あの遺跡へ行ってみよう。
さて、時は殺された日から一日が過ぎていた。僕はダンジョンの地図を広げる。
昨日の成果として、レベルが二つほど上がり、この世界の果てを発見したことが挙げられるが、そのほかにも一つの発見があった。
あの、森の中にあった遺跡だ。洞窟近くには城跡みたいなのがあるが、はっきり言って、ほとんど崩壊しきった小規模な塔が三つぐらいしかない。そこはトロールの巣となっていて、それ以外はさしたるものはない。
しかし、先日見つけた遺跡は違う。とにかくそれは大規模で、蔦や蔓が所々伸びてはいるものの、その形は本来のものを保ったままだ。
僕は遺跡のところをさすった。
そうすると光が満ち出す。よかった、制限回数ではなくて、やはり魔力切れが先日の転移が使えない要因だったようだ。
安心しながらも、僕の景色は遺跡を主役とした。
「やっぱりでけぇ」
その壮大さには感嘆の声が漏れた。この前は見つけた瞬間に殺され、よくは観察できなかったけれど、今は違う。それをマジマジと見た。よく見れば形は台形になっているようだ。ただこちら側は後ろ向きなのか、結構急な勾配となっており、左右は後ろとは違い、緩やかに斜面となったいた。
ただ、どちらも急な斜面であることは間違いなく、また上に登るための階段はなかった。
前方はどうなっているのだろうか。率直な好奇心に従い、僕は遺跡を見ながらも前方を目指して歩いた。
造りはなんらかの石類なのだろうか。それとも砂を固めたものだらうか。何か珍しい肌触りだ。
と、触ったり見たりしながらも前方がすぐ近くとなった。
そして、ようやっと到着した。
そこには二つほど特筆すべきものが存在していた。一つは、予想通りの頂上へ行く階段があったことだ。これはそんなに驚きもなかった。
けれど、二つ目は少し違った。人がいたのだ。それも変な仮面を被っていて、顔が見えないけれど腰は曲がっており、杖をしているから老人だということはわかる。
モンスター?
とりあえず、警戒しながらも僕はそれに近づいた。じりじりと近づくが、老人にそれと言った反応はこない。
十メートル。八メートルと、近づいていき、五メートルあたりまで来ると、老人が口を開いた。
「少年。この階段を登りたいか?」
首だけをこちらに向け、唐突に聞いてくるので少し狼狽するも、僕は静かに首肯した。
「ほう。ならば少年。試練の時だ。これを待て」
そういうと、じいさんが手を前に出し、どこからともなく木刀を取り出した。
それを僕になげる。
それは存外な重さで、鉄じゃないかと疑うほどだった。
そして、じいさんはもう一本の木刀を取り出し、喋り出す。
「さぁ、その木刀で、わしに一太刀浴びてみせよ。そうすれば登らせてやろうじゃないか」
快活な口調で、どこか嬉しそうな様子で、そう言ってくる。
このダンジョンに、喋れるものがいるのが意外だったが、まさかこんなことを要求するとは思わなんだ。
けれど、相手は腰も曲がっているほどの老人だ。何というか、剣を振りづらいというか。
いや、頂上は気になるから登ってみたいけど。
「本当に、いいんですか?」
剣を構え、僕は聞く。老人はくつくつと笑った。
「はよ、こい」
「いや...その、あなたって人ですか?」
ここは不思議ばかりのダンジョン。相手は人とは限らない。いや、人でなくても人でも、喋れる人は初めてで、聞きたいことは山ほどあり、剣を振るよりもまず、対話を試みようとした。
「それも、一太刀を浴びさせれば、答えてやろう。」
どうやら、その条件一辺倒のようだ。なら、仕方ない。そうするしかないのだろう。
力はセーブして、僕は老人に一太刀浴びさせようと、僕はその足を前に踏み込んだ–––––––––
–––––––結果として、瞬殺だった。
僕が。
いつのまにか仰向けになっていて、空が広がる。
「え? なんで?」
老人はくつくつと笑っていた。