なんか東雲がかわいい気がする。
それは悪魔みたいな笑みを携えた春原さんの一言で始まった。
「そこの二色君も連れて行っていいかな?」
僕ですかい? 的な感じで僕は自分に指さす。そうすると春原さんはかぶりを大きく縦に振った。
「いや、僕は・・・。」
宿題があるから無理だと言おうとしたら、春原さんの笑みが邪悪になる。これは断らない方が吉とみて、もう何も言わなかった。代わりに、僕は矢田部たちに問うた。
「てか谷田部たちはいいの? 僕がついて行って。」
振り返り聞くが、矢田部たちはなぜだかぽかんとしていた。
あれ何だこの誰だこいつ、みたいな反応は。
「えっと・・・、二色って・・・、ああ! 同じクラスの二色ね。名字珍しいからおぼえてたわ。」
おい。矢田部。そこは名字珍しくなくても覚えてくれよ。だが、そんな矢田部の一言で高坂以外の二人はああ、と思い出したようだ。この現状に、春原さんはクスリと笑っていた。
なんかもう、いろいろ泣きたい。
結局、僕が同伴でもokと言うことで、肩身が狭い中で近くのデパートに来ていた。
今回、何が目的だったというのかと、こんどあの四人で海に行くらしいのだがそのときの水着を見繕いたいらしい。主に女子が。よって、デパートには来たものの男と偽っている東雲さん以外の女子は水着を見に行き、男は男どもでクラブのサッカーの用具を見たいといい、スポーツ関連の店に行ってしまった。
残されたのは、僕と春原さんだけになってしまった。
二人で話し合い、僕たちは近くにあったフードコーナーの一席に座ることにした。さて、ここからは地獄である。残された僕たちは一体何の会話をしなくてはいけないのだろう。
というか、一つ特筆しなくてはならないことがある。
なぜだか分からないが東雲がいつもよりかわいい。表現をもっと端的にするならば前よりも女の子らしい、だろうか。前はもっと男っぽかったはずなのだが。
これは東雲が魔術を駆使して、周りに男だと認識させていたのだが、少し弱い物らしく東雲さんが女であることを認知していたら破られる魔術と僕が知るのはまだあとの話である。
まぁ、そんな感じで可愛い子と二人きりと言うのはドギマギするもので、どう切り出せばいいんだろうか。
「あのさ...この前はありがとう」
どうしようかと懊悩していたが、東雲さんから切り出してくれた。
ん? でもこの前? この前ってなんだ? 拉致られた時のことではないだろう。ありがとうって言う状況でもなかったし、それに恐らくあの時の二人は僕の記憶を消したと思っているはずだ。それを引き合いにするのは違う。
じゃあ、何の話だ?
「...この前?」
聞き返すと、東雲さんはクスクスと笑った。
「この前、年上の人たちから助けてくれた時の話。あの時、大きな声で助けてくれたこと」
「あ、ああ。あの時のことね。助けたってか、お巡りさん、って叫んだだけだけど。はっきり言って逃げてくれなかったら危なかった...」
「いいや、それでも嬉しくってさ。」
なんか、あれだな。人に感謝されることなんて全くなかったから、こういざ感謝を形にされると気恥ずかしいものがある。
それにまっすぐ僕を見て言うものだから、余計に気恥ずかしい。
てか真っ正面で見るけどやっぱり東雲さん可愛いんだよな。前まで、イケメンで男って感じだったけど、今は本当に、
「....可愛いんだよなぁ....。」
「え?」
あれ。僕今なんて言った? すごく取り返しのつかない事を言ってしまった気がする。いやというか言ってしまった。
気恥ずかしさに、何か言わないといけないって思ったけど、これはちがうだろ僕。自分で言ってしまったがとても気持ち悪いぞ、おい。
ヤバイ、何か誤魔化さないと。
マジで冷や汗が止まんない。顔が青ざめるのが自分でも分かるほどだ。
そんな時だった。
近くのフロアからガス爆発でもしたのかってぐらい、なにかの炸裂音がしたのは。