル達の攻撃を躱しながらもこちらへの攻撃の隙を伺っている。
「アイスバレット!」
アリシアが氷の礫を放つ。最高のタイミングと場所への攻撃。ペル達の攻撃を躱し、着地する瞬間を捉える。
しかし、フォレストウルフの方が一枚上手だった。確実に当たると思われた氷の礫を、噛み砕いたのだ。
「そんなっ」
「マジかよ!」
衝撃的な光景を見て一瞬硬直する二人。
そんな隙を見逃してくれる程、フォレストウルフは優しくはない。ペル達の攻撃を抜け、俺に向かって突っ込んできた。
咄嗟に横に飛ぶも、躱しきれなかった。
噛み付かれることこそ免れたものの、右足の太腿を爪でかなり抉られた。
「ぅぐ、く、そっ」
「ヒールっ!」
痛みで呻く俺に、すぐさま回復魔法を掛けてくれるアリシア。傷が塞がりはしないが、血は止まった。
「すまん、アリシア」
「いえ、無理はしないで下さい」
回復魔法のおかげで、痛みも大分引いた。我慢すれば動ける範囲だ。
しかしまずい状況になった。ダメージを受けたのはこちらだけ。敵は無傷のまま。このまま戦えば、負けるのはこちらだろう。
「初めてのゴブリン以外の敵がこいつとか、どんな不幸だよ」
そんな愚痴を零す。勝算の見えぬまま第二ラウンドが始まった。
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