イワネの店 2
「なんなのよ、あの女!!やっぱり綿を売るのやめましょうよ!」
「まぁまぁ。実績も信用のない俺たちでも取引してくれるんだからありがたいことじゃないか。」
「そうそう!それに可愛いし、あの罵声も悪くない!」
カイトたちはヤマに案内され、来客用の机と椅子のある部屋へと通されていた。
「ところで、あの女はどこに行ったんです?」
サーヤが不機嫌そうにヤマに聞く。
「いまは、あなた方の船に絹を運びに向かいました。もう少々お待ちください。」
ヤマは丁寧に頭を下げ、3人にお茶を振る舞っている。
「ヤマさん、このお店はイワネさんと先ほどの男の人たちと一緒にやられているんですか?」
カイトがつぶやく。
「いえ、彼らは荷物を運ぶために雇った日雇いです。この店はイワネ様と私の2人だけでございます。……元々はイワネ様のお父様とお母様がやっておられましたが……。」
「そうですか。」
ヤマの返事にカイトは少し戸惑いながら質問を続けようとすると、
「ヤマー!帰ったわよ。」
と、元気なイワネの声が響く。
「全て運び終わったわ。ヤマも見ればすぐわかると思うけれど、すごく上質な絹よ。……カイトさん、本当に売るのは私のお店でいいのかしら?」
イワネは部屋に入ってくるなり3人を見つめ、まっすぐと質問をした。
商人にしては、あまりにまっすぐ過ぎるように感じる目である。
「イワネ様、それでは売買が成立したということでお祝いを兼ねて晩御飯に皆様をご招待しては?」
「それは嬉しいです。まだ町のことも分かりませんし、今後ともお付き合い頂きたいともいますから、ご一緒させて下さい。」
ヤマの提案にカイトが落ち着いた様子で返事をする。
イワネはカイトの「今後とも」という言葉に満足したのか、深く頷き、食事の場所と時間を指定した。
また、泊まるところがないという3人の為にこの若い商人は店の一室を借し与えることにした。
「ねぇカイト。本当にあの女に絹を売るの?ほかにも高く買ってくれる人がいるかもしれないわ」
サーヤが自分の短い髪を耳にかけながら話す。
「いいんだ。あの人は俺たちの絹を見て、良い品だといってくれた。普通なら実績のない俺たちの足元をみて、もっと安値をつけてもおかしくない。ああいう人は信用できる気がする。」
「僕も、なんとなく信用できる気がするよ。部屋まで貸してくれて、良い人そうじゃん!」
「2人とも気楽なものね。」
こうして、国外へと旅立ったカイトたちは、小さな商店の二階で晩御飯までの数時間を過ごした。