まるで苦労を知らないレベルアップ
イカの中は存外動いていないのか、極めて穏やかである。とにかく歩いてみることにした。最悪死んだとしても生き返る、と言う安易な考えは否めない。だがこうなったのなら仕方がない。行くしかないのだ。
数分間歩いただろうか。依然として、風景が変わらない。変わらなすぎてループしてるんじゃないか説が僕の中で浮上中である。そろそろ恐怖になってきたのもつかの間。なんかどくどくと脈打つ多数の管に繋がれたものを見つけた。これは、心臓というやつではないでしょうか。そう思った僕はそれをチョンチョンと突く。が、なんの反応も見せないので思いっきり蹴った。刹那、内部が振動する。結構な振動だ。続けざま蹴ってみた。すると次は唸りのようなものが聞こえた。三度それを蹴ったら次は穴が開いてしまって、赤い鮮血がドバドバ出だした。まじか。結構グロくて、一歩引いてしまう。
そして、次の瞬間だった。
『レベルアップ。』『レベルアップ』『レベルアップ』『レベルアップ』『レベルが5になりました《影スキル、影釣り》取得』『レベルアップ』『レベルアップ』...........
と、脳内にそんな言葉たちが連ねられ、次の瞬間、この空間が一気に消えた。
本当に一瞬の出来事だ。水の中の世界縁取られ、太陽の陽が少し表面をさざめいている。が、すぐにそれは重力に従い、落ちて来る。
「ちょ、これ死ぬ!!」
多量の、莫大な水がけたたましい音を爆ぜさせながら僕の意識を混濁の中へと引きずり込んでいった。
『ゲーム、オーバー。あなたの装備は全てドロップしてしまいました! 』
結局死ぬんかい。
上体を上げれば、いつもの扉の前なのだった。
その日はもう、そのまま家に帰った。んで、ご飯食って、宿題を少しして、寝るのだった。影釣りってなんだろうと思ったのはその次の朝のことである。
ということで、洞窟近くの森である。
「ステータス」
《二色 色》レベル9 職業、影初段。
体力23
魔力40
攻撃力15
防御力20
知力50《注、知能ではない。魔法効率の高低である》
速さ50
精神力13+2
《影釣り》影を使い対象を引っ張ることができる。
《死への干渉》効果、精神力が2上がる。
《不屈の魂》効果、精神異常を低い確率で回避。
《主の狩人》効果、よわい魔物が寄らなくなる。
ほう、結構レベルは上がっているが能力値は大して変わっていない。攻撃力なんて8上がっただけだ。レベル1上がることに対して約攻撃力増加1て、非力か。
が、特筆すべきところはそこではない。なんだ、影初段って。どういうことやねん。無職よりかはマシだが流石に影初段はなんかやだ。字面がやだ。ただでさえ影が薄いのに、影初段て。陰キャにさらに磨きがかかりそうだ。
まぁいい。まずは影釣りを試してみよう。
そう思い、色々と目移しをしてみるものの、対して対象になるものを見つけれない。まず使い方が分からん。
だから五里霧中。僕はそれを叫んでみた。
「影釣りぃぃ!!!」
さざめく風が頬を撫でる。諦めるものか。
「影釣りぃぃ!!!」
「影釣りぃぃ!!!」
空を仰ぐ。青い空の中に一つの入道雲が出ていた。なんだか悲しくなった僕はその日ダンジョンに入らずに家に帰ってしまった。