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四話目


「ソルティ!!」


アンジュさんが焦るような声で呼んだから、僕は何事かと思い、呆けたような顔で振り返れば……、強く肩を掴まれた。


「ソルティ! ティカロの後を継ぐつもりなのか⁉︎ あいつらは、余所者を差別するような奴らだ、本当ならティカロだって……あそこに残したくはなかったくらいなのにお前があそこに行くと考えるだけで、儂は……」


心配症なアンジュさん。

心配しなくても、僕はアリシア国に行かないよ。

僕はね、竜騎士として、……そして小説家としてこの世界を生きると決めたから。


「アンジュさん、僕の夢は二つあるんです。

一つ目はアンジュさんに竜騎士として認めてもらうこと。……そして、二つ目は小説家として生きることです。

ですから、僕はティカロ様の後継ぎにはなりませんし、そんな器でもありません。ただ、小説を書くための参考にどんなことをしているのか取材をしているだけです。

僕が目指すのは、読者に主人公になりきれる、憧れることの出来る小説です。それにはリアリティが必要だと考え、文学の好む性別はどちらかを聞き、女性だと教えていたので身分差に苦しむ少女と王子様の話を書こうと思いましてリアリティを出す為、色々質問していた訳です」


……僕は我儘なんです。

どちらか一つを犠牲にして生きて行くなんて、絶対に後悔して、困らせる自体を招く。

だったら、二つとも手を抜かないと覚悟を決めて、貫き通した方が良い。


「小説家ぁ? お前、文章なんて書いてること見たことないぞ。それなのに小説家になるだなんて、無理とは言わないが、無謀じゃないのか?

竜騎士になると言われた手前、儂はお前の人生どうこう言える立場じゃない。大変な役目をまた託してしまった儂には、お前の人生に介入する資格などないのだから。……それでも、心配はさせて欲しいなどエゴにもほどがある」


心配症だな、本当に。

そう考えた後、思わず声を上げて笑う。


「僕はね、竜騎士になれと言われて、はいそうですか、わかりましたと素直に応じるほど人間は出来ていません。ただただ、アンジュさんほどの方が魅了された竜騎士と言う職業に興味があるだけなのです。

今、初めて竜騎士の為に勉強していることを知りましたが、それほど竜騎士と言う職業になることに違和感を感じないのです。ですから、僕の意志で竜騎士となります、勝手に大変な役目を押し付けたなど思わないで貰いたいですね。

僕が小説を書いているのを見たことがない? それは当たり前ですよ、あまりにこの世界を知らなすぎるから小説を書いていないだけです。

書きたい小説を書くだけではいけないのです、この世界を知って読者が主人公になりきれるような小説を目指していますから、この世界のことをたくさん知ってから初めて小説を書くと決めているんです。

それに、僕は小説を書いてないと気が済まない性なんですよ」


今だって、自分の中にある物語を文章にしたくてうずうずしている。だけど、あまりにも情報が少なくて、自分の思ってる通りの作品は出来ないような気がするから、書かないだけなのだ。


「僕はね、根っからの小説家気質なんですよ」


僕はただただ、微笑み続ける。

のちに言われることになる、長年生きたアンジュさんでさえも息を飲むほど雰囲気が豹変したと。





「折角来たんですからもう少し休んで行かれたら良かったのではと僕は思いますけどね」


フォルテさんが使っていたシーツを布団から外してしながら、軽く部屋を掃いているアンジュさんに声をかければ、


「あいつの不在はあってはならないんだよ。儂もそうだったよ、自由なんてなくて魔法師が国そのものなんだよ。魔法師がいなくなれば、国そのものが滅ぶ。

魔法師が他国に行く分なら問題ないが、暗殺されたらその間その座が空白になる。その空白すら許さないのが、アリシア国だ。空白を生んだ年に必ず、アリシア国は危機に瀕する。

滅ぶか滅ばないかはその魔法師次第と言うことだ、つまりアリシア国は魔法師に頼らなければ国として自立出来ないのさ」


ふーん、アリシア国にもそんな弱点があったのか。

まあ、どの国にも弱点がない訳ではないだろうけど。


「逃げ出したくなりますよね、そんな状況じゃ」


魔法師が国そのものだと言うのなら、全ての責任がティカロ様の重荷になっていると言うことなのではなかろうか?

戦に負けたこともティカロ様の責任。

犯罪が多発することもティカロ様に責任にされる。

国そのものだと言うのなら、展開も結末も全て彼の一部だと言うことになるんだろうか?


「……いつか、アリシア国は壊れてしまいそうですね。それがティカロ様の代でないことを祈るばかりです」


あの方は他人ばかり気にして、自分に厳しい人だってこと、会ったばかりの僕でもわかったから、アリシア国が壊れる前に、ティカロ様がこのままでは壊れてしまうような気がして怖かった。

その恐怖を察したかのように、アンジュさんは、


「そうだな」


同意してくれた。

そう言ったアンジュさんの顔はどんな顔をしているんだろうか?

好奇心が恐怖心の方が勝ったのは初めてのことだった。

……今振り返ったら悪いことが起きるような気がしたから。




アンジュさんが空元気に振舞っていると何となくわかるが、家事や日課を済ませた後、いつも通りに勉強会が始まる。

僕も指摘せずに勉強道具を広げた。


「今日の勉強は竜騎士についてだ」


その言葉と共に、前世で言う教科書代わりになるプリントが五枚目の前に置かれる。

僕はいつも通り、アンジュさんに渡されたプリントを速読をすれば、終わる頃を見計らったかのように授業は始まる。


「通常、竜騎士とは龍と共に戦う騎士のことであるのはわかるな?

ソアルティはその筆頭と言う役目を任されている、王家に近い血を持つ貴族だ。もう、その血を持つのは儂しかいないけどな。

父上も、母上も、兄上も、弟もほとんどの部下達も戦死した。部下で生き残っているのはほんの一握りだ、そいつらもソアルティの技術を受け継いでいるのは確かだが、筆頭と言う役目をおうにはあまりにも時間のない奴らばかりだ。一番若いのでも三十代、その男は優秀なんだがな、弟子の指導に熱を入れるような奴だから無理だ。それに、純血の竜騎士の指導が出来るのは儂くらいなものだ、あいつにはソルティの支えとなる人間の育成を頼んである」


……抜かりのない人だ。

流石は急に王政を任されても、立て直せるくらいの度量を持つだけはある。


「純血の竜騎士になる為には、純血の竜騎士から知識を授かる。そして、動物との意思疎通が出来るのが第一条件。

意思疎通が可能なのは、あやつの弟子にはいなかった。悲しい、嬉しい、苦しい、寂しいみたいな感情を読める奴はいたがな、そいつは筆頭候補になることを拒んだんだよ。自分はなれる器ではないと。

第二条件として三体以上の龍と契約をすること。

第三条件として貴族としてのマナーを身につけなければならない。

第四条件として領主として振る舞えるくらいの知識を身につけなければならない。

第五条件として特例を除き、我々の血を他人には与えてはならない。純血の竜騎士になれば、儂と血の繋がっていなくてもソアルティの血が流れるのだ。輸血などしてはならないのだ」


輸血してはならない、そう口にしたアンジュさんはとても悲しそうだった。

……それにしても、感情を読めるのにも関わらず、筆頭候補にならないと選んだその人が気になるな。


「ソアルティの血が流れる純血の竜騎士は、特別だ。竜の目を持ち、竜の血を持つことにより、竜の能力を一つ授かった竜騎士のことだ。だからこそ、人一倍鍛えなければいけないのだ、その能力に振り回されて死に至ることがなかった訳じゃないからな」


覚悟を決めろって言うことか……。

そんなの、魔法がある世界だとわかった時から覚悟してた。

自分の命を守る為に、大切な誰かを守る為に自分の命を失う覚悟でいないといけないと。


「……覚悟を決めろと言うまでもないか。

竜には特性がある。毒を作成する竜や傷を癒すと言ったような特性が。

お前と相性がいいのは今言ったような特性か防御系の特性、無属性の特性とかな。攻撃はめっきり駄目だな、相性が悪すぎる」


攻撃系の特性と相性が良いのは、多分前世にいた環境による影響だろうなと何となく思った。

そんなのどうにでもなる、それより無属性とは何ぞや? と聞く前に、


「無属性とは飛行、時間を止める、時間を戻す、未来予知、空間を把握すると言ったような特殊な魔法のことだよ」


言われてしまったから、アンジュさんは心でも読めるのかなと思わず思ってしまった。

それは置いておいて、


「何で、どの特性が合うとかわかるんですか?」


そう聞いてみれば、アンジュさんは淡々とした口調を崩さずに、


「それはな、お前が薬を作成するのを好んだり、好奇心が旺盛だったり、なるべく傷つけないような戦い方をするからだよ。

特性とは、言わば性格と言うものに影響を受けやすいと言われている。だから、戦闘をすることを乗り気じゃないお前と攻撃の特製はあまりに相性が悪すぎる。

ちなみに特性は一人の竜につき、一つなのが基本的だ。稀に二つの魂を持つ竜がいて二つ持つものもいる。

儂もこれだけ長く生きているが、その竜を見たのは二人くらいだったよ。

それから、ソアルティでは竜のことを一人、二人……と数えるのが基本だからな、慣れないだろうから今から気をつけるように」


なるほど、参考になります。

僕はひたすら、アンジュさんの話にうんうんと相槌を打ちながら、簡潔にメモを取っていく。


「竜と契約するにはどうしたら良いんですか?」


新しいことを知れるのは幸せなことだ。

どんどん好奇心がくすぐられ、それが増えていくことによってその知識は僕の血肉になる。

……わくわくが止まらない!


「召喚術を使う。召喚術と言っても色々な種類があってだな、妖精召喚術か竜召喚を使用する。だから、竜騎士は召喚術も学ばなければならない。

大体の竜騎士は、竜召喚を使用するのが王道なんだが、ここでは妖精にも竜の姿をする者がいてだな、その妖精と契約しても竜騎士とされる。その妖精も、竜と同じように特性を持っていてだな、その特性は変わっているものが多い」


……妖精か……。


「お前なら、妖精の方に惹かれると思っていたよ。同じ気質を持っているからな。

だが、お前には竜召喚も学んでもらう。

お前も何れは学校に行ってもらう。山奥にその歳で引き込まれ続けては場数を踏めない。

その為には、純血の竜騎士ではなく、竜騎士として振舞ってもらわなければならない。その間に見極めろ、お前にとってどんな人間が心に支えになるのかを。

その為に、妖精召喚術を学ぶなら竜召喚も同時に学んでもらう」


内心で呟く前に、顔色で見抜くのはやめてほしい。

……確かに妖精召喚術の方に惹かれたのは事実だけど、ここまで見抜かれるとどれだけ顔に出やすいんだろうと落ち込むから。

まあ、妖精召喚術を学べるならどれだけ学んでも構わないのだけど。

むしろ、学べることが嬉しくてたまらない。

どんどん僕の中で眠らせている物語達が形になっていくから。


「……知識は宝ですから、学ぶことは好きです」


そう言えば、アンジュさんは僕の頭を優しく撫で、


「そうか」


そう言ってにっこりと笑うだけだった。







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