男装女子はかかせない。
スイカの残骸で、緑やら赤やらに染め上げられた道路の上。
僕は眼前の二人によって、思考停止を余儀なくされていた。
「ちょーっとついてきてくれるかな?」
春原さんの静かなる威圧をその言葉は持っていた。
「ごめんなさい。ちょっと用事がありますので」
逃げたい。すぐに逃げたい。が、許してくれるはずもなく。
「残念。あんたに拒否権ないから」
そういうと、春原さんは僕の襟首をつかんで、そのまま引っ張る。
ってか、これめっちゃ苦しい。
しっ、シヌゥ。僕は死に物狂いでパンパンと掴んでいる手を叩くがビクともしない。
「く、苦しそうだよ?」
心配そうにクド。
「大丈夫よ」
なにが大丈夫なのか。
この女はまるでわかっていない。
そして、連れてこられたのは先ほどの廃墟ビルだった。
「さてと、あんたはここでさっきなにをみた?」
「ナニモミテマセン」
「ん、よろしい。んで、今あんたは携帯とかカメラ関係持ってる」
「モッテマセン」
「ん、信じられないから脱げ」
「ファ?」
「ふぁ? てなによ。まぁいいわ。はやく。時間ないんだから」
脱げってお前、そりゃないだろ。
「て、てかなんでこうまでされないといけないんだよ。みられたのはお前の不注意じゃん」
これは少し強めに出ないと、なにされるかわからない。いや、強めに出て逆になにされるか怖くなってきた。
「へぇ、不法侵入してよく言うわね」
にこりと、とても清らかな笑みである。
「い、いや、それだったらお前らだって不法侵入だろ」
「ん? 残念だけど、ここは私の土地よ。まぁ詳細に言えばお父さんの土地だけど」
オウズ。僕の根本的敗北がここに決まった。
「すみませんでした」
とてもよい土下座だと自分でも思うほどの姿勢である。
「立場がわかればいいのよ。ほら脱ぎなさい」
あくまで強情な春原さんである。
「ちょっと、やりすぎだよ...」
東雲が、横槍を入れてくれる。もっと言え。
「はぁ、まぁいいわ。あんた名前なんていうの?」
「に、二色」
「ん? 二色? あぁ、あなたがあの」
すんごいにやける春原さん。
「まぁ、あたしも鬼ではないしね。んー、そうだ。面白いこと教えてあげる」
そういうと春原さんは俊敏な動きで東雲の背後へ回りこみ、なにを思ったのか、手の炎で上の服を切り裂いた。
「ちょっ...!?」
反応できなかった東雲は抵抗もできずにその上半身を露わにされた。
それは見間違いではなければ明らかに女性の体系であった。しかもブラしてない。抑え気味の手のひらカップがぷるんと震えるのを僕は見逃さなかった。
そのコンマ一秒。
春原さんは吹き飛んだ。東雲に殴られて。それはもう十五メートルぐらい一気に。
「コロス」
目が座っていた。怖い。東雲は今両手を胸に当て、大事な部分を隠している。
「ミタ?」
問いかけらるその声に、僕は声もなく力強く顔を横にブンブン振る。殺される。
「チョットマッテテネ。コロシテクルカラ」
「ちょぉおおおーーっと、タイム!タイム!タイム!タイムゥゥうう!」
十五メートル先で春原さんは喚く。が、それに近づく東雲。
「ユイゴンは?」
底冷えした声だ。
「ちょいまちぃ! ほら、あれだよ!! ちょっと二色くんを脅し過ぎたりしたからさ! ちょっと和むようにってね?」
「スコシヤリスギ」
「ほ、ほらぁ! あとあれだよ! どうせ二色くんの記憶は消すしさ! あ、あと、ほら、記憶消したあと、二色くんとあんたが友達になれるように、手伝ってあげるから!!」
しばしの沈黙。逡巡中なのだろうか。いくばくか過ぎ、答えを東雲は出す。
「わ、わかった。それなら許す」
許すのか? そんなにいい条件だったか? 全くようわからん。
てゆーかまて。記憶消すってなんだ。それが一番怖いんだけれど。
と、一悶着を終えた二人はその仲間割れの火種を鎮火し終えたのか、同時に僕の方に歩み寄る。
「な、なにをするんだ」
僕は後ずさりながらも、その二人が近づいてくる恐怖に苛まれる。
「ごめんね。二色くん」
それを言うだけいって、東雲は手にもっていたなにかを僕の下に投げた。
「な、なんだ!?」
するとその投げた物体から白煙が僕に迫る。な、なんだよぉ、これぇ。
それが僕の周りにまとわりつくとともに、僕はいきなりの睡魔に襲われた。
混濁となる意識。暗闇に入る中で、『《不屈の魂》発動。精神異常を回避します』という言葉を聞いた。