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蝉の鳴き声

作者: 藍川秀一

蝉の鳴き声

藍川秀一


 太陽に押しつぶされそうになっているなか、ふと、蝉の鳴き声が耳に入る。夏が始まってから、初めて耳にしたように思えた。子供の頃はもう少し、身近だったような気もするが、今では遠い存在に感じてしまう。

 考えてみれば、外にいる時間が限りなく少なくなっていることに気がつく。自宅から会社までのわずかな時間しか、太陽に肌を晒していなかった。蝉の鳴き声が聞こえなくなっていたとしても、おかしくはない。

 一度意識してしまえば、蝉の声は鮮明に頭に響く。

 うるせぇ。

 久しぶりに耳にしたとしても、懐かしさのようなものを感じる余裕すらない。鬱陶しい鳴き声で、ストレスが少しずつ溜まっていくのがわかる。心なしか、昔よりも音量がでかい気がする。背が伸びたことが原因だろうか?

 こんなにもやかましいにも関わらず、七日しか生きることができないというのは、俄かに信じがたい。しかし、アスファルトの上に転がっている蝉の数々をみると、この鳴き声が命の叫びだと知る。そう考えればこの音もある程度は許容でき・・・

 うるせぇ。

 やかましいのは何一つ変わることはない。蝉が絶滅しない限り、このストレスは永遠に続くだろう。

 イヤホンで耳に蓋をして、蝉の声を遮る。そうして日常の中へと戻っていく。

 大人になると、一日の価値が少しずつ減っていき、日々というものが早送りで再生されていく。子供の頃はもっと、一日が長かった。休みの日には外に出て遊び、不安ながらも未来に希望を持っていた。

 今ではそんなもの、どこにも存在しない。時間というものをただ消化し、それだけで一日が終わりを迎える。

 悲しいことではあるが、それが大人になるということなのかもしれない。

 耳につけている、イヤホンを外す。

 いつの間にか、蝉の声は聞こえなくなっていた。


〈了〉

 


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