突破口を見つけろ。
さて、いきなり僕の最大の攻撃が効かない相手と対峙してしまった。その名も大さそり。今考えた名前だ。
その体躯は、よく見れば僕よりも少し大きいという程度。はっきり言ってトロールよりは遙かに小さい。が、奴の厄介な点を挙げるならばその黒光りした堅い甲殻と、尻に携える鋭利な刃だ。そう、針ではなく、奴は刃を持っているのだ。しかも先ほどの機敏な走りを見せるあたり、鈍いと言うことはないだろう。ここで問題なのが、奴のその刃には毒があるか否か、である。もしもあるならば一回も攻撃にあたってはいけない。一かすりでさえ致命傷になりかねないのだから。
その前提条件のもと、僕が勝つにはまず奴にダメージを与えないといけないんだけれど、さてどうした物か。だいたいの定石は間接を重点的に攻撃したいのだけれど、いかんせん攻撃面積が小さすぎる。
が、そこしか攻撃を通さないのも事実で...。
まぁ、影釣りや影針、それに僕の剣劇(笑)でどうにか戦うしかないだろう。はっきりいっていろいろ考えるのは苦手だ。もう思うがまま戦えばいいのだ。
早く倒して次のステップに進みたいし。
「うし、そうと決まれば...不意打ちを狙うか。」
僕は先ほどの大さそりの背後にじりじりと迫る。
ここで問題なのが、ここが砂漠であり何一つとして遮蔽物がないと言うことだ。それ故、近づく距離も結構遠くなってしまう
ここぐらいまでか。
奴との差はおよそ十メートル。
「影針。」
奴の影から闇の針が這い出てきた。奴にはこの攻撃は通らなかった。ならばこの技を、相手のダメージに焦点を当てるのではなく相手の動きを止めることに焦点をあてた。
僕は器用に影針を大さそりの足という足の間に無数の針を絡ませ、さらに二本の針を駆使し奴の尾を差し押さえる。
僕は全力で砂を蹴り大さそりへ向かう。十分に近づき飛翔する。飛翔なんて形容詞は大げさすぎるが、僕は奴の背中に飛び乗った。
次いで、剣を振り上げ、一刺し。大さそりは痛みのせいか、びくんと震える。が、手なんか止めない。僕は休まずに大さそりの甲殻と甲殻の隙間を刺し続ける。
しかしただただ刺される大サソリではない。自身を大きく回すことで、影針の絡みつきを破壊し、同時に遠心力によって、僕は吹き飛ばされた。
「うわっぷッ!」
顔面が砂にダイブし、口内は砂の感触と、水分を吸われる感覚でいっぱいになる。
「ぎぎゃぎぎっぎぎぎぎ!!」
が、そんなことに気をそらす訳にはいかないらしい。大さそりは大いに威嚇状態となっていた。
かと思えば奴は素早い動きでこちらに近づいてきた。僕よりも二倍くらい速いその速度に、僕は身を固めるも、奴はいきなり飛んだのだ。それも僕の三倍くらい。そしてそいつは僕を飛び越えて、見事に背後をとった。
「ちょッ・・・!」
刹那、奴は僕に向けてその尻に携える凶器を一つきしてきた。それを瞬時によけるも、また一刺し、二刺し、三刺しと追撃の手をやめない。なんとかよけきるも、そのすべてがギリギリだ。
「クッ...! 影釣り!」
この技を駆使し、奴を少し後ろに引っ張り、そのやまぬ攻撃を強制的にやめさせる。
「影針!!」
んでもって、僕は奴の尻尾を影の針で拘束することに注力した。
前に足を踏み出す。そして全身全霊を持って、奴の首筋に剣を突き刺す。
そして想像した。影の針が婉曲することを。
「影針」
またもや飛び出す無数の針。それは想像通り婉曲し、一点―――首筋に集まり、その首を串刺した。
さそりはそれっきり動かなくなり、その姿は塵となって消えた。
「ふーーー」
なんとか一息。
結構危なかったけれど、倒すことができた。てか影針があんな風に操ることができることに、未だに驚きを隠せない。
と、頭に期待通りのあれが響く。
『レベルアップ』『レベルアップ』『レベルアップ』『レベルが13になりました。《闇スキル、闇霧》取得。』
ここで新技をゲットし、有頂天になってしまいそうになる。この前新スキルを手に入れたのに、さらに手に入れてしまった。
よし、少しステータスを確認しよう。
「ステータス」
《二色 色》レベル10 職業、闇三段(中二病)。
体力35
魔力50
攻撃力16
防御力30
知力65《注、知能ではない。魔法効率の高低である》
速さ56
精神力14+2
《影釣り》影を使い対象を引っ張ることができる。
《影針》影を使い対象を幾重もの長針で串刺すことができる。
《闇霧》小規模の闇の霧を作り出し、対象へとその霧を当てることによってその霧内にある物を限界まで圧縮することができる。
《死への干渉》効果、精神力が2上がる。
《不屈の魂》効果、精神異常を低い確率で回避。
《主の狩人》効果、よわい魔物が寄らなくなる。
うおい。いろいろ突っ込みどころがあるぞ。着実にステータスが上がるのはいいが、なんだ闇二段て。影はどこにいった。あと中二病は悪意があるぞ。それと今気づいたけど攻撃力1しか増えてないし。
ま、まぁいい。これからだ。これから。伸びしろはあるはず。多分。自信はないが。
そんな風に思考している最中だった。なぜか辺りが暗くなったのだ。振り返ってみると、なぜ暗くなったのか理解した。僕を見下すようにして、ティラノサウルスみたいな巨大恐竜的なやつが僕の背後にいたからである。
「はぁ?」
いきなりの出来事で一瞬思考が止まる。
そして一瞬で理解した。
今僕は危機的状況にいることを。