黒岩と栄光の昔話
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「海人はこの地図が本当に好きなんだな。まぁ座れ。今日はゆっくり話がしたくて呼んだんだ。」
「そうだったね、話しってなに?」
地図に見惚れていた海人は慌てて黒岩の前のソファーに腰掛ける。
「あぁ。そろそろお前も進路を決めなきゃいけない頃だろう。大学には行くんだろ?」
手慣れた様子でコーヒーを準備しながら海人に質問する。
「はい。おじさんには高校までもずっとお世話になってて申し訳ないけど大学にも行きたいと思ってる。お金は奨学金とかでなんとかするよ。」
「金のことなど気にするな。俺もお前の両親に食わせてもらってるようなもんだからな。……今日はその、この会社について教えておきたいことがあって呼んだんだ。その上でどんな大学に行きたいのか考えればいい。」
コーヒーを淹れ終わった黒岩は海人と自分の前に置き、ゆっくりと話し出した。
(この会社のこと?)
海人はコーヒーを一口啜り、自分にとって身近でこそあるもののそれほど関わりのない会社についての話と言われ眉をひそめる。
「俺とお前両親、つまり東山仁と坂本薫とは大学で出会ったんだ。まぁ出会いとかそこら辺は前から度々話ししてるからおぼえてるだろう?」
「うん。同じ学部で学んで一緒にバイトもして旅行に行ってたんだよね。親父の古い日記にもおじさんと母さんの名前も載ってた。」
海人の家には父親の日記は雑記帳が多く残されおり、そこには知らない国名や都市、それに青春を謳歌していた3人の冒険譚、それはまるで知らない土地を旅して回ったコロンブスにでもなったかのような快活さで記されていた。
「うん。色んな国に行ったなぁ。そのせいで単位もいくつか落としたが……。それはいいとして、ある時、中国に旅行に行った時に向こうの商売人に騙されてな。お前の父さんがよくわからん陶器を大量に買わされたことがあったんだ。」
「父さんが!?」
「あぁ。普段はお前に似て落ち着いてるんだ、たまに直感を信じて大事をやるやつだったんだ。で、陶器がいざ日本に届いた時はみんな焦ったよ。100万くらいしたんだが売れものにもなりそうにないガラクタばっかりだったんだ。」
海人はあまりの驚きに唖然としている。
親がまさか大学生の分際で100万円もの大金をつぎ込んでガラクタを買っていたなんて。と。
「でもな、そこでお前の母さん登場さ。当時、ファッション雑誌のモデルのアルバイトをしててな、その雑誌に頼み込んで中国雑貨や陶器特集をしてもらってな。写真に俺たちがガラクタだと思ってた陶器を載せて。……そしたらさ、その雑誌を見た有名人がこれはいいインテリアだ!オシャレだって、ネットか何かで紹介してな、俺たちに問い合わせが殺到したのさ。」
「そ、そんな馬鹿な話が……」
海人は信じられないといった風であるが、黒岩はいよいよ話に熱が帯だし、コーヒーも飲まずに頷いている。
「あぁ。ほんとさ。100万で買ったガラクタが、300万になったのさ!それから俺たちは海外に行ってはどんな物が日本で売れるのか、これから流行りそうなのかを調べてやってみたりしたんだ。それで、大学卒業と同時に会社を作った。それがこの会社さ!初代社長はお前の親父、東山仁、俺とお前の母さんの薫が役員だったんだ。そう、全員が役員だったんだ。今思えばアホなけどな。」
黒岩は懐かしむように窓の外に目をやり、大声で笑っている。
「うちの親が、この会社を……」
「あぁ、今から20年前さ。そのから10年の間に2人は結婚しお前が生まれた。そして、10年前2人とも亡くなった。明日が10回忌、その節目の前に伝えておきたかったんだ。そして海人、お前がこの会社を継ぐんだ。まだ幼かったお前には伝えていなかったが、すでに大量の株を相続している。大株主なんだ。」
「えっ?お、おれが?」
あまりのことに海人は声が出ない。
「まぁゆっくり考えればいい。いいか、俺たちは世界を股にかける商人だ。商人は自由だ、律儀だ、紳士だ、弱いものを助けるものなんだ。それがこの会社の社是でこれはお前の親父が作った社是だ。お前が引き継げ。」