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五話目


二、三時間目は体術。

本気で血を吐く鍛錬をさせられる。

受け身に、的確に人や魔物の急所を狙う鍛錬をしたり、戦いスタイルに合わせて筋肉作りをする。

終わる頃には軽く貧血になりかけた。

それほど、純血の竜騎士になるためには強くならなければならないと言うことだ。

四、五時間目は薬学。

六、七時間目は召喚学を今日は学んだ。


ひたすらアンジュさんが作ったスケジュールをこなしながら、自分の作った自主練メニューをこなす毎日を続けた。


が、それから四年が経った今でも細身であることは変わらず。

身長も平均以下、髪はセミロングまでの長さまで伸びて後ろでくくっていること関係ないくらいの女顔の自分。


「だぁぁぁ‼︎ 不公平です!

こんなに鍛えても体格に恵まれないなんて!」


なんて、悲劇なことなんだろう⁉︎


「目指せ、肩幅の広い系男子!

このままじゃ、客観的に見れば皆から守られるヒロインポジションになってしまいます!

そんなのダメじゃないですか、筆頭候補としてヒロインポジションになるのは避けたいところです!」


空高々にそう宣言すれば、噴き出す声が二つ聞こえてくる。その音がした方向に、ぎこちなく顔を向ければ、今にも笑い出しそうな男性と男の子がいた。


「大丈夫ですか?」


窒息してしまいそうなくらいに耐えているから、怒る気も照れる気も失せてしまった。

それを通り越して、今は申し訳なさを感じている。

そう声をかけた瞬間、男性だけが耐えきれなくなり、地面に転がりながら大笑いをした。




「すまない。

ヒロインポジションになってしまう発言があまりにも可笑しくて……」


十分笑って、冷静さを取り戻した男性は謝罪してくれたが、笑い転げる姿を見たら怒りすら湧けなくなったから、素直に彼からの謝罪を受け取ることにした。

それよりも、今は何故にヒロインポジションになってしまう発言に笑われてしまったのかよくわからなくて、キョトンとした顔をしてしまう。


「ヒロインポジション発言のどこらへんが可笑しいんですか?」


あっ、まずい。

思わず、心の声が出てしまってた。

男性はそんな僕を優しく撫でながら、


「アンジュ様も、他の筆頭の方々もそのような発言をするような方はいなかったし、それに守られているような方達ではなかったから、守られてばかりだったし、そんな発言されるような方は今までいなかったんだよ」


そう言う割には、男性は嬉しそうな顔をしていて、僕は不思議に思った。

守られてばかりだったなら、悔しい顔をしてもおかしくないのにどうしてそんなに嬉しそうな顔をしているんだろうと。

でも、流石にそれは聞けなかった。

……今は聞くべきではないと思ったから。


「僕の能力的に、客観的に見れば守られてばかりいるように見えてしまうから、ヒロインポジションになっちゃうのかなと思ったんですよ!

僕だって、五年間毎日ずっと鍛えてきたのに見た目に反映されないんですよ……」


頭を抱えて、大きくため息をつけば、


「それを利用すれば良いのでは?

あなたの容姿は油断を生み、隙を作る。

それもまた作戦なのでは?」


なるほど。

あえて、開き直ってヒロインポジションになれと。


「それもそうですね、その方が僕にとっても良さそうです。それならば、レディーとしての振る舞いも学んでおいた方が良さそうです」


念には念をってやつですよ。

小説にも、レディーの振る舞いが的確に表現されていた方が読み手にも、さらに自分が貴族令嬢になったような気分になることが出来るだろうし、戦いの場面では油断を作る可能性を作ることが出来る、一石二鳥だ。


「はっ?」


おー、仲良しだなぁ。

男性と男の子、綺麗に声が揃って、同じような反応をしていた。

まあ、それはあえてのスルーだとして。


「ウォン」


ギンノスケの声が聞こえる、近くにいるようだ。

しばらく一時停止をしていると、二人はキョトンとした顔をした。

数分後、草むらからギンノスケが現れて、背中にまた何らかの動物の尻尾がみえた。

近寄ろうとすれば、ギンノスケは自ら駆け寄って来てくれた。


「また拾って来たの? ギンノスケ」


ギンノスケは頭が良い。言葉を理解している。

だから、YESかNOかで答えられる質問にならちゃんと答えられるのだ。

意思疎通を使わなくても、理解出来る質問にはちゃんと答えてくれる。


「ウォン」


まあ、見ての通りYESだ。

NOの時には返事はせず、ただ見つめるだけしかして来ない。

質問の意味がわからない時はちゃんと首を傾げるのがギンノスケクオリティー。


ギンノスケのこともあるし、お客様もいるし、そろそろ自宅に帰るべきだな。


「アンジュさんに用ですよね?

ここには、アンジュさんに招かれたお客様しか来られないようになっています。行きましょう? 知っているかもしれませんが、案内します」


慣れてないとここ、案内がないと迷うぐらいにここの地形は難しいからなぁ。

何度、今よりも幼き頃に迷子になって、ギンノスケに迎えに来て貰ったことか。今でも、ギンノスケを呼べる笛を持ち歩くほど、トラウマになった。

まあ、これはお守りみたいなものだ。


「ここの地形を完全に把握しているのは、ギンノスケくらいなものです。

あまり慣れてない場所にいくと、ここに住んでいる僕でさえも迷いますから、ちゃんとついて来て下さいね。この場所には来慣れてますから迷うことはないですけど。

ね、ギンノスケ?」


ギンノスケの方に視線を向ければ、


「ウォン」


同意をしてくれた。

一連の会話から、男性はギンノスケのことに興味を持ったのか、質問を投げかけてきた。


「ツキノオオカミだよね、ギンノスケくんって」


そうですねと答えようとしたが、ギンノスケはお喋りが最近のマイブームなので、彼がちゃんと答えるだろう。


「ウォン」


あ、やっぱり?

返事すると思った。


「え、君が答えてくれるの?」


男性は驚きを隠せないようだ、意思疎通を使わなくても会話が出来るのは彼らの中でもギンノスケと、ゴールデンレトリバーのような容姿をしているゴールだけだ。


「ウォン」


そう返事して、歩きながらちらりと一瞬だけ男性の方を見た。

その動作は、早く質問してこいよって言ってるな?


「全部答えてくれるのかな?」


それには首を傾げて、僕の方へと視線を移した。

あ、これ。意思疎通をして欲しい時の合図だと察した僕は歩くのをやめれば、ギンノスケはお座りをしてただただ僕を見つめた。

意識をギンノスケに集中すれば、言いたいことが何なのか伝わって来た。


「理解出来るのは答えてあげられるけど、全部は無理だよ。僕は完全に人間の言葉を把握している訳じゃないから、答えられないものもある。

僕とお喋りがしたいなら、はいまたはいいえで答えられるやつにしてよね。言葉が理解出来なかったり、意思疎通をして欲しい時は首を傾げるからさ。

まあ、僕もいつも暇な訳ではないから、答えられない時もあるけど、今なら良いよってギンノスケが言ってます」


ギンノスケも面倒見が良いからね〜、律儀だよね。


「……まじか」


まあ、ここまで長文で文章が成り立っているのはギンノスケくらいだし、相当難しいことを言わなきゃ、大体は答えられるんだよね、ギンノスケって。

驚くのも無理もないけど。


「ウォン」


初めてのことで頭が整理つかないのか、


「また後で暇な時にたくさんお喋りをしよう、ギンノスケくん」


と、そう言った。それは無理もない、ツキノオオカミは本来なら警戒心も強く凶暴な性格が多いと言われている。

ギンノスケはその中でも異例中の異例。

頭を整理してから話した方が、飼い主に似て心配症なギンノスケの為にもなる。


「ウォン」


後で暇な時にお喋りをしようと言ったところで、ギンノスケは慈愛深い性格なので怒ったりしないしな。

それより、さっきから男の子が黙ったままだな。慣れない人がここに来ると魔力酔いしたり、登山病になったりするから心配だ。


「体調は大丈夫ですか?

魔力酔いとか、登山病になる人がお客様の中にいるんですよ。体調が悪かったら遠慮なく言って下さいね? 薬を常に常備していますから」


振り返らずにそう言えば、


「体調は大丈夫だよ。ギンノスケくんに会ったのは初めてだけど、アンジュ様に会いに来たことは何回もあるから大丈夫。

シエルは大丈夫か?」


シエルは大丈夫か? と聞くと言うことは、ここに来たのは初めてと言うことか……。


「大丈夫です。魔力に満ちた山の登山経験はありますので、今のところは平気です」


魔力に満ちている山ってここだけじゃないんだ、初めて知った。興味深い。

でも、人見知りみたいだし、まだ会話をするには過ごした時間が短すぎる。

気になるけど、今は遠慮しておこうと考えているうちに自宅が見えてきて、ギンノスケが歩くペースを速めた。


……そう言えば、昼の分の見回りが終わった頃の時間だったな……。僕の気配が近くにあったから、お腹は空いてたものの、迎えにきてくれたんだろうな。


「着きましたよ」


さて、これからどうなることやらワクワクが止まらない。




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