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ダンジョンでは運良く、現実では運悪く

いや最近寒すぎ


 絶体絶命。

 まさにその表現が当てはまる状況だ。

 その体は巨躯であり、足の大きさなんて、僕とそんなに変わらない。ヨダレを垂らし、生温い息を僕に当てる。

 これは...


「GYRRRRRRRRR!!!!!!」


「逃げるしかないよな!!!」


 突然の咆哮に、身をすくめそうになるも僕の生存本能が逃げの一手を取った。

 森に向かってかけるも、後ろのやつはそうそう僕を逃してはくれないらしい。凶悪な足音を響かせながら、僕の背中を追う。


「ふっざけんなッ!!!」


 なんとか森に入るも、やつは木を物ともせず破壊させながら轟音を響かせ、僕にまだ迫る。

 結構な距離を走ったが、相手のスピードが衰えることはない。

 自分の体力はそろそろ限界がきており、このままではジリ貧だ。

 どうにか、どうにかしなくては。

 

 僕は後ろを振り向き、思いっきり叫ぶ。


「影針!!」


 狙うはあいつの足。

 足の影から針がつんざく。

 そうするとやつは一気に転がる。まっすぐに来るので僕はそれをなんとか飛びよけ、体勢を立て直した。

 やっこさんは未だに、転げたままだった。


 そして、ここで迷ってしまう。このまま撤退するのか、はたまた追撃するのか。


 一瞬の逡巡。


 その逡巡が撤退という選択肢を選ばせてはくれなかった。

 やっこさんは体勢を立て直すのかと思いきや、後ろの巨木を思いっきり蹴って、飛翔したのだ。それはもうアクロバティックに。

 着地するのは僕の背後。恐竜みたいなやつが足を一歩踏み出す。その勢いときたら、迫真を極め、僕に死を覚悟させた。

 やたらと、景色の流れが遅く感じる。

 

 これが走馬灯と呼ぶものなのか。


 やつのかっぴらいた巨大な口が僕に迫る。


「闇霧」


 それはもう本当に無意識というか、もうそれをするしかないというか。

 僕は呟いた。その呟きさえも永遠に感じるほどだ。


 そして、目の前からわらわらと黒いモヤが一面に広がった。それはやつの顔を覆い、プチュリと呆気のない音が響く。

 

 その景色を境にして、時間の流れは平生を取り戻した。

 胴体だけの恐竜は、呆気となる僕を股ごして、体勢を崩し再度その巨躯を地面へとつける。

 やがてそれは吹き荒れるチリとなって消え去った。

 目の前の状況にまだ頭がついてこず。けれど例の声は頭に響いた。

『レベルアップ』『レベルアップ』『レベルが十五になりました。《影スキル、影渡り》取得。』 


 僕はそれを聞くと同時に、糸が切れたかのように尻餅をついた。


「はは...」


 乾いた笑いに、震える手。


「怖かったぁー」


 いまだに力が入らない。いや、まじで死ぬかと思った。しかし生きている。それにレベルも上がり、スキルも取得した。

 レベルアップしたし、一応ステータスを確認してみるか。


「ステータス」


《二色 色》レベル15 職業、闇三段(中二病)。




体力38

魔力55

攻撃力17

防御力33

知力68《注、知能ではない。魔法効率の高低である》

速さ60

精神力14+2


《影釣り》影を使い対象を引っ張ることができる。


《影針》影を使い対象を幾重もの長針で串刺すことができる。


《闇霧》小規模の闇の霧を作り出し、対象へとその霧を当てることによってその霧内にある物を限界まで圧縮することができる。


《影渡り》影の中に入り移動することができる。影中にいるといえど自分のあるところの影を攻撃されればその攻撃は当たる。


《死への干渉》効果、精神力が2上がる。


《不屈の魂》効果、精神異常を低い確率で回避。


《主の狩人》効果、よわい魔物が寄らなくなる。


 


 おお。意外に強そうなスキルだ。

 いや、しかし。今日はもう疲れた。今日のダンジョン探索はこれで終わろうと考え、僕はなんとか立ち上がり、帰路についた。


 




 さて、家に帰り着いたもののまだ時刻は昼過ぎ。母さんが作ったソーメンを食べ、自分の部屋についたが、いかんせんやることがない。

 いや、やる事がないと言えば嘘になる。

 そう、夏休みの宿題だ。実は夏休みに入ってからというもの、新作のゲームとダンジョン探索に明け暮れていたので、そろそろやばい。

 日にちは8月の15日ということもあり、夏休みも残すところ15日。この夏休みは時間の流れが止まるダンジャン探索のせいか、いつも以上に長く感じる。いやダンジョン探索のせいだけれども。

 終わるものは終わるのだ。その前にやっておかないといけない宿題がある。

 やろう、と考えて筆記用具と宿題を机に出す。

 机に向かって、さぁ、やるぞっと思うも、目がゲームに行って仕方がない。

 あぁ、やはり僕は家で宿題ができないタチなのだ。平日は学校で終わらせてから帰るし、夏休みなどの長期の休暇も宿題は行きつけのカフェでやっていた。そこのカフェは所謂穴場というもので、客層は三十代からが多く、同級生がそこを使わないという利点があるのだ。

 よし、そこでやろう。

 善は急げだ。

 僕は身支度を済ませ、そのカフェへと足を向けた。





 店の中に入ると、耳に心地よいドアベルがカランカランとなり、雰囲気の良い店中の景色が広がる。物静かな、年配の女性に一名ですと指で指定して、案内された席は四人席だった。カウンターは他の客に使われており、どうやら四人席だけが残ったようだ。


 さて、やるぞっと思った矢先、ドアベルが再度なった。どんな客かと思えば、クラスの同級生である矢田部、竹内、宮川、それに高坂だった。矢田部は所謂イケメンで頭も良く、女子の注目度はトップクラスと言っていいほどのやつで、クラスの中心的人物。親が医者らしい。竹内もチャラ男的な雰囲気があるがイケメンでこちらも中心人物だ。宮川はクラス委員をやっており、髪は艶やかに伸ばして、発育もよく顔もいい。それに分け隔てのない態度は男女共に評価が高く、こちらもクラスの中心的存在。高坂は、すらっとした体躯で、ツインテールを携えており、こちらも可愛いらしい容姿だ。態度にはトゲがあり、お嬢様系だろうか。クラスの女子の仲ではクラス一番のカースト上位と言ってもいいだろう。

 そんなカースト上位の猛者どもが、ご来店してきた。


「へぇー、結構雰囲気いいじゃん。」


 宮川は辺りを見て、そんなことをいう。


「だろ? オレがこの前見つけたんだぜ」


 竹内が誇らしげにいう。


「いや、俺とお前で見つけたんだろ」


 矢田部がそう突っ込むと、他三人は吹き出した。


「やっぱり竹内っていつもちょーしいいよね」


 クスクスと宮川は言う。


「何名様でしょうか?」


 と、そんな談笑中にウェイターをしている趣のある年配の女性は問うた。


「あ、四名です」


 先頭の宮川が率先していった。


「こちらにどうぞ」


 そういい、ウェイターさんはこちらに向かってきて、僕の後ろの席を指定した。

 四人は、それに従い席に座り出す。


 僕と言えば、とにかく影を薄くしていた。まぁ、僕がいると気づいても、挨拶なんかはないと思うが。


 四人は談笑を続けながらも、昼ごはんを食べに来たのか、それぞれが食べ物を注文して、食事を楽しんでいた。僕はその背後でそそくさと宿題をこなしていく。

 

 そうこうしてるうち1時間が経過した。

 矢田部たちはもうとっくに食事を済ませて、わいわいと会話に花を咲かせていた。


 と、ここでまたドアベルが店内に響く。 

 

 ペンを止め、少し視線をそちらにやる。

 そこには春原さんと東雲がいた。なんだ、あの二人か。


 僕はすぐに視線をノートに戻し、手を動かす。


 ん? 二人?


 僕は再度あの二人を見た。


 最悪だ。今一番会いたくなかった人たちだ。この前頂上バトルをしたかと思えば、僕を無理やり拉致し、さらには怪しげな煙で僕に何かしようとした二人だ。

 要注意人物だし、危険人物たちだ。


 頼む。ウェイトレスさん。彼女らを僕のいる机と離してから。頼む! 頼むぞ!


 が、その願いは虚しくも散った。なんとあの二人を僕の前の席に誘導したのだ。


 くそっ! 気づかれたら何をされるか分かったものではない。

 機を窺うのだ。影を最大まで薄くして、彼女らに気づかれないようにするのだ! 

 そうして帰れるときに帰る!

 今僕の中に燃え立つ闘士とは裏腹に、僕の気配はまるで自然の中に溶け込むようになる気がした。

 

 どうやら僕のスキルが高かったのか、いまだにバレてはいない。

 

 よし! これなら行ける。行けるはずだ。

 

 次! もし次に二人がメニューを見た瞬間。僕はそれを見計らって会計を済ましに行く!


 が、その目論見は矢田部の声で瓦解したのだ。


「あれ? 春原さんたちじゃん。こんなとこで会うのって奇遇だね。」


 なんと、僕の席を隔てて声をかけたのだ。


 うおい。矢田部、それは大罪だぞ。


「ん? あー、矢田部? くんだけっけ?」


 春原さんが思い出しながらそう言う。

 

 まだだ。まだバレていない! 僕はさらに影を薄めようとする。


「そうそう。違うクラスなのに覚えてもらえるのは光栄だね。ていうか、何? 二人ってそう言う関係だったの?」


 そう言う矢田部。

 

「へー、意外かも。このペアは」


 宮川さんは素直に驚いたように言う。


「...いんやー。クドとは前からの幼なじみでね。ただの腐れ縁ってやつだよ」


 最初の沈黙はめんどくささの表れなのか。


「...へぇ、そうなんだ。あ、もしこの後暇ならさ、俺たち今から近くのデパートで買い物とかするつもりなんだけど、二人もどう?」


 自然に矢田部は誘った。


「みんなもOK?」


「オレは全然いいぜー」


「私もぜんぜんいいよ。人数多い方が賑やかで楽しいだろうし」


「うちもいいよ」


 全員了承した。春原さんたちはいささか逡巡してるようだ。


「...んー、あたしたちは......」



 春原さんは断るのだなっと思った瞬間、不意に春原さんとバッチリ目があってしまった。

 あぁ、最悪だ。

 嫌な汗が出る。

 春原さんは僕をみつけると、にまぁっとした。

 うわぁ。怖い。


「あたし達もぜんぜんいいよ」


 にっこりと、そう答える。それに少し東雲さんも驚いているようだ。


「ただ...」


「ただ?」


 春原さんは少しためると、矢田部がおうむ返しをした。


「そこの二色君も一緒に連れてっていいかな?」


 悪魔のささやきを、少女は悪魔のような笑顔でそう言った。







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