二話目
「……それでもね、俺はあの方に忠誠を誓わないことなんて出来ないんだ。
きっと、俺の代わりなんて何人でもいる、でもあの人の代わりは誰一人出来ないから身を呈してまでも護れたことは後悔してない」
人のことは言えないけどさ、馬鹿だね。僕の場合は息子だったけど、他人を庇って死にそうになるだなんてどれだけまっすぐな生き方をして来たんだか。
そんな人を失って悲しまないなんて言う人はいないと思うけど。
人間は失ってから初めて気付く、そんな生き物だからさ。
「あの、転移魔法がつかえるんですか?
見た感じ、つかえるようには見えないんですけど。ここでは争いごとはおきていないし、おそらく転移魔法をつかってここにきたと考えられるんですが」
男性の周りには、魔力の残留痕があったから恐らく何らかの魔法が使われたと考える。
ここら辺では争いごとは起きていないし、ここから離れた位置から飛ばされた。それを予測するに、その魔法使用者はかなりの魔法使いと予測される。
男性は身なりから考えて騎士だろう。
腰から下げている剣を見れば、恐らくそうだろう。魔法騎士と言うには、魔力があまり多い方ではないし。
仮に魔法使いが騎士に護られていると仮定すると……、彼がやってきたのは何処なのかは大体予想がつくんだけれど、生憎移動魔法の才能を持つものはここにはいないから、回復薬を飲んだばかりの人にはあまりに長旅過ぎる。
うんうんと唸りながら、どう対処をするか考えていると、
「……よく分かったね、俺は騎士だよ。
魔法も、幼い頃の高熱による後遺症で回復魔法しか使えないし、魔力が低いから、魔力回復薬がないと魔法を何回も使えない燃費が悪いやつだし、もちろん移動魔法も使えない。
ユーテシアと戦ってた時、暗殺騒ぎがあって、魔法師様のことを咄嗟に守って、怪我をし、気絶したら気がつけば知らない森の中で治療されてたとしか説明が無理だ」
幼い俺に手を引かれながら、歩く大人はようやく事情を話してくれた。
案外、彼が仕えている人が大物過ぎて反応に困った。
「ユーテシア国、武を正義とする軍国家。一族の長を帝とし、武と正義を貫く志とする一族。独特な呼吸法を用いり、持久戦を得意とする戦法で長期戦となればなるほど強みを持つ政法で戦う国のこと。現帝は、戦を嫌うとするハルフィン様。
ユーテシア国と長年戦が終わらない国、アリシア国。
魔法を愛し、慈愛を愛する博愛主義国。初代国王同士のいざこざにより、ユーテシア国と戦が続いているが、今のトップである魔法師はその戦を止めようと訴えかけ、ハルフィン様もそれに応じていて、話し合いをしているのが今の政治状況である。
現魔法師である、ティカロ様は優秀で天才肌と有名で一人の騎士にしか誓いを立たせなかった気難しい性格であると有名だが、一方、一部の噂では児童施設に寄付をしたりと身寄りのない子供達に過ごしやすい環境を目指していると言う噂がある。
中立を維持する、自然豊かな国、アイリス。あなたがいるのはここです。なかでも奥地の方にある山にあなたはいます」
だから、とりあえず状況を確かめるために言ってみたんだけど、軽く状況を説明しただけで二倍の情報量が返ってきたため、恐らく放心状態になっているんだろうと思う。
見た目が二歳くらいにしか見えない相手から、ニュースキャスターみたいな状況説明が返ってきたら驚くわな。
「……あってるよ。
俺はティカロ様の唯一の騎士。
恐らく、ティカロ様を暗殺しようとしたのは、反政府軍のテロだ。
……本来なら今からでも戻らなければならないけど、こんな身体では足手まといだし、ここにいた方があの方のためになる」
怒られた時のギンノスケのような顔をするもんだから、それまで居ていいよと言いかけたが、我慢した。長年の経験上、近いうちに魔法師様は彼の事を迎えにくるはずだ。
ティカロ様は彼にしか忠誠を誓わせなかった。
それには必ず、理由があるはずだから。
「……だいじょうぶですよ、魔法師様はかならずあなたのことをむかえにきます。
きっと、あなたしかちゅうせいをちかわせなかった理由があるはずです」
根拠のない自信だったが、必ず迎えにくると確信めいた何かがあった。
「ありがとう」
彼は少し寂しそうに笑った。
その理由が僕には分からなかった。
「着いたよ」
歩きながら話すと言うことは体力を奪う。
回復薬を飲んだとは言え、体力が完全に戻る訳ではないからあれ以降、何も聞けなかった。
それに、あんな顔をした理由を僕が聞いていい資格がないような気がしたから、あえて知らん振りをした。
「……お、大きい家だね?」
そう、彼が言う通り、アンジュさんの家はかなり大きいのだ。
家と言うより屋敷くらいの大きさだが、貴族と言う訳でもない。
彼はとある仕事を引退したと言っていたが、それがどんなものなのかは聞いたことがなかった。
「ギンノスケくらいの大きい動物がたくさんいるからね、これくらいの大きさじゃなきゃ、お世話が出来ないよ」
とだけ、答えておけば、彼は納得したような顔をしたから安心した。
僕もよくわかってないから、聞かれても答えられないんだ。
アンジュさんが何者だったのかは僕でさえも知らない、知るつもりもない。自分も前世の話を出来てないのだ、聞ける資格もない。
「……本当にそれだけなのか?」
「知りませんよ、そんなの。ぼくは三歳児ですから歴史は知っていても大人の事情までは知りませんよ」
名目上、慣れない拙い敬語を使っていたのをやめて、遠慮なしにそう言えば、
「君が三歳らしくないから言ってるんだよ」
気にもせず、そう話を切り返してくる。
何故にアンジュさんのことを知りたがるんだ? と内心、困りつつ、知らないものは知らないんだからしょうがないだろうよと考えながら、
「これについては本当に知らないんですよ。これ以上聞くと、無理矢理体力回復させますよ? 精神的苦痛を味わうめになりますが、よろしいですか?」
自宅のドアノブに手を掛けながら、にっこりと冷たい笑みを浮かべれば男性はこれ以上検索するのをやめたのを確認した後、ドアを開ければ、アンジュさんが出迎えてくれた。
そのアンジュさんの顔は珍しく厳しい顔で、何事かと思えば、男性は膝まづく。
「こんなところにいらっしゃったのですね、アンジュ様。突如、魔法師の資格をティカロ様にお譲りになり、部下に居場所を告げず隠居をなさるなど、あなたらしくないのではありませんか?
ここに私が運ばれたのは偶然ではないようですね、ティカロ様はあなたの居場所を知っていて、わたしの安全を守るためにこの地に飛ばされたと言う認識で間違いないでしょうか」
アリシア国では魔法師のくらいに就く者に対して、発言をして良いかを聞くのが礼儀とされている。それをしないと言うことはちゃんとアンジュさんの今の立場を弁えていると言うことだ。
つまり、男性にはアンジュさんに国に戻れと言う意志はないと言うこと、だから僕はただこれがどう転がるのか静かに見守っていれば良いと言うこと。
「……ティカロの着任についてよく思わない者がいる状況で、私の場所を特定されれば、ティカロの立場がない。
それでもこちらに君を飛ばしてきたと言うことは、君はティカロにとって信用に足りる部下と言うことなんだろうが、一応念を押しておく。君に出来ることは、私の居場所を黙っていることだ。君の主人が厄介ごとに巻き込まれるなど不本意であろう?」
只者ではないとは思っていたが、王家の人間だったとは思ってもいなかった。
と、言うことはだよ?
「僕は、アンジュさんの隠し子とかじゃありませんからね⁈ お家騒動とか勘弁ですよ⁈
あ、もしお家騒動になっている家があったら見学させて下さい!」
……まずい、本音が出た。
見学だけなら、お家騒動とか修羅場とか大好物なんだよね……、自分は巻き込まれたくないけど。
「……ソルティ、それは無理があるじゃろうよ。
それより、お家騒動の見学は教育上良くない。そんな悪趣味なことをするんでない」
……お家騒動見学はダメか……。
なら、修羅場見学なら……。
「ソルティ!」
鋭い目で睨まれてしまった。
……企んでることが何故にバレた?
「好奇心は自分の身を滅ぼすのだぞ、厄介ごとに巻き込まれるような行動を慎むように」
あーあ、やる前に釘刺されちゃった。
残念そうな顔をすれば、アンジュさんは呆れたようにため息をつかれたのでこれ以上はやめておこう。本気で説教タイムになりそうだし。
渋々従う感じになってしまったが、
「はぁい」
長く生きている人のアドバイスは聞いといたほうがいいと身に染みて知ってるので、わざわざ野次馬するのはやめておこうと思う。
「渋々と言った感じだが、まあ良いだろう。今度は何か企んでいると言ったような感じはないからの。
この子は二年前に拾った、儂の養子じゃ。この子は王家の資格を放棄するように申請してあるから、お家騒動にはならんよ。
儂は元々、王家の血に一、二を争うくらい近いとされる貴族の子として産まれ、王家の婿養子として迎えられた。そうと決定される前までは家業を継ぐことになっていたからの、その修行をしておった。急にそうなることに決まったのじゃ、反抗はしたよ。
儂は家業を愛していたからな、継ぎたかったのだ。それを学び続けることを認めてくれたから儂は王家の人間となったのだ。
儂の嫁はな、アリシア国では星読みと呼ばれる立場にいた女王でな、未来予知が出来るんだ。それは彼女の死後に知らされたことなんだが、女性の星読みは力が強力な分、長生きが出来ないそうだ。だから、彼女の後を継げるだけの魔力量、知識量、信頼性を見たら儂の名が挙がったそうだ。
今は儂の家系は、ティカロと娘らとその孫くらいだよ。だから、どうしても儂が愛した家業の後継者が欲しかったのだ、儂が死ぬ前に一人前にしたかった。
ソルティは王家の後継者として育ててるのではなく、今は亡き、ソアルティの家業、竜騎士の後継者として育てているのだ。
……だから、この子の存在も部下達には伏せておいて欲しいのだ。お前を、ティカロの唯一の騎士と見込んで頼んでいることを踏まえて、言動に気をつけて欲しい」
元魔法師であろうと、彼はけして男性に頭を下げてはならないのだ。
アンジュさんは、本来の性格なら頭を下げて頼みたかっただろうに。
「……承知致しました、アンジュ様」
だから、僕がアンジュさんの代わりに、男性だけにわかるようにペコリと頭を下げれば、
「……彼が作るアリシア国も、見て見たかったような気がしますが、彼もそれは望まないでしょうし、この件については墓場まで持っていく覚悟です」
一瞬、僕の方へちらりと視線を向けられたが、目を合わせないように視線を明後日の方へと泳がせる。
「……こんな好奇心の塊みたいな奴を、国のトップにさせるなど心配で儂が仙人になる覚悟をしなければならなくなるから、やめとくれ」
そんなに頼りないですかね、僕。




